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25年前、グループ加入時点で、すでにソロデビューが描かれていた15歳。「恥ずかしかった」ソロ2作目のMVを回顧

  • 2026.10.21
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2003年4月、千葉県・市川市文化会館で行われた後藤真希のライブより(C)SANKEI

再生すると、まず体の奥が鳴る。耳より先に胸へ届く低音がゆっくりとうねり、そこへ少しかすれた声がすっと乗ってくる。甘えているようで、どこか落ち着かない息づかい。最初の数秒で、元気いっぱいのアイドルソングとは手触りの違う曲だと引き込まれる。

声の主は後藤真希。モーニング娘。とプッチモニの活動を並行しながら放った、ソロ2枚目のシングルだ。歌っていたのは当時15歳の少女だった。

後藤真希『溢れちゃう…BE IN LOVE』(作詞・作曲:つんく)ーー2001年9月19日発売

グループの人気者のソロと聞けば、明るさをそのまま背負った曲を思い浮かべる人も多いはず。ところがこの曲から聴こえるのは、恋に満たされながらも心が休まらない大人びた主人公の声だ。いま聴き直すと、その大人っぽさは背伸びの産物ではなく、トラックと歌入れの作り込みから生まれていたことがよくわかる。

歌い続ける姿が連れてきたもうひとつの顔

ソロデビュー曲『愛のバカやろう』が出たのは2001年3月。後藤はこの曲をステージやテレビで歌い続け、有線やラジオからも曲が繰り返し流れていた。プロデューサーのつんくは、歌い込まれていく様子を見届けるなかで、アーティスト後藤真希の新しい顔を見出していく。

2作目の方向は、1作目の制作途中からすでに見えていた。そうして選ばれたのが、モーニング娘。の延長でもプッチモニの延長でもない、まったく新しい路線だった。

そもそも後藤のソロは急ごしらえの企画ではない。つんくはモーニング娘。への加入を決めた時点で、プッチモニ結成と同時にソロデビューも思い描いていた。グループの中で育てる顔と、1人で立つ顔。2本の道は最初から並んで敷かれていたのだ。歌い込む姿から次の曲の絵が浮かぶ順番に、作り手と歌い手の距離の近さがにじむ。

体の芯に届かせるための低音の設計

新しい路線を形にするため、つんくは編曲のAKIRAとバックトラックの打ち合わせを綿密に重ねた。鳴らしたい音のイメージはつんくの頭の中ですでに固まっており、仕上がったトラックはとびきり格好いい。

重ねた音の数が多く、1本にまとめるトラックダウンには時間がかかったが、やり直しは一度もない。1回目でそのまま完成している。

つんくはこの曲について、アンプの音量をめいっぱい上げて体と心の芯で受け止めてほしいと呼びかけた。近所から苦情が来ない程度にと冗談を添えつつも、低音とグルーヴこそが聴きどころだという自負がのぞく。

重厚な低音は強固な床になる。床が揺るがないからこそ、歌い手は息を抜いたりかすれさせたりと細かく遊べる。このトラックは、前へ出て主張するより声を置く足場として機能しているのだ。AKIRAはこの後も『愛ってどんな×××?』などで後藤の編曲を手がけ、彼女のクールな顔を支えていく。

完成したテイクを手放して声に表情を宿す

1回目の歌入れの時点で、OKが出てもおかしくない出来だった。それでもつんくは完成させられると認めたうえで、あえてもう1回録ろうと後藤に伝えた。求めたのは、息のかすれから全力のシャウトまで、曲の中で移り変わる声の表情だ。

2回目で後藤は自分なりの解釈を宿し、曲の主人公になりきってみせる。1回目で曲の形が体に入っていたからこそ、2回目は気持ちを追う歌い方へ踏み込めたのだろう。トラックダウンは一発で決まり、声は二度目で決まった。この対比に、曲づくりの重心がどこにあったかが表れている。

主人公が抱えるのは少しややこしい恋心だ。優しさに満たされているのにまだ足りないと求め、幸せが大きいほど失うのが怖くなる。歌が終わるまで気持ちは片づかない。

同じメロディでも、息を多めに混ぜれば心細さが、喉を強く鳴らせば焦りがにじむ。満たされては揺れる感情を、言葉の説明ではなく声の質感の切り替えで聴かせる。かすれとシャウトの振れ幅は主人公の心の振れ幅そのものだ。幼さの残る声が大人びて響くのは、無理に背伸びしたからではなく、気持ちの段差ごとに声の手触りを変える演じ方の細やかさにある。

クールな音の上で揺れた頭の赤いボンボン

この曲が出たのはモーニング娘。の5期メンバーが決まった直後。グループが新しい顔ぶれを迎える慌ただしい時期に、後藤は1人でこの大人びた恋の歌を背負っていた。発売の4日後には16歳の誕生日を迎えている。

そんな曲のミュージックビデオで、後藤の頭にはボンボンが付いていた。つんくの指定で後藤は赤、ダンサーズは緑。音はクールなのに、頭の上では少し子どもっぽい飾りが揺れている。

後藤自身は後に、このボンボンを恥ずかしかった思い出として振り返っている。それでも、いま見るとこの落差が面白い。大人びた歌声と、年相応の素顔がのぞく頭飾り。両方がそろって、あの時期の後藤真希のリアルな姿になっている。大人っぽさ一色で塗り固めないさじ加減に、アイドルの曲を作り続けてきたプロデューサーらしい遊び心がのぞく。

英語の歌になっても崩れないR&Bの骨組み

翌2002年12月18日、モーニング娘。とハロー!プロジェクトの曲を海外の歌手が歌い直すカバー集『カバー・モーニング娘。ハロー!プロジェクト!』が出た。『溢れちゃう…BE IN LOVE』のカバーを歌ったのは、アメリカのR&Bシンガー、キャリン・ホワイト。英語の歌詞をまとい『IT HURTS TO BE IN LOVE』に生まれ変わっている。

歌い手も言葉も替わって、なお1曲として堂々と立つ。何度も話し合って組み上げたトラックに、国境を越えても崩れないR&Bの骨組みがあったのだろう。

それでも原曲に戻ると、骨組みの上でいちばん耳に残るのは2回の歌入れで後藤がつかんだ声だ。ため息に近いかすれから、感情を吐き出すようなシャウトへ。1回目のテイクの先へもう一歩踏み込んだ後藤の声の起伏にこそ、この曲の本当の格好よさがある。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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