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本人の名前ではない【作曲家名義】で旋律を書いていた歌姫 2年連続“金賞”から3年目でついに頂点へ

  • 2026.10.21
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2001年12月、第43回日本レコード大賞を『Dearest』で受賞した浜崎あゆみ(C)SANKEI

大切な人の顔をひとり思い浮かべて、手放したくないものだけを静かに数えてみたくなる夜がある。忙しさに押し流された1日の終わりほど、残しておきたいものの数は驚くほど少ない。

そんな夜にそっと差し出したいのが、このバラードだ。ゆっくりと歩き出すメロディが、散らかった気持ちを少しずつ片づけていく。聴き終えるころには、守りたい誰かの笑顔だけが胸に残る。何かを足すのではなく、余計なものを下ろさせてくれる歌だ。

この1曲は、ひとりの歌い手が駆け上がってきた道の頂に立った年を象徴する歌でもあった。毎週のアニメの終わりに流れ、ランキングの頂点に立ち、年の瀬には大きな賞を受ける。テレビの向こうの日常から年末の大舞台まで、四半世紀が経った今も歌声は色褪せない。

浜崎あゆみ『Dearest』(作詞:ayumi hamasaki/作曲:CREA + D・A・I)ーー2001年9月27日発売

物語の幕引きとCMの合間で耳になじんだ歌

『Dearest』が人々に届いた道は、ふたつの日常だった。ひとつは日本テレビ系アニメ『犬夜叉』のエンディングテーマ。1話ごとの余韻を引き取り、次の週を待つ入り口となる数分間、この歌声とともに視聴者は日常へ戻っていった。もうひとつは携帯電話会社ツーカーのCMソング。テレビをつければ自然と耳に入る場所に、この歌はいた。

物語を見届けたあとの静寂と、暮らしの合間に差し込む歌声。異なるふたつの道が、同じバラードへと人を連れてきた。劇的な場面のあとでも浮かないのは、歌声が物語の感情を打ち消さず、静かに受け止める温度を持っているからだ。

広がりはすぐに数字に表れる。初登場1位から2週連続で首位を守り、累計70万枚を超える大ヒットを記録。しっとりとしたバラードが、日常から人を集めて頂点まで登りつめた。

求める声が歌を冬の大舞台へ押し上げる

秋に生まれた歌は、冬が深まるにつれてさらに大きな舞台へと呼ばれていく。ランキングが落ち着いたあとも、この曲が人の暮らしから消えることはなかった。

浜崎あゆみは第34回日本有線大賞で大賞に輝き、有線音楽優秀賞と最多リクエスト歌手賞も同時に受けた。街角から、もう一度あの曲をと求められ続けた積み重ねが形になった受賞だ。有線のリクエストの多さからは、ただ流れるのを待つのではなく、誰かと過ごす場所で鳴ってほしいと願われた歌だったことが伝わってくる。

この冬には、3回目の出場となった第52回NHK紅白歌合戦でも歌われている。1年を締めくくる舞台で、秋から耳にしてきたバラードが厳かに流れた。大晦日の夜、家族がそろうテレビの前で聴いた歌声を記憶している人も多いはずだ。

華やかな年の頂に立った小さな願い

年の瀬の舞台でひときわ大きな光を放ったのが第43回日本レコード大賞だ。2001年12月、『Dearest』は大賞を受賞。彼女にとって初の大賞となった。そして、この栄冠は一度では終わらない。翌2002年の『Voyage』、翌々年2003年の『No way to say』へと続き、3連覇という頂点の扉を開けたのがこのバラードだった。

華やかな1年の頂上で選ばれたのが、誰かの笑顔を願う祈りの歌だったことに、この年の手ざわりが表れている。どれほど大きな舞台で鳴っても、この曲はひとりに語りかける親密さを手放さない。

詞を書く人が旋律の書き手にも加わる

作曲クレジットには「CREA + D・A・I」と並ぶ。CREAは浜崎本人の作曲家名義、D・A・Iは『Boys & Girls』『SEASONS』『Far away』などを手掛けてきた長尾大だ。言葉を紡いできた歌い手が、旋律の作り手としても馴染みの作曲家と肩を並べた。

編曲は鈴木直人。1999年の『Boys & Girls』、2000年の『SEASONS』は、ともにD・A・Iの作曲に鈴木直人が編曲で加わり、レコード大賞の金賞を受けていた。2年連続の金賞を経て、3年目の『Dearest』でついに大賞へ手が届いたのだ。

歌声には、自ら旋律を手がけた曲を確かめるような丁寧さがある。言葉を置くような歌い出しから、サビで一気に視界が開ける展開。声が高みへ上がる一瞬に思いがほどけていく。何度聴いても背筋が伸びるのは、作り手としての手ごたえが声に乗っているからだろう。

誰の顔を浮かべても届く祈り

歌詞が描くのは、本当に大切なものだけを手元に残したいという願いと、大切な人の笑顔がずっと続いてほしいという祈りだ。出会ったばかりのころのぎこちなさも、互いを傷つけてしまった時間も、この歌は隠さない。遠回りを経てたどりついた場所から、相手の幸せを願っている。

恋の歌としても、家族や友人の顔を重ねても聴ける。サビで願いが重なるたび、宛先は聴き手それぞれの大切な人へと移っていく。宛先を限定しない広さが、この曲を大舞台にも、ひとりきりの夜にもなじませた。

手放したくないものを数える夜、指を折るより先に浮かぶ顔がある。その人の笑顔を思いながら聴く『Dearest』は、25年前と同じやわらかさで、願いのかたちをそっと教えてくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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