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押井守が分析する、ロバート・アルドリッチ監督の一貫した作家性「みんなアツくなる、人生訓そのもの」【押井守連載「勝手にジャンル。」第2回後編】

  • 2026.10.8

映画を観るうえで指標の一つとなる“ジャンル”。押井守連載「勝手にジャンル。」では、押井監督が「ホラー」や「SF」など一般に周知されているジャンルではなく、独自の目線で“新しいジャンル”をつくり、さらなる映画の愉しみ方を追求していきます。

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今回の連載では、一つの新ジャンルにつき連載3回分、代表的な作品を例に挙げつつ押井監督が解説していく形式となっています。第2回後編では「コーチ映画」について、前編に引き続き『北国の帝王』(73)を取り上げ、アメリカで「コーチ映画」が多い理由や、日本のスポ根ものとの違いなどを語っていきます。

「コーチ映画」と「スポ根」の違いは? 撮影/河内彩
「コーチ映画」と「スポ根」の違いは? 撮影/河内彩

「アルドリッチの映画はすべての作品に一貫性がある」

――今回は『北国の帝王』の後編です。押井さんの大好きな監督ロバート・アルドリッチの作品ですが、彼の撮った映画はほぼ「コーチ映画」。しかも私たち観客をコーチしてくれるとおっしゃっています。

「そうです。アルドリッチは夢物語を語らない。『北国の帝王』でも語っているのはホーボーという世界で“帝王”になることでしょ。限られた世界で勝つということがアルドリッチ流のリアルなんです。しかも彼が描く男たちは自分の目的意識以外に動機のない者たち。いうなればエゴイストばかりなの。『ロンゲスト・ヤード』(74)では刑務所に収監された元花形アメフトプレイヤーのバート・レイノルズが看守チームに勝つことに情熱を燃やすじゃないの。お前らが勝ったら刑期を伸ばしてやるなんて脅迫されても勝つことを選ぶ。『飛べ!フェニックス』(65)では飛行機が不時着した砂漠から生還するという共通の目的があって、鼻もちならないドイツ人とも組む。自分のことしか考えない人間だからこそ隣の人間と手を組めるものなんです。第二次大戦を舞台にした『特攻大作戦』(67)もそう。限りなく成功率の低いミッションにならず者12人で組織した分隊を投入するわけだけど、共通の目的さえあればエゴイスト同士が手を組めることを描いている。そういうヤバい連中が紡ぐ信頼関係だから普通のそれよりもアツくなっちゃうんですよ」

前科者ばかりを集めた特殊部隊の活躍を描く『特攻大作戦』 [c]EVERETT/AFLO
前科者ばかりを集めた特殊部隊の活躍を描く『特攻大作戦』 [c]EVERETT/AFLO

――わかります!『特攻大作戦』、アメリカの監督大好きですよね。ジョー・ダンテも『スモール・ソルジャーズ』(98)でやっていたし、ジェームズ・ガンの『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』(14)は宇宙の『特攻大作戦』だったし『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、結集』(21)もそう。ガン自身、「めちゃくちゃ好き!」と言っていましたから。

「そうです。みんなアツくなっちゃうんです。

やっぱり、アルドリッチの映画って1本語ることでは終わらないの。すべての作品に一貫性があって、それは『攻撃』(56)のころから変わってない。微妙に立場を変えながら共通のテーマを探っていた監督だよね。では、その根源はどこにあるかといえば赤狩りですよ。彼は当時、進歩的なインディペンデントのプロダクションに所属していて、そこで(チャールズ・)チャップリンやジョゼフ・ロージー等の作品で助監督をしていた。彼らは赤狩りで海外追放されたり亡命したりした映画人で、そういう姿を間近で見ていたんですよ。自身の長編デビュー作でもハリウッドから干されていた役者を起用したんじゃなかった?」

名優エドワード・G・ロビンソン [c]EVERETT/AFLO
名優エドワード・G・ロビンソン [c]EVERETT/AFLO

――調べてみたら、それは『ビッグ・リーガー』(53)という映画でエドワード・G・ロビンソンですね。周囲の反対を押し切っての起用だったと書かれています。ダルトン・トランボにも『ガン・ファイター』(61)という西部劇で脚本を依頼しています。アルドリッチ、撮る映画と同じでめちゃかっこいい!

「そうです、だからアルドリッチはかっこいいんです。彼の映画には赤狩りのなかで裏切ったり、仲間を売ったり、刑務所に入れられたり、国外追放になったり、亡命したり…そういう映画人の姿を見てきた経験がすべて反映されている。必ず裏切り者が出てくる。でも、それをただ責めるだけじゃなく、一つの生き抜く方法として描いている。そこがいい」

「日本のスポ根の場合は『コーチ映画』が生まれにくい」

――押井さんはアルドリッチ作品のなかでもっとも好きなのは?

「うーん…なにかなあ…遺作の『カリフォルニア・ドールズ』(81)はちょっとユルいところがあるし…やっぱり『燃える戦場』(70)かなあ」

――えっ!マイケル・ケイン主演のあのユルい戦争映画ですか?『カリフォルニア・ドールズ』をユルいというなら『燃える戦場』はユルユルだと思いましたが…。一応、高倉健のハリウッドデビュー作ですね」

『特攻大作戦』の大ヒットを経て制作された『燃える戦場』 [c]EVERETT/AFLO
『特攻大作戦』の大ヒットを経て制作された『燃える戦場』 [c]EVERETT/AFLO

「描写というレベルで言うと確かにユルい。でも、中身はまるでユルくない。第二次大戦末期の某島のジャングルで、イギリス兵とアメリカ兵の混合部隊の使命はジャングル深くにある日本軍の無線通信所の破壊。ただし、その兵士、とりわけマイケル・ケイン演じるイギリス人兵士の本当の目的は『絶対に生きて帰ること』。これがアルドリッチなんです。『プライベート・ライアン』のように命令遂行のためには死をいとわないとは違うの。戦死するのはダメ。生きて帰ることこそが重要なんです。それが目的になれば戦術は大切。日本兵の高倉健を殺すのは目的じゃなくて手段だから。その結果として、ケインたちは誰にもまねできない戦術を駆使して帰還するんです。アルドリッチらしさが詰め込まれた、これは人生訓そのもの。だから『コーチ映画』なんです」

――そんなに熱弁されると、もう一度観て観ようかという気持ちになりました。

「アメリカにコーチ映画が多いのは歴史的な背景もある。ハリウッドには最初から、国家を統合しなきゃいけないという使命があった。なぜかといえば、アメリカは多民族国家だし、“United States”が意味する独立した主権をもつ各州が一つにまとめられた連邦国家だからだよ。ハリウッドには、生まれた時から指導者としての役割があったということです。要するに国民を教育するんだよね。だからコーチ映画がたくさん作られることになった。

一方、ヨーロッパ映画の場合は個人の自由から出発するのでそんな映画はあまり作られない。そもそも階級社会だからコーチ映画は生まれないんです。では、日本の場合はどうか?日本においては映画が大衆娯楽だったので、日本人の好きそうな母子もの等のお涙頂戴系が量産された。それに、コーチ映画系になると大体は根性ものになっちゃう。『巨人の星』がそのいい例。スポ根ものですよ。アメリカの場合はあくまで職業の一つで、そのなかでいかにして自分のポリシーを打ち出すか。これがテーマ。だから別に優勝しなくったっていいんです」

アメリカに「コーチ映画」が多い背景を解説する押井監督 撮影/河内彩
アメリカに「コーチ映画」が多い背景を解説する押井監督 撮影/河内彩

――確かに日本のスポ根の場合、優勝を目指すものが多いですね。

「私が昔やっていた『一発勘太くん』もたとえ少年たちの草野球であっても最後は全国大会まで行かなきゃいけない。『アタックNo.1』もそうだったでしょ。世界選手権での優勝、No.1になることだよ。

もう一つ、日本のスポ根の場合は自分の果たせなかった夢を子どもに託す系が多く、他人が他人を指導するというスタイルは稀。そういう意味で日本でコーチ映画は生まれにくいよね」

取材・文/渡辺麻紀

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