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大河にも出る【人気俳優】が、渋谷の街頭で自らチラシ配り…25年前、16年越しの初監督作に懸けた執念

  • 2026.10.15
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2001年9月、映画監督デビュー作『少女〜AN ADOLESCENT〜』の初日舞台挨拶をおこなった奥田瑛二(C)SANKEI

25年前の2001年9月、東京・渋谷の街に、信じがたい光景があった。自ら映画の看板を持ち、道行く人々にチラシを配る男がいる。俳優の奥田瑛二である。

主演作を重ね、テレビをつければ大河ドラマにも出ているような俳優が、なぜ雑踏の中でチラシを配っていたのか。それは翌日に控えた、自身の初監督映画『少女〜AN ADOLESCENT〜』の東京公開初日のためだった。

大阪での公開から1週間、いよいよ東京での公開。撮って終わりではない。最後のひとりへ手渡すまでが自分の仕事なのだと言わんばかりに街頭へ立つその姿には、映画への剥き出しの情熱が宿っていた。

そして四半世紀。俳優として、そして映画監督としてキャリアを重ねた奥田は今、同じようにミニシアターで観客を探す自主映画の作り手を支える側に立っている。

16年越しの執念と異色のキャスティング

奥田が連城三紀彦の同名小説の映画化権を手に入れたのは、公開から実に16年も前のことだ。温めに温め、自らメガホンを握る初監督作として本格的に動き出してからも3年をかけている。中年の警官と15歳の少女を描く、R15+指定の大人のための映画である。

脚色には成島出と真辺克彦が参加。ヒロインの少女・陽子役にはオーディションで選ばれた新星・小沢まゆを抜擢し、中年警官の主人公は奥田自らが演じた。

その年の奥田は、NHK大河ドラマ『北条時宗』で日蓮役を演じ、9月1日には出演映画『親分はイエス様』が封切られたばかり。俳優の仕事が続くなかで、長く温めてきた企画をようやく形にした。

笑いと切実さが交錯した初日舞台挨拶

完成した作品は、公開に先駆けて開催された第58回ヴェネチア映画祭の「国際批評家週間」で、特別追加上映を含めて計7回も上映された。海外の7つ以上の映画祭からも招待を受けるなど、幸先のいい評価を得ていた。

そして迎えた渋谷の初日。初回上映後の舞台挨拶で司会を務めたのは、他ならぬ奥田監督自身だった。奥田が「最早、国際監督だね」と笑って、舞台挨拶は幕を開けた。

登壇したのは、まばゆい白のチャイナドレス姿の小沢まゆ、陽子の兄・助政を演じた格闘家の小路晃、そして濱本康輔。この作品でスクリーンデビューした小沢は、撮影が終わってから1年以上この日を待ち続けていたと挨拶した。132分とちょっと長い映画だと続けたところで、すかさず監督から教育的指導が入り、笑いが起きる一幕もあった。

とりわけ異彩を放っていたのが小路の起用だ。兄の役にふさわしい役者が見つかるかどうかで、この映画は決まる。奥田はそこまで言っていた。その役を託されたのが、本業が格闘家の小路だった。映画に出るのは初めてで、たぶんこれが最初で最後だと、小路は客席に話した。

客席へ託した祈り

舞台挨拶の幕を引いたのも奥田だった。前日に渋谷の街で看板を持っていた監督は、客席に向かって、つまらなかったらつまらなかったと言ってほしいと切り出した。

メジャーの作品のような拡大公開とはいかないが、全国で順次公開して50館、60館では上映したいと奥田は目標を明かし、何かを感じてもらえたら伝えてほしいと結んだ。

「国際監督」と笑って舞台挨拶を始めた男が、最後に口にしたのは客席への切実な頼みごとだった。50館、60館という生々しい数字を自らの口で語る姿に、スター俳優の気取りはどこにもない。あるのは、自分が生み落とした映画のセールスを人任せにしない、インディペンデント映画作家としての泥臭くも真摯な横顔だった。

映画を届ける場所そのものへの情熱

奥田の映画への挑戦は、その後も続いた。2006年の監督第3作『長い散歩』では、第30回モントリオール世界映画祭でグランプリ、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞を受賞。空港から直行した凱旋会見で、俳優業の継続を明言しつつも、「監督として人生を全うする確固たる自信と認識ができた」と語った。

だが、奥田が情熱を注いだのは作ることだけではなかった。映画を届ける場所そのものにも、その手は伸びていく。

翌2007年10月、奥田は山口県下関市の映画館の経営に乗り出し、11月に「下関スカラ座シアター・ゼロ」として再出発させた(現在は閉館)。下関から映画館がなくなりかけたところで、自ら劇場の支配人に就いたのである。

こけら落としの舞台挨拶で奥田は、下関に映画を残してくれてありがとうと客に言われて胸にぐっときたと感無量に語り、うっすらと涙を浮かべた。「映画館を持つのは夢だった」と言う奥田は、自作の旧作にとどまらず、上映機会に恵まれない若手の新作や短編、名画をかけたいと構想をぶちあげた。自ら街頭に立って映画を届けようとした男は、映画と観客が出会う場所そのものを引き受けたのだ。

25年後の秋に自主映画の作り手へ渡すバトン

現在、奥田は2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』に堀池頼昌役で出演している。通算7作目の大河で、語りを務める愛娘・安藤サクラとの父子共演にもなった。

俳優として大河に出る一方で、奥田の映画への伴走は今も続いている。2016年に富山で生まれた、奥田が主宰する演劇集団「奥田塾」では、オーディションで選ばれた中学生から30代までの若者が稽古を重ねてきた。

そんな奥田のワークショップ「奥田塾」の門を叩いたのが、自主映画『ごじゃっぺタクシー』の制作陣だった。脚本の段階で悩んだ末に訪ねてきたオガワセイイチ監督らに、奥田がかけたのは、自分の撮りたいように撮ればいいという短い励ましだった。

励ましを受けた作り手たちは脚本を大胆に書き直し、その後も幾度も奥田の助言を受けて作品を練り上げた。奥田は本作に監修として名を連ねている。

完成した映画は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2026で観客賞を受賞。奥田は公式コメントの中で、主人公を「救いのあるダメ男であった」と称えた。本作は茨城の土浦セントラルシネマズでの10月10日からの先行上映に続き、17日からは東京・新宿のK's cinemaを皮切りに全国で順次公開される。

25年前のあの秋、渋谷のミニシアターで、良かったら人に勧めてほしいと客席に頼んでいた奥田瑛二。

2026年の今、同じように順次公開という険しい道のりで観客を探す自主映画に、今度は先達として寄り添っている。

10月、土浦や東京のスクリーンに映し出される光の向こうには、かつて渋谷の街頭でチラシを配っていた奥田の姿が重なって見えるようだ。


※記事は執筆時点の情報です

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