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サビで歌うのは華原朋美と小室哲哉。なのに名義は“別の男”…「特に何も考えていない」と答えた盟友に、TKが差し出した一曲

  • 2026.10.20
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1997年12月、渋谷公会堂で行われた木根尚登のライブより(C)SANKEI

歌の景色がふっと鮮やかに切り替わる。穏やかに言葉を運ぶ男性の声の上へ、高く澄んだ女性の声と、もうひとつの男性の声が重なり、そのまま前へ歩み出てくる。

一瞬、誰の歌を聴いているのだろうと耳を疑うリスナーもいるかもしれない。艶やかなソプラノは華原朋美、寄り添う個性溢れる高音は小室哲哉。1990年代半ば、街中やテレビでおなじみだった声だ。ところが、このシングルの名義はそのどちらでもない。

歌っているのは、TMN(現・TMNETWORK)のメンバー、木根尚登。1992年12月にソロデビューした彼にとって、7作目のシングルにあたるナンバーだ。

木根尚登『REMEMbER ME?』(作詞・作曲:木根尚登)ーー1996年9月23日発売

自分の名前で出した作品なのに、いちばん耳に残るサビの風景を、ほかの二人の声と惜しげもなく分け合っている。いま聴き直してみても、その不思議な重なりにこそ、この曲特有のやわらかな温もりが宿っていることに気づかされる。

空っぽの近況から動き出した生音の企画

始まりは、小室のスタジオでの何気ないやり取りだったという。1996年5月ごろ、ふらりと遊びに立ち寄った木根は、近況を聞かれて特に何も考えていないと答えた。いわば空っぽの状態だった木根に対し、小室は生楽器で鳴らす作品を出せばいい、遊びがてら手伝うと軽やかに持ちかけたのだ。

同じグループで並んできた二人だからこそ成り立つ、実に気安い間合いだ。木根は当初、昔を懐かしむだけの音に聞こえないかと懸念を口にした。だが、小室はその不安を大丈夫だと押し返した。

誘いの言葉はどこまでも軽い。けれどそれは、木根のメロディの手の内を誰よりもよく知る相手だからこその提案だったはずだ。飾りをすべて剥ぎ取っても立っていられる旋律だと分かっているからこそ、あえて生の音で鳴らそうと言えたのだろう。

こうして動き出した『REMEMbER ME?』を聴くと、木根が案じたような懐古の匂いは驚くほど薄い。昔話をするというより、隣にいる誰かへ今の素直な気持ちを打ち明けるような近さが、最初の一節から漂っている。

支えると名乗って一歩うしろへ下がる

シングルの名義は「KINE NAOTO supported by TETSUYA KOMURO」。「Produced」ではなく「supported」という言葉が選ばれている点に、この曲での二人の絶妙な距離の取り方が表れている。世に出た音はデモの段階からほとんど姿を変えておらず、この時期の制作を通して二人が直接会って打ち合わせたのも合計3時間ほどだった。

企画を持ちかけた本人が、決して前に出ない。もし手を入れすぎれば小室の色に染まった作品が出来上がってしまうが、そうしなかったことで、木根の素朴なメロディと歌い口がデモの手ざわりのまま残されたのだ。

木根の歌は、言葉をひとつずつ手渡すように進んでいく。急がず、飾らず、聴き手の歩幅に合わせて歩くような歌だ。生楽器を中心にした伴奏もその歩みを決して追い越さない。「supported」の一語には、古い友人の歌に余計な化粧をしないという、深い信頼のかたちが透けて見える。

鼻歌ひとつで決まったサビの重なり

ただ、一歩引いていた小室が、自分から進んで差し出したピースがひとつある。サビのコーラスだ。

コーラスは二人で重ねようと言い出した小室は、その場で旋律を鼻歌で作り、近くに居合わせた華原朋美と声を重ねた。仕上がりまではおよそ30分だったという。華原は当時、小室が手がけるヒット曲の真ん中にいた時代の歌姫だ。そのまばゆい歌声が、盟友のソロ作のサビにごく自然に迎え入れられた。

歌の冒頭から、華原の高く澄んだ声と小室の声がひとかたまりになり、木根の歌の前へ躍り出てくる。Aメロになると木根の優しい歌声が中心になるが、サビに入ると再び華原と小室の歌声が躍り出てくる。それまでの穏やかな流れの中で、そこだけ光の差し方がぱっと変わるのだ。この曲を聴いていちばん胸が動かされるのは、声の色が鮮やかに切り替わるその瞬間だろう。

30分という短さが、かえってこの重なりに風通しのよさを与えている。何日もかけて磨いた精密さではなく、スタジオの空気ごと閉じ込めたような軽やかさが二人の声にはある。鼻歌から生まれた旋律らしく、一度聴いただけで口が覚えてしまう人なつこさも、このサビの大きな強みだ。

友の声を迎えても歌は揺るがない

木根の名義でありながら、サビで前に出るのは盟友とその歌姫の声だ。サビだけを耳にした人が、華原の新曲だと思ったとしてもおかしくない。

それでも最後まで聴き終えると、残るのは木根の歌だという確かな手ごたえだ。木根が丁寧に運んできたメロディが土台にあり、二人の声はその上に咲いている。自分の歌のいちばん目立つ場所を、ためらいなく友に明け渡せるおおらかさこそ、聴き終えたあとに残るぬくもりの正体なのだろう。

1996年の発売から30年を迎えた2026年、木根はこの曲のタイトルを掲げてソロツアーを開いている。

サビで友の声に場所をあけ、最後はきちんと自分の歌として着地する。その振る舞いは、長い付き合いの木根と小室のあいだでしか生まれない特別なやさしさそのものだ。聴き直すたびに、そのやさしさの手ざわりが、少しずつ深く胸に残っていく。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・笄坂かける)

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