1. トップ
  2. エンタメ
  3. 紅白“初出場”の翌日、元日に【突然の活動休止】32年前、人気絶頂ユニットが残した“背徳ソング”

紅白“初出場”の翌日、元日に【突然の活動休止】32年前、人気絶頂ユニットが残した“背徳ソング”

  • 2026.10.22
undefined
浅倉大介-1995年8月撮影(C)SANKEI

三部作という物語において、真ん中に置かれた「2枚目」は常に難しい役回りを背負わされる。始まりの高揚感は最初の1枚が奪っていき、結末の余韻は最後の1枚がさらっていく。前後に挟まれたその位置は、油断すれば単なる中継点に埋没しかねないからだ。

だが1994年秋、accessが放った10枚目のシングル『SCANDALOUS BLUE』は、そうした宿命を鮮やかに覆してみせた。それどころか、三部作の中で最も妖しく濃密な熱を放つ特異点となったのである。

同年、accessは夏から冬にかけて3枚のシングルを立て続けにリリースした。8月の『DRASTIC MERMAID』、10月の本作、そして12月の『TEAR'S LIBERATION』。「三部作」と呼ばれるこの連作の中編に掲げられたのは、「スキャンダラスな青」という穏やかではない色だった。始まりでも結末でもない曲が、なぜこれほど濃い色を放つのか。その理由は、当時の8cmCDに仕組まれた構造美から見えてくる。

access『SCANDALOUS BLUE』(作詞・作曲:AXS・朝霧遥)ーー1994年10月19日発売

前の夏を抱えて次の冬へ手を伸ばすシングルの構造美

短冊型の8cmシングルを手にとると、当時の彼らがいかに周到なメディア体験を設計していたかが伝わってくる。表題曲のほかに収められた2つのトラックが、その証拠だ。

ひとつは、組曲『SEQUENCE MEDITATION 〜超電導思考回路 第二楽章 混乱』。三部作に1楽章ずつ配された組曲で、前作が「覚醒」、次作が「解放」を担い、その狭間の本作が引き受けたテーマこそが「混乱」だった。目覚めた感情が解き放たれる前に訪れる最大の激震。三部作の設計図の上で、本作は感情が最も激しく軋む地点に置かれていたのだ。

もうひとつは、前作『DRASTIC MERMAID』のインスト版である。夏のアンセムが歌を抜かれた姿で秋の盤に同居し、表題曲で秋の憂いに浸ったあと、ディスクの最後で夏の記憶が静かに蘇る。前の物語の残り香を抱えたまま、組曲で次の季節へと橋を架ける中継点。リスナーの時間軸を心地よく揺さぶる仕掛けだ。

3枚の裏ジャケットを並べると1枚の写真になる仕掛けや、『CIEL』『小説ASUKA』と連動した漫画・小説へのメディアミックスも含め、約2か月おきにCDを買い揃える時間そのものが、連作の一部として綿密に設計されていたのである。

非常階段の影と結末なきサビのループが描く「混乱」のリアリティ

そうした緻密な枠組みの中心に置かれた表題曲は、息苦しいほどの背徳感をたたえた密室劇だ。

歌詞の舞台は非常階段の陰や人目を避けた夜。周囲の視線を恐れ、ため息をこぼしながら逢瀬を重ねる二人が描かれる。選ばれる場所はいずれも日常の表通りから半歩外れた裏側であり、相手は一貫して「君」とだけ呼ばれ、性別は最後まで明かされない。この匿名性と耽美な余白が、聴き手それぞれの心象風景を深く投影させた。

特筆すべきは、詞がどこにも結末を置かない点だ。別れも成就も訪れないまま、もう会わないという決意を翻すように歌はサビへと何度でも回帰していく。抜け出したいのに抜け出せない堂々めぐりのループ構造そのものが、抗えない中毒性となって耳を捉える。この循環を味わったあとで組曲の楽章名を見返すと、「混乱」という言葉の生々しさに唸らされるはずだ。

この危うい情念に説得力を与えるのが、貴水博之のボーカルだ。突き抜けるハイトーンだけでなく、ブレスの湿り気や艶、切迫した息遣いが、秘密を抱えた者の焦燥をリアルな体温で伝える。その熱を、浅倉大介が組む冷徹なデジタルビートと硬質なシンセサイザーのシーケンスが鋭く包み込む。過剰な歌声の熱と理知的な電子音の冷たさ。その火花散る摩擦のあいだに、タイトル通りの「青」が浮かび上がるのだ。

クレジットに刻まれた筆名と受け継がれるプロデュースの系譜

作詞・作曲のクレジットにAXSと並んで記された「朝霧遥」という名も見逃せない。

朝霧遥とは、のちにT.M.Revolutionをはじめ数々の浅倉大介プロデュース曲を手がける作詞家・井上秋緒の別名義だ。三部作で用いられたこのペンネームは、架空の物語世界をより純度高く立ち上げるための仕掛けでもあったのだろう。夜明け前の淡い霧を思わせるその名は、人目を忍ぶ恋の書き手として実によく似合う。

そしてこの名を起点に人脈をたどると、当時のデジタルポップスを牽引した制作の系譜が浮かび上がってくる。浅倉大介がTM NETWORK(現・TMNETWORK)のサポート出身であることは広く知られているが、accessのプロデューサー・井上哲生は元TM NETWORKのマネージャーであり、井上秋緒はその妻であった。

TM NETWORK直系のコンセプチュアルな戦略を受け継ぎながら、彼らはaccessを通じて耽美性とデジタルビートが融合した独自の表現を結実させていたのだ。この結びつきはやがてT.M.Revolutionへと直結していく。本作は、90年代ポップス史の大きな水脈の交差点に咲いた花でもあった。

楽曲を自ら脱構築するリミックスの貪欲さ

三部作の受け渡しとは別に、本作にはもう1枚の兄弟作が存在する。直後にリリースされたリミックス盤『SCANDALOUS BLUE Re-SYNC STYLE』だ。

浅倉大介、貴水博之、エンジニアの大里正毅によるユニット「SCAPEGOAT3」が手がけ、原曲を徹底的に解体・再構築した3つのバージョンが収められている。

世に出したばかりのキラーチューンを自らの手で分解し、別の表情を提示する。三部作が時間軸をまたぐ「横の仕掛け」なら、この盤は1曲を極限まで深掘りする「縦の仕掛け」だった。同じ曲の別の顔を自ら用意してしまうところに、この時期の二人の凄まじい貪欲さがうかがえる。何度でも戻ってしまう恋の歌が、作り手の手で何度でも組み直される重なりも、どこか運命めいている。

大晦日の晴れ舞台のあとに訪れた「沈黙」

1994年12月31日、accessは『第45回NHK紅白歌合戦』に白組として初出場を果たした。その記念すべき大舞台で二人が歌ったのは、完結編の『TEAR'S LIBERATION』ではなく、他ならぬこの『SCANDALOUS BLUE』だった。

非常階段の陰で息を潜めていた密室の歌が、お茶の間の視線が集まる大晦日のど真ん中で高らかに放たれる。この痛快な逆説こそ、ポップミュージックが持ち得る最大のカタルシスだろう。物語の結末は次の曲に譲りながらも、1994年のaccessを象徴する晴れ舞台だけは真ん中のこの曲が引き受けたのである。

だが、物語はそこで劇的な幕切れを迎える。年が明けた1995年1月1日、accessは突如として活動の「沈黙」(活動休止)に入った。三部作の結末を担った『TEAR'S LIBERATION』が沈黙前最後のオリジナルシングルとなり、二人はそれぞれの道へ進む。華やかな紅白の直後に訪れた冷ややかな静寂。あまりにも鮮烈なコントラストだった。

三部作の設計図を知った上でいま改めて本作を聴き直すと、サビへ戻るたびに鳴り響く青は、出口のない恋の痛みの色であると同時に、二人が沈黙の手前で燃え上がらせた、最も美しく危険な閃光の色としても響いてくるのである。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・笄坂かける)

の記事をもっとみる

注目コンテンツ