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超能力ヒーローエンタメ『ハイファイブ!』にカン・ヒョンチョル監督が込めた“人”への眼差し「ファンタジーは、必ず現実に足をつけていなければならない」

  • 2026.10.16

『サニー 永遠の仲間たち』(11)、『スウィング・キッズ』(18)など、個性豊かな登場人物たちが出会い、ぶつかり合いながらひとつのチームになっていく物語を描いてきたカン・ヒョンチョル監督。彼が、最新作『ハイファイブ!』(公開中)で選んだのは、ある日突然“超能力”を手にした、ごく普通の人々の物語。

【写真を見る】ワンソ役のイ・ジェインにかわいく演出するカン・ヒョンチョル監督

ある男から臓器を移植された5人は、怪力と超スピード、強靭な肺活量、回復能力といったそれぞれ異なる力を得て、寄せ集めヒーローチーム「ハイファイブ」を結成する。立ちはだかるのは、彼らの能力を奪って“神”になろうとするカルト教主。ファンタジーとコメディ、アクションが入り混じる、カン・ヒョンチョル監督らしさあふれる1作だ。監督に、超能力というファンタジーに込めた思い、そして現場で見つめ続けた俳優たちの素顔について聞いた。

「最もか弱く見える少女が、実は最強の超能力を持っている。アイロニーから生まれるおもしろさを出したかった」

「ハイファイブ」メンバー同士の丁々発止の掛け合いが楽しい! [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
「ハイファイブ」メンバー同士の丁々発止の掛け合いが楽しい! [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

「超能力者から臓器を移植された人々が、能力を受け継ぐ」というユニークな着想は、長年共に作品を作ってきたプロデューサーからの提案がきっかけだったという。「私自身、以前から超能力を題材にした映画を撮ってみたいという思いがありました。『それなら、一緒にやってみよう』と制作が始まったんです」。

「超能力はどうしてもファンタジーというジャンルになります。でも私は、ファンタジーは、必ず現実に足をつけていなければならないと思っています」。観客にとっても作り手にとっても、まったく新しい想像より、身の回りの日常から始まったほうが共感を得やすいという考えから、「私たちの周囲で日常的に出会うような人たち」に超能力を与えるアプローチが選ばれた。

「ハイファイブ」の中心にいるのは、心臓移植で怪力と超スピードを手に入れた少女ワンソ(イ・ジェイン)。その周りを、肺移植で人並外れた肺活量を得た脚本家志望のチソン(アン・ジェホン)、角膜移植で電磁波を操るヒップスターのキドン(ユ・アイン)、腎臓移植で謎の能力に目覚めた乳酸菌飲料配達員ソンニョ(ラ・ミラン)、肝臓移植で回復能力を授かった現場作業班長ヤクソン(キム・ヒウォン)らが固める。それぞれが移植された臓器と巧みに重なる超能力を身につけた、境遇も性格もバラバラな5人組。演じるキャストも同様に、注目の若手からベテラン、個性派まで、韓国映画界の実力派たちが顔をそろえた。

時速100kmで走るワンソ [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
時速100kmで走るワンソ [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

監督はワンソについて、「キャスティングに、少し意外性を持たせたかった」と語る。「映画の中では、最もか弱く見える少女が、実は最強の超能力を持っている。アイロニーから生まれるおもしろさを出したいと思いました」。当時すでに子役として高く評価されていたイ・ジェインだが、一人で作品を引っ張っていくような役の経験はまだ少なかった。その周りを、すでに主演経験のあるアン・ジェホンやユ・アインといった俳優たちが取り囲み、共に作品を引っ張っていく。こうした構図自体におもしろさを感じたという。

実は監督とイ・ジェインの出会いには、意外な前史がある。主要キャストの中でオーディションを受けたのは彼女だけだったというが、以前に、ある授賞式で偶然見かけたことがあった。「彼女がいまよりずっと幼かったころですが、とても魅力的だったんです。それでInstagramをフォローして、成長していく過程をずっと見守っていました」。脚本ができた時点で、すでに「この役はイ・ジェインさんが演じたらいいな」と考えていたと明かした。

【写真を見る】ワンソ役のイ・ジェインにかわいく演出するカン・ヒョンチョル監督 [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
【写真を見る】ワンソ役のイ・ジェインにかわいく演出するカン・ヒョンチョル監督 [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

「パク・ジニョンさんがアーティストとして積み重ねてきたエネルギーが映し出されている」

肺移植で人並み外れた肺活量を得たチソンは脚本家志望のオタク青年 [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
肺移植で人並み外れた肺活量を得たチソンは脚本家志望のオタク青年 [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

脚本の段階から唯一イメージしていたというのが、アン・ジェホンだ。「実は近所に住んでいるんです。すばらしい俳優である以前に、親しい友人でもあります」と監督は明かす。「アン・ジェホンさんは、本当に優れた俳優である一方で、どこか自分たちの周りに普通にいそうだと感じさせる人。好感度も高い」。人柄そのものを、役にかなり溶け込ませたという。どのように反映したのかと尋ねると、「それは企業秘密なんですけどね(笑)」としながら、素のアン・ジェホンが持つ親しみやすさが、どこか抜けたところのあるシュールな魅力として画面に滲み出ていると語った。

ラ・ミランには、「すごく少女のような一面がある」ことに惹かれたという。「劇中のキャラクターも、とても純粋ですよね。そうした少女のような部分を最大限に引き出したいと思いました」。長年舞台で鍛えたコメディセンスと、人情味のある演技力を併せ持つラ・ミランだからこそ、その無垢さがソンニョというキャラクターに説得力を与えている。

治癒能力で負傷者を助けるヤクソン [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
治癒能力で負傷者を助けるヤクソン [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

ヤクソンを演じたキム・ヒウォンについては、キャスティングの狙いをこう明かした。「現在の韓国映画では悪役のイメージが非常に強い俳優なんですが、本作ではとても善良な人物を演じています。意外性と、俳優として持つ演技の幅広さを見せたかった」。「ハイファイブ」を演じる5人のなかで最年長のキム・ヒウォンは、複数の人が同時にアクションをするシーンで自然とチームをまとめる役割を担っていたといい、「交通整理をしてくれたんです。まるで幼稚園の先生の後ろを園児たちがついていくような感じで(笑)」と現場での様子を振り返った。

一方、これまでとは大きく異なる顔を見せるのが、GOT7のパク・ジニョンだ。膵臓の移植によって全盛期の若さとパワーを取り戻したカルト教主ヨンチュンを演じ、これまでのクリーンなイメージを覆す悪役へと変貌を遂げた。初めての本格的な悪役への抜擢について、監督は「過去の出演作を見て選んだというより、純粋に本人が持っている強烈な印象に惹かれました」と語る。「カルト教団の教祖として舞台の上に立ち、大勢の信者を圧倒するカリスマ性を見せる場面があります。あのシーンには、パク・ジニョンさんがパフォーマンスをするアーティストとして普段から積み重ねてきたエネルギーが映し出されていると思うんです」。老年期のヨンチュンを演じるシン・グとの二人一役も、本作の見どころのひとつだ。

悪役に挑戦したパク・ジニョン [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
悪役に挑戦したパク・ジニョン [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

現場の空気感について聞くと、「これまで何本か映画を撮ってきましたが、俳優運に恵まれていることが一つの財産だと思っています。今回の『ハイファイブ!』は、いわば善良な俳優たちの決定版のような現場でした」と監督は語った。なかでも印象的だったのが、劇中で不倶戴天の敵のように激しく殴り合うパク・ジニョンとイ・ジェインの姿だという。「『カット!』の声がかかった瞬間、2人ともお互いに『ケガしてない?』と気遣うんです。そして『いまのカット、うまく殴り合えたね』と喜び合う。そういう姿がたくさん記憶に残っています」。

「私はいつも“人”についての物語を作りたい」

超能力者同士のド迫力バトルが展開! [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
超能力者同士のド迫力バトルが展開! [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

『サニー』『スウィング・キッズ』同様、本作でも音楽が物語を力強く後押しする。印象的なシーンで流れるのは、スマッシング・パンプキンズの「I Am One」やスナップ!の「The Power」。選曲についての哲学を、監督はこう明かす。「音楽は、姿は見えず音だけで存在する“第三の俳優”のようなものだと思っています。その場その場で登場人物を助けたり、人物と一体になったりしながら、物語を前へ進める手助けをしてくれるのです」。

アクションの設計にも妥協はない。「絵コンテは、どの映画でも全カットを一つひとつ詳しく描きます。私にとって絵コンテは映画の準備そのもの」。VFXを多用する今回は、撮影・美術・特殊効果・CGIの全部署が週3〜4回集まり、何か月も議論を重ねたという。「口の中がカラカラになるほど、徹底的に話し合いました(笑)」と監督はジョーク交じりに語るが、その積み重ねが、本作のアクションに説得力を与えている。

カン・ヒョンチョル監督は厳しい労働現場や家族の絆といった韓国の社会背景も織り交ぜた [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
カン・ヒョンチョル監督は厳しい労働現場や家族の絆といった韓国の社会背景も織り交ぜた [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

『サニー』『スウィング・キッズ』と重なるもう一つの特徴は、異なる背景を持つ人々が一つのチームになっていく物語であることだ。アンサンブルへのこだわりについて聞くと、監督は自身の映画作りそのものへの共通点を語ってくれた。「映画は絶対に一人ではできない仕事です。たくさんの人が同じ思いを共有し、一つの目標に向かって完成させていく。いい人たちに出会って一緒に仕事をする、その方法自体が、複数の人物が集まり共に成長していく物語とどこかつながっているのだと思います」。

時代や戦争を映し出した『スウィング・キッズ』同様、本作も社会の現実を描き出す。「ハイファイブ」の5人が終盤に駆けつけるのは、劣悪な環境で働かされる若い労働者たちが閉じ込められた作業場。この場面について尋ねると、監督は「特に『労働問題について語ろう』と考えていたわけではありません。ただ、不合理なことや社会的弱者への扱いの問題は、韓国だけでなく日本も含め、世界中の労働環境にある。それは他人事ではなく、多くの人が実際に経験している社会の構造だと思うんです」と語った。

現代に必要なヒーロー像について、監督はこう言う。「いま、世界中で人々がお互いを憎んだり嫌悪したりすることが、以前よりもはるかに強くなっているように感じます。それは、ある種の感情的な欠乏から来ているのではないか。だからこそ、特別な能力がなくても、身近な人にいつでも慰めや安心を与えることができる。それだけで、十分にすばらしいヒーローになれるのではないかと思っています」。

『サニー 永遠の仲間たち』『スウィング・キッズ』を手掛けた韓国映画界のヒットメーカー、カン・ヒョンチョル監督 [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
『サニー 永遠の仲間たち』『スウィング・キッズ』を手掛けた韓国映画界のヒットメーカー、カン・ヒョンチョル監督 [c]2025 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

超能力をひとつだけ使えるとしたらなにがいいか尋ねると、「ヤクソンが持っている、治癒する力ですね。年齢を重ねてくると、いちばん欲しくなります(笑)」と答えた。次回作もすでに準備中だという。「ファンタジー的な要素は入りますが、人間関係や、私たちが歩んでいく人生の軌跡について考えながら作っています。結局、私はいつも“人”についての物語を作りたいんだと思います」と語った。

そんな「人への眼差し」は、日常のなかにも向けられている。「地下鉄に乗っている時も、周りの人たちを見ながら、いろいろ想像しています。一人ひとりについて、『この人にはどんな過去があったのだろう』と。特に年配の方を見ると、『この人は子どものころ、どんなふうに育ったんだろう』と、思いを膨らませ、小さな子どもたちを見ると、『大きくなって、どんな人生を送るんだろう』と考えています」。こうした日々の細やかな観察が、監督の物語作りを支えているのだろう。

取材・文/桑畑優香

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