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20年前、“カンヌ史上最年少”の天才少年が年上美女と初キス。感想を聞かれて叫んだ「桃!」

  • 2026.10.12
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2006年8月、映画『シュガー&スパイス 風味絶佳』完成会見に出席した柳楽優弥(C)SANKEI

是枝裕和監督の『誰も知らない』で、当時カンヌ国際映画祭の史上最年少となる14歳で最優秀男優賞を受賞した柳楽優弥。大きな話題を呼んだ受賞から2年が経った20年前の2006年9月、16歳になった彼は、自身初となる恋愛映画『シュガー&スパイス 風味絶佳』の公開を控えていた。

だが、公開前のインタビューで彼は、初めての恋愛映画は難しかったと率直に吐露している。どこがどう難しかったのか、言葉ではうまく説明できない。そう前置きした彼が振り返ったのは、冬の冷たい雨に打たれながら、何度も「もう一回」を突きつけられた過酷な撮影現場の記憶だった。

16歳の少年は、いかにして恋に揺れる青年の心をつかみ取ったのか。その答えは、頭で組み立てた芝居プランの先ではなく、極限の寒さに耐え抜いた先にあった。

キスの味は「桃!」と答えた16歳と背伸びの役柄

原作は山田詠美の短編小説『風味絶佳』。監督は映画『冷静と情熱のあいだ』などを手がけた中江功だ。柳楽が演じた主人公の志郎は、高校卒業後、大学へ行く必要を感じられないまま“とりあえず”ガソリンスタンドで働く青年。そこへ新しいバイト仲間として現れた乃里子(沢尻エリカ)に、志郎は生まれて初めて胸を焦がすような恋心を抱いていく。

実年齢より少し年上の青年役であり、相手も年上の女性。しかも、柳楽にとっては初めてとなるキスシーンも待ち受けていた。

公開前月の8月、東京・帝国ホテルで行われた完成披露会見で、初めてのラブストーリーで戸惑った点を問われた柳楽は、キスシーンの緊張を挙げ、「撮影中も緊張したままでした」と打ち明けている。

詰めかけた報道陣の関心がそのキスシーンに集まり、沢尻とのキスの感触を尋ねられると、16歳の柳楽は照れた素振りでしばし考え込んだ後、いきなり大きな声でひと言、「桃!」と答えた。

その無邪気な一言に、会場はどっと笑いに包まれた。冗舌なコメントは返さず、長い沈黙の末にひと言で答える。そこには、世界的な栄冠を手にしても体裁を取り繕わない、16歳の素顔があった。

冬の雨と逃げ場のない「もう一回」

だが、クランクイン当初の柳楽は、深い不安に苛まれていた。自分の中にまだない志郎の気持ちに、どうしたらなれるのか。こういうとき志郎はどうするんだろう、と考えれば考えるほど、役との距離は縮まらなかった。

大きな転機となったのが、乃里子と初めて心が通い合う雨のシーンだった。撮影が行われたのは冬の厳しい寒さのなか。降り注ぐ冷たい雨に打たれ、共演の沢尻もずぶ濡れになっている。それでも「もう一回」の声は繰り返される。その原因がすべて自分にあることは、痛いほど分かっていた。

何テイク重ねたのかと問われても数は挙げず、めちゃめちゃやった、とだけ答えている。かなり泣きそうになりながらも、逃げ出すわけにはいかなかった。

極限まで追い詰められて、自分の限界を超えた。撮りながらもうだめだと思ったその場面を耐え抜いたことで、自分はここまで耐えられるんだと思えるようになった。そして不思議なことに、その過酷なシーンを境にして、演じた役の気持ちが分かるようになった。

何度も反復して頭で理解したのではない。極限に耐え忍んだその先に、役の心が宿ったのだ。16歳の少年が志郎の恋心を掴んだ道筋は、驚くほど無骨で、泥臭い体当たりだった。

夏木マリの叱咤とまだ遠かった本当の恋

柳楽を揺さぶったのは、冷たい雨だけではなかった。ガソリンスタンドの場面では、グランマ役の夏木マリから、セリフに感情がこもっていなくて気持ちが伝わってこない、とストレートな指摘を受けた。泣きそうになりながら、もっと気合いを入れなきゃダメなんだと思い知らされた。その夏木からは、いま彼女はいるのかと聞かれ、言葉に詰まりながら、いませんと答える一幕もあった。

厳しい言葉を投げかけた夏木だが、完成披露のころには柳楽を「ドキュメンタリーのような演技をする」俳優と評していた。中江監督もまた、彼の芝居には「演技の神様が下りてくる瞬間がある」と語っている。

百戦錬磨の大人たちがその才能を高く買う一方で、当の本人にとって、恋はまだ遠い世界の出来事だった。

実生活でも女の子は分からないことだらけで、友だちの恋愛相談も全然分からない。スクリーンの志郎のように、自分も本当の恋がしてみたかった。現場での過酷な苦労話は饒舌に語るのに、いざ恋愛の話題になると途端に静かになってしまう。主題歌のオアシスを、この映画をきっかけに聴き始めた16歳は、どこまでも不器用だった。

20年後の秋に家族を背負う男を演じる

2026年の秋、36歳になった柳楽は、主演映画『RYUJI 竜二』の封切りを控えている。1983年に金子正次が遺した伝説の名作を、新たに映画化した挑戦作だ。柳楽が演じる花城竜二は、愛する妻・まり子(川栄李奈)と生まれたばかりの息子のために裏社会から足を洗い、カタギとして生き直そうともがく男である。

今年2026年は、役者・柳楽優弥の充実ぶりがひときわ際立つ年でもある。4月に配信が始まったNetflixシリーズ『九条の大罪』では、法と道徳の狭間でどんな悪人の依頼も引き受ける異色の弁護士・九条間人を演じた。2027年1月8日には、自身初となる主演ドラマの映画化『映画 九条の大罪』の公開も控えている。

映画で描かれたような恋は自分には遠い世界だと話していた16歳の少年は、いまや家族を守るために生き方を変えようとする男を演じる。『RYUJI 竜二』の公開決定に際して寄せたコメントは、「正直、ドキドキしています。」で始まり、「『竜二』と真剣勝負で向き合いました」と続いていた。

初めてのキスシーンの緊張を隠すことなく口にしていた16歳は、今も、主演作を前にまずドキドキを素直に口にしている。冬の雨の中、終わりの見えない「もう一回」に耐え抜いた少年の日の記憶を知る者にとって、彼が語る「真剣勝負」という言葉は、少しの誇張にも聞こえない。


※記事は執筆時点の情報です

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