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「YMO第4の男」がシンセを担当。メガヒット連発の“国民的デュオ”の1人が、多忙でも閉じなかった“もう一つのバンド”

  • 2026.10.19
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1998年5月、上海で初の海外ソロコンサ-トを行ったCHAGE(C)SANKEI

新曲が出れば、店頭の一等地がふたりの新作で埋め尽くされる。CHAGE&ASKAの名前が日本のポップスシーンの頂点に掲げられていた季節が、確かにあった。

1994年の秋もそうだった。11月16日にシングル『めぐり逢い』が発売される。そしてまったく同じ日、CHAGEがもう一つ走らせていたバンド、MULTI MAXのアルバム『Well,Well,Well』も店頭に並んだ。頂点の狂騒のただなかにありながら、CHAGEはもう一つの居場所を手放していなかった。アルバムに先駆け、10月5日に届いた先行シングルが『愛の空で』だ。

MULTI MAX『愛の空で』(作詞:CHAGE・澤地隆/作曲:CHAGE・村上啓介)ーー1994年10月5日発売

頂点の季節にも「遊び場」の扉を開けておく

MULTI MAXが生まれたのは1989年。CHAGE&ASKAのデビューから10周年という節目を迎えたCHAGEが、村上啓介と淺井ひろみとともに結成した3人組ユニットだ。

掲げた旗印は「音楽で遊ぶ」。楽曲制作の多くをメンバー自身が手がけ、巨大な看板を背負う本隊での活動とは別の回路で音を鳴らす場として続いてきた。

『愛の空で』は、前作『勇気の言葉』から約1年半ぶりに届いた通算6作目のシングルにあたる。CHAGE&ASKAの側では『HEART/NATURAL/On Your Mark』、『めぐり逢い』というメガヒットが続き、本作はちょうどその2大シングルの狭間にリリースされた。

本隊が勢いづいている時期に、もう一つのバンドの新曲をきちんと届ける。多忙を極める状況を思えば、活動を一時的に閉じてしまってもおかしくないはずだ。しかしCHAGEは、その扉を開け放ったままにしていた。肩書きの大きさやプレッシャーとは別の場所で、仲間と音を鳴らす歓びを手放さない。その姿勢から、彼の音楽に対する実直な愛情が真っ直ぐに伝わってくる。

看板を背負わずにすむ場所だからこそ、声の重なりも曲の組み立ても、肩の力を抜いてどこまでも自由に試せたのかもしれない。『愛の空で』に漂う開けた空気感は、そうした創作の自由さと真っ直ぐにつながっているのだ。

ふたりとは違う色彩で重なる三つの声

MULTI MAXは、CHAGE、淺井ひろみ、村上啓介の3人によるユニットだ。『愛の空で』ではCHAGEと村上が共同で作曲し、村上が編曲を担当している。CHAGE&ASKAとは異なる顔ぶれで生み出されたこの曲には、軽やかで色彩豊かな広がりが感じられる。

伸びやかな歌と、それを包む音の厚み。その響きを味わっていると、CHAGE&ASKAで親しんだ音楽とはまた違う表情が見えてくる。CHAGEの音楽を、もう一つの角度から楽しめる一曲だ。作詞はCHAGEと澤地隆、作曲はCHAGEと村上啓介。詞を共にした澤地隆といえば、CHAGE&ASKAの1986年のアルバム『TURNING POINT』で作詞家として歩み始め、その後もCHAGE&ASKAに数々の詞を提供してきた作詞家である。

紅一点の淺井ひろみは、1981年の「ヤマハヴォーカルオーディション ザ・デビュー」で優勝し、1988年にはソロアルバム『ORIGIN』を発表している。MULTI MAXへの参加以前から、歌い手として歩みを重ねてきた人だ。

村上啓介という音の設計者

そして音を設計したのが、もう1人のメンバーである村上啓介だ。彼は、THE ALPHAのリーダーとして1983年のヤマハ・ポプコンでグランプリを獲得した経歴を持つ。ちなみにグランプリを獲得したときにメンバーだったのが小森田実(コモリタミノル)で、SMAPの『らいおんハート』など数々の名曲を世に送り出している。

少し脱線したが、村上はMULTI MAXで編曲を受け持ち、『愛の空で』のアレンジも村上の手によるものだ。

収録アルバムのクレジットを見れば、そのサウンドの贅沢さに目を奪われる。ベースの美久月千晴、パーカッションの浜口茂外也をはじめとする顔ぶれが並ぶ。そしてシンセサイザーの音作りを担ったのは、「YMO第4の男」の異名を持つ第一人者・松武秀樹、そして鈴木雅也だ。そこに村上自身のギターが絡み合っていく。

トッププレイヤーによる生演奏の躍動感と、緻密な電子音のプログラミングをひとつの楽曲の中で融合させながら、決して音が過剰にならず、3人の声が乗るスペースが美しく空けられている。

時を経て届いた初冬の一夜

アルバムが発売された翌週の11月22日、MULTI MAXは日清パワーステーションからツアーをスタートさせた。その3日後、11月25日に川崎のクラブチッタで行われた公演は、四半世紀近くを経た2019年3月にライブ映像作品として世に出ている。

サビに向かってドラマティックに熱を帯びていく『愛の空で』は、ステージの後半でこそ真価を発揮するナンバーだ。

ライブ映像は、ヒットチャートの数字とは別の形で、当時の活動に触れる入口となった。会場にいられなかったファンも、25年近くを経て、MULTI MAXとしてステージに立つCHAGEの姿をたどることができる。「音楽で遊ぶ」を掲げたユニットの一夜が、時を越えて見返せる形で残された。『愛の空で』も、その歩みの中に置いて聴き直すと、また違った親しみが湧いてくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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