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1年の撮影を終えて男泣き、37歳の実力派俳優。かつてGacktの謙信と戦った大河の“軍師”

  • 2026.10.11
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2006年12月、NHK大河ドラマ「風林火山」で取材に応じる内野聖陽(C)SANKEI

20年前の2006年9月、山梨の地でひとつの戦国絵巻が動き出したと報じられた。翌年1月に始まるNHK大河ドラマ『風林火山』だ。主人公の軍師・山本勘助を演じるのは、当時37歳の内野聖陽である。

クランクインを告げるニュースの中でひときわ目を引いたのは、役作りの抱負以上に、彼が口にしたある眺めについての言葉だった。

山梨でのロケを前に武田神社を訪れ、甲府盆地を眺めた内野は、かつて勘助と信玄もここから同じように盆地を眺めていたかと思うと、「体の中の血が熱くなるような気がしました」と明かしている。

台詞の解釈や衣装の着こなしよりも前に、まずその人物が生きて見つめていたはずの土地の記憶に我が身を丸ごと浸す。この泥臭くも詩的なアプローチに、俳優・内野聖陽の面白さがあると思う。そしていまも、彼は舞台の上で、まだ見ぬ「景色」を探し続けている。

私生活を東京に忘れてきた夏

山梨県北杜市でロケが始まったのは、2006年8月25日。前日に武田神社を参拝した内野は、隻眼にぼろ布を巻いた若き日の勘助の姿で現場に現れた。ワイルドな風貌で、すっかり役になりきっていた。

現場で私生活の話題を向けられた内野は、「東京に忘れて来ております」と答え、この衣装になると勘助になるとサラリと返した。日常の自分をかなぐり捨てて役を生きる。その覚悟が端的ににじむ言葉に思える。

当時の内野は、2003年の金曜時代劇『蝉しぐれ』で主演として青年藩士・牧文四郎を演じ、同じ2006年には劇団☆新感線の『メタル マクベス』で主人公ランダムスターを演じていた。30代後半の彼にとって、山本勘助という泥臭くも孤高な軍師は、全身全霊をぶつけるにふさわしい獲物だったのだろう。

1年間の長距離マラソンと流した男涙

地方ロケとスタジオ収録を重ねること1年あまり、2007年9月26日に『風林火山』はついにクランクアップを迎えた。最後の撮影を終え、これまでの日々を映像で振り返る内野の目から、涙がこぼれた。直後の記者会見では感極まって、「この作品を誇りに思う」と語った。

常に真剣勝負で、長距離マラソンのようにやってきた1年を、俳優としての宝物にして、さらにいい芝居を作っていきたいとも、涙ながらに話した。

会見場には、信玄役の市川亀治郎、上杉謙信役のGackt、由布姫役の柴本幸も駆けつけ、劇中にはないせりふで孤高の軍師をねぎらった。

初老のリア王が追い求める景色

2026年9月21日、東京芸術劇場プレイハウスの舞台に、ひとりの老王が立っていた。シェイクスピアの四大悲劇のひとつ『リア王 -King Lear-』で、主演は内野聖陽だ。『メタル マクベス』でシェイクスピアの劇世界に身を投じてからちょうど20年、今度は悲劇そのものの主人公として、権力と領土と娘たちの愛を失い荒野を彷徨う老王リアと真っ向から対峙している。

上演が決まったとき、内野は、初老の段階に入っている自分ならリアをどう演じるのかを見てみたいと語り、「思いもよらなかった景色が見えて来たら最高だな」と言葉を添えた。

20年前、甲府盆地に勘助と信玄の視線を重ねた37歳の俳優は、今もなお、稽古と本番の嵐の先に広がる見たことのない景色を心待ちにしている。役と向き合うための入り口にも、その果てにも、この人には「景色」があるように見える。

広がり続ける地平の先へ

『リア王』の先にも、彼の挑戦は途切れない。2026年11月13日には、無実の罪ですべてを失いながらも立ち上がる男を描いた主演映画『負けへんで』が公開される。

さらに2027年2月には、ブレヒトの戯曲をもとにした舞台『ヨハンナ』で巨大食品企業の経営者モーラーを演じる。会場のシアタートラムは、数々の大舞台を踏んできた内野にとって、初めて立つ劇場になる。

戦乱の荒野を這い回った軍師から、権力や領土、娘たちの愛を失って彷徨う老王、そして現代の不条理に抗う男へと、演じる役は移っていく。初めて立つ劇場のステージで、内野聖陽はまたどんな景色を見つけるのだろうか。


※記事は執筆時点の情報です

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