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監督に“惚れ込まれた”【コワモテ俳優】執念で口説かれた“情けない男”役で主演男優賞→『踊る大捜査線』最新作でも輝く逸材の原点

  • 2026.10.22
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2001年10月、映画『空の穴』に主演した寺島進(C)SANKEI

25年前の2001年9月、東京・渋谷の映画館「ユーロスペース」は、若い映画ファンの熱気にあふれていた。熊切和嘉監督の映画『空の穴』の初日である。

満員の客席を前に舞台へ上がった主演の寺島進が口火を切ったのは、作品の手応えでも主演としての気負いでもなく、なんとその朝の星座占いの話だった。

演じた主人公・市夫の乙女座が最下位の12位で、自身の蠍座が11位だった。晴れの主演作の初日に、役と本人が揃って最下位争い。その不運を、集まった観客への感謝へと変えてしまう。気取らず、照れ屋で、どこまでも人間臭い。寺島進という役者の粋が、そこには凝縮されていたと思う。

役も本人も最下位争いの朝

朝早くの上映回にもかかわらず、劇場内は定員を大きく超える観客で膨れ上がり、通路まで立ち見が出る大盛況だった。

登壇したのは熊切監督や寺島、ヒロイン・妙子役を務めた菊地百合子(のちの菊地凛子)ら7人。全員がお揃いで、劇場でも売っている映画の絵柄のTシャツを着ているあたりに、チームワークのよさがうかがえる。寺島は「この名作に関わって、自分は二つ癖が出来ました」と語り始めた。

朝に天気予報を見る癖と、同じく朝に星座占いを見る癖だ。その朝の占いで役と自分がワースト1・2になってしまい、参ったなと思った。

だが、天気予報は秋晴れのいい日を告げていた。そして目の前には、通路まで埋まった客席がある。寺島は「ワーストも吹っ飛びました」と続けた。不運な占いすら、満員の客席への感謝の前振りに仕立ててみせたのだ。音楽の松本章も、自分も市夫と同じ乙女座でロマンチックだと言葉を重ねた。

さらに寺島らしかったのが、締めくくりだ。主演俳優らしい大仰な抱負を語るわけではない。恋愛をモチーフにした映画だから、見終わったら青空のようにオープンに、恋愛事でも何でもディスカッションしてほしい。そのうえで「いい酒でも呑んでくれたら嬉しいです」と結んだ。

映画の余韻を、そのまま客の日常や酒の席へと優しく手渡すような挨拶だった。

監督が送り続けた情けない男の脚本

寺島が演じた市夫は、北海道の外れのドライブイン「空の穴」を営む、覇気のない男。恋人に置き去りにされた妙子を店に雇い入れ、次第に想いを寄せていく。

『空の穴』は、血肉が飛び散る『鬼畜大宴会』で衝撃的なデビューを飾った熊切監督が、ガラリとテイストを変えて挑んだ恋愛映画だ。ロッテルダム国際映画祭で国際批評家連盟賞スペシャルメンションを受けるなど、内外の映画祭で注目を集めていた。

この映画の出発点には、監督の寺島進への強い思いがあった。

北野武監督の『ソナチネ』が大好きだった熊切監督は、そこに出ていた寺島が気になり、いつかこの人で情けない男の映画を撮ってみたいと強く思っていた。人の紹介で会い、酒を飲みながらその思いを打ち明けると、寺島も情けない男の話に乗って意気投合した。

そこからが監督の執念だった。熊切監督が脚本を書き直すたびに寺島のもとへ送り届ける。監督が自らストーカーのようだったと振り返るほどの熱意の末、2000年8月、北海道でのロケが敢行された。

監督が大阪芸大にいた頃のスタッフとベテランが入り混じるクルーは、ロケ先のドライブインに寝泊まりし、役者陣は近所の民宿へ。合宿のような雰囲気の、なかなかサバイバルな現場だった。

壇上からすぐ帰ろうとした主演俳優

初日の3カ月前、2001年6月の「ぴあフィルムフェスティバル」で国内初上映された際、壇上に上がった寺島は、すぐに帰ろうとして監督に引き止められる一幕があった。

改めて口を開くと、監督が大阪芸大にいた頃のスタッフとベテランの混成チームを「画期的で素晴らしいコラボレーション」と手放しで称え、そういう映画に出られたことを誇りに思うと一気に語った。最後は「緊張してベラベラ喋ってすみません」と謝ったが、ここまで全部が早口だった。

撮影現場で寺島が見せた面倒見のよさは、共演者たちの言葉にも残っている。

当時まだ新人だった菊地百合子は、この舞台挨拶で震えながら、何もわからなかった自分を助けてくれたスタッフ、そして寺島への感謝を口にした。のちに世界へ羽ばたく菊地だが、当時は女優としてやっていけるか不安だった時期。初めて大きな役をもらった『空の穴』をきっかけに、菊地は俳優の道を行くことを決めている。

大作の配役に名を連ねる

『空の穴』の初日からわずか4週後、寺島はもう一つの出演作『みすゞ』(五十嵐匠監督)の初日舞台挨拶に立っていた。

寺島が演じたのは、童謡詩人・金子みすゞの夫、信爾だ。劇中で常に首に巻いていた赤いマフラーは、実は寺島自身のアイデアだった。五十嵐監督によれば、中には首への触り心地がいいように薄い綿が入っていた。

『空の穴』と『みすゞ』の2本で、寺島は第11回日本映画プロフェッショナル大賞の主演男優賞を受賞。さらに北野武監督の『BROTHER』を加えた3作で、第56回毎日映画コンクールの男優助演賞にも輝いた。

いまや寺島進の名は、全国公開の大作シリーズの配役にも並ぶ。2026年9月に公開された『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』でも、シリーズおなじみの顔ぶれとともに、八重洲警察署刑事課の木島丈一郎を演じている。

だが、大作の配役に名を連ねるようになった今の寺島も、見終わったらいい酒でも呑んでほしいと客に語りかけたユーロスペースの寺島と、地続きのように思えてならない。

劇場で木島丈一郎の活躍を観た帰り道、ふらりと赤提灯に寄り、誰かと一杯やりながら、北海道のドライブインで恋をしていたあの情けない男、市夫の話をしたくなる。


※記事は執筆時点の情報です

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