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小室哲哉の“大ファンだった”【美人女優】が自ら「曲を頼みたい」直談判した一曲

  • 2026.10.19
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1993年7月、ベストジーニストを受賞した観月ありさ(C)SANKEI

まわりの誰もが勢いよく走り出しているように見えて、自分だけが寝ぼけた頭を抱えたまま置いていかれそうになる朝がある。そんな朝に効くのは、気合いを入れ直せと急き立てる曲より、肩の力を抜いたまま背中をそっと押してくれる音楽だ。

32年前の秋、日本のポップスシーンは一人のプロデューサーの手によって、目に見える速さで塗り替えられ始めていた。クレジットに並ぶ「小室哲哉」の名が季節ごとに増え、熱気が巨大なうねりとなっていくなかで、歌い手たちにも大きな波に乗る覚悟が求められた季節だった。

その狂騒の真ん中に、背伸びをしない軽やかさのまま、朝の気分をふわりと持ち上げてくれる1枚が置かれていた。

観月ありさ『happy wake up!』(作詞・作曲:小室哲哉)ーー1994年10月3日発売

観月ありさの7枚目のシングル。ブームの熱狂の中で生まれながら、驚くほど風通しのいい曲だ。

幕引きの直後に始まった熱狂の只中で

1994年5月、小室哲哉が率いてきたTMN(現・TMNETWORK)が活動に幕を下ろした。グループの時間が終わった直後から、小室はプロデューサーとして一気に走り出す。篠原涼子『恋しさと せつなさと 心強さと』が夏に世に出ると、秋になってもその熱は引かなかった。グループの看板を下ろした音楽家が、他者の歌声のために曲を書く仕事へと深く軸足を移していく激動の季節だった。

発売の並びだけを見れば、ブームの波に観月が乗ったように映るかもしれない。だが、ふたりの縁はずっと前から始まっている。1991年の1stアルバム『ARISA』の冒頭曲『夢だけのボーイフレンド』で、観月はすでに小室の曲を歌っていた。同じ事務所の先輩、荻野目洋子に小室が曲を書いていたことが起用のきっかけだった。

だからこそこの曲からは、流行の仕掛け人に初めて曲を頼む緊張よりも、気心の知れた相手と組んだ人の落ち着きを感じる。ブームの入り口に立ちながら、ふたりの足もとはすでに固まっていたのだ。

曲のほうから歌い手に歩み寄る作り方

ブーム以前からの縁には、観月自身の熱も混ざっている。中学生のころからTM NETWORKを聴いてきたファンで、小室に曲を頼みたいと事務所へ持ちかけたのも観月本人だった。1992年の『TOO SHY SHY BOY!』でも、ふたりはシングルで組んでいる。

『TOO SHY SHY BOY!』では、小室が目の前でピアノを弾きながら、観月にキーを教えた。観月は後年のインタビューで、ブームのさなかにも小室の気さくな人柄は変わらず、会うたびに身の回りのことを尋ねられたと振り返っている。

歌い手に曲を合わせさせるのではなく、歌い手を起点に曲を組んでいく。それは歌い手への敬意に満ちたアプローチだった。『happy wake up!』の編曲は小室と久保こーじの共同で、リズムは前へ前へと軽やかに転がっていくのに、急き立てる圧はどこにもない。その上で響く観月の声は、無理に大人びようとせず、いちばん自然に出る高さでまっすぐ前を向いている。

曲が盛り上がる場面でも、声は軽やかに弾んだまま聴き手を置いていかない。何度くり返し聴いても疲れない気持ちよさの芯は、この声とキーの幸福な相性にある。

整えすぎない笑顔が朝を連れてくる

『happy wake up!』はクノール カップスープのCMソングとなり、観月本人も出演した。朝の台所に似合う商品と本人の姿、そしてこの歌声がひと続きでテレビから届いた。商品の朝と、曲が持つ朗らかさが無理なく重なっていたのだ。

すらりとした長身の観月には、どこか凛とした、手の届かない大人っぽさが漂う。だがこの曲の観月は、その横顔をふわりとほどき、目覚めたばかりの素顔に近い表情で笑っている。隙なく作り込んだ表情ではなく、玄関で靴を履きながら振り返ったときのような、少し慌ただしくて屈託のない明るさ。ブームのきらびやかさの中にあって、この曲はまっすぐ朝の生活のほうを向いていた。

寝ぼけた朝の手元で鳴る明るさ

小室との仕事はその後も続く。1996年には『PROMISE to PROMISE』を歌い、同年11月27日には小室の曲を集めた作品集『ARISA'S FAVORITE〜T.K.SONGS〜』も世に出た。最初のアルバムから重ねてきた縁が、ひとつの形に結実したのだ。その長い歩みを振り返ると、いちばん朝の光に近い場所に立っているのは『happy wake up!』だと感じる。

そして2021年10月27日、デビュー30周年の企画の一環として、シングル『happy wake up!』の配信が始まった。かつてテレビの向こうから届いた朝の歌は、いまはポケットの中のスマートフォンから呼び出せる。

置いていかれそうな朝、駅へ急ぐ道でこの曲を鳴らしてみると、32年前の秋に気負わず笑ってみせたあの歌声が、こちらの足取りまで少し軽くしてくれるはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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