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『ぎっくり腰』を発症した60代男性→“市販の痛み止め”を1日3回服用したところ…3週間後、待ち受けていた“恐ろしい事態”とは?

  • 2026.11.6
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは!現役内科医のDai.Sです。

「胃薬も一緒に飲んでいるから、痛み止めを続けても大丈夫」

腰痛や関節痛、頭痛がつらいとき、市販の鎮痛薬と胃薬をセットで毎日のように服用していませんか?実は、この「胃薬を飲んでいるから平気」という思い込みが、思わぬ重症化を招くことがあります。

今回は、まさにその油断から意識を失い、救急外来へ搬送されることになったある60代男性の事例をご紹介します。

ある月曜日の早朝6時ごろ、救急外来に1本の搬送要請が入りました。

「朝、トイレに行った後に倒れた。現在は返答もあり、明らかな麻痺はない」

失神発作を起こした60代男性のAさんが、ストレッチャーで運び込まれてきました。実はこの日は、ご夫婦で長年楽しみに計画していた海外旅行への出発当日の朝だったのです。

検査でわかったこと

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

到着時の血液検査を行うと、血液の濃さを示すヘモグロビン(Hb)値は10.5g/dL。成人男性の基準値(13〜17g/dL程度)を下回る貧血状態でした。

直腸診で黒っぽい便が少量確認されたものの、この時点では「立ちくらみ(血管迷走神経反射)」の可能性も残り、消化管出血による失神と断定までは至りませんでした。早朝のため緊急の胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)がすぐに行えない時間帯だったことから、鼻から胃へ細いチューブを挿入し、胃の内容物を確認することにしました。

チューブを通して引けてきたのは、赤黒い胃液。胃の中で現在進行形の出血が起きていることが強く疑われました。

当然ながら海外旅行は即座に中止し、そのまま緊急入院。同日日中に行った胃カメラ検査では、胃の出口付近に深い潰瘍ができ、露出した血管からじわじわと出血していることが確認されました。

内視鏡で金属クリップをかけて止血処置を行い、その後、出血の持続に伴って急激に進行した貧血に対して輸血治療などを経て、Aさんは約10日後に無事退院となりました。もしあのまま無理を押して飛行機に乗っていたら、上空の機内でさらに大出血を起こし、命に関わる事態になっていたかもしれません。

胃潰瘍を引き起こした原因とは?

なぜ、これほど深い胃潰瘍ができてしまったのでしょうか。

Aさんは3週間前に重いぎっくり腰を発症し、市販の痛み止め(ロキソプロフェン)を1日3回、毎日服用し続けていました。途中でみぞおちの違和感を覚えたため、市販の胃薬も併せて購入して飲んでいたといいます。

「胃薬を一緒に飲んでいるから大丈夫。胃は守られているはずだ」

そう思い込み、痛みが長引いても医療機関を受診していませんでした。

患者さんが勘違いしやすい「2つの盲点」

盲点1:市販の胃薬では「痛み止めによる粘膜障害」を完全には防げない

ロキソプロフェンなどの「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」は、炎症や痛みを抑える一方で、胃粘膜を保護する物質(プロスタグランジン)の生成を阻害し、胃の防御バリアを著しく低下させます。

病院で処方される強力な胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬など)とは異なり、市販の一般的な健胃薬や制酸薬では、この強力な粘膜障害を十分に防ぎきれないケースが少なくありません。

さらに危険なのは、「痛み止め自体の鎮痛効果によって胃の痛みが覆い隠されてしまう(マスキング効果)」ことです。胃潰瘍が進行していても自覚症状に乏しく、Aさんのように出血して倒れるまで異常に気づけないケースがあるのです。

盲点2:胃からの出血は「赤い血」ではなく「真っ黒な便」で出る

「お尻から血が出ていないから出血はしていない」と思い込むのも危険です。胃や十二指腸などの上部消化管で出血が起きた場合、血液中のヘモグロビンが胃酸と反応して黒く変色します。

その結果、便となって排泄される頃にはコールタール(道路のアスファルト)のように真っ黒で粘り気のある便(タール便)になります。Aさんの便が黒っぽかったのは、まさに数日前から胃の中で出血が続いていた決定的な警告サインでした。

見逃してはならない危険なサイン

以下の項目に当てはまる場合は、自己判断で薬を飲み続けず、速やかに医療機関を受診してください。

  • コールタールのように真っ黒で粘り気のある便が出た
  • 立ち上がったときの強いふらつき、動悸、息切れ、冷や汗がある
  • 痛み止めを数日以上続けており、みぞおちの違和感や胃の重さを感じる

特にふらつきが強く自力で歩けない、意識が遠のくような感覚がある場合は、迷わず救急外来の受診や救急車の要請を検討してください。

医師から伝えたいこと

市販の解熱鎮痛薬の添付文書(説明書)には、「長期連用しないこと」と明確に記載されています。

数日服用しても痛みが改善しない場合は、薬を漫然と飲み続けるのではなく、原因を調べるために医療機関を受診してください。処方薬であれば、胃粘膜への負担が少ない鎮痛薬を選んだり、より強力な胃粘膜保護薬を組み合わせたりする調整が可能です。

退院時、Aさんは「胃薬を飲んでいたので、まさか胃から大量に出血しているとは夢にも思わなかった」と振り返っていました。

痛み止めを服用する際は、「用法・用量・服用日数」を守るとともに、「便の色」や「貧血に伴う立ちくらみ」がないかにも意識を向けることが大切です。


執筆:Dai.S(ペンネーム)

現役の内科医(専門は消化器内科)。総合内科専門医、消化器病学会専門医、消化器内視鏡専門医、プライマリ・ケア認定医を取得。消化器病だけではなく、内科一般を幅広く診療中。

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