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スポーツ大会のテーマ曲なのに、歌っていたのは“恋”。32年前、ホーンが鳴り響いた秋の名曲

  • 2026.10.19
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米米CLUB-1995年4月撮影(C)SANKEI

この秋、愛知を舞台にしたアジア競技大会が幕を閉じた。日本国内での開催は実に32年ぶり。画面越しに勝負の行方を追いかけながら、「大会の秋」という独特の季節の熱気を久しぶりに思い出した人も多いだろう。

その32年前、日本が前回アジア大会を迎えた秋にも、TBSの中継を彩っていたのは米米CLUBの1曲だった。1994年、広島を舞台に開催された大会のテーマソングとして、スポーツの熱気と同じ季節の風に乗ってお茶の間へ届いたナンバーである。

もっとも、スポーツ大会のテーマ曲として覚えた歌は、競技の記憶と一緒に引き出しの奥へしまい込みがちだ。だが、いま改めて再生してみるとどうだろう。ホーンが弾み、パーカッションが転がり、押しの強いワンフレーズが看板となった恋の歌。その瑞々しさは、大会のテーマ曲というラベルを剥がして聴いてみても、少しも古びていない。

米米CLUB『俺色にそまれ』(作詞・作曲:米米CLUB)ーー1994年9月21日発売

開幕より一足早く届いた大会の顔

本作はTBS系『アジア大会 広島'94』のテーマソングとして世に出た。第12回アジア競技大会の会期は1994年10月2日から16日、舞台は広島。シングル発売は開幕11日前の9月21日だった。この曲は大会の伴奏である前に、これから始まる秋の一大イベントを告げる予告編の役割をも鮮やかに担っていたのだ。

画面の中で選手が走り、跳び、その熱気のすぐそばで華やかなホーンが鳴り響く。大会の顔でありながら、歌われているのはアスリートの激闘ではなく恋だ。スポーツの高揚感と恋の歌の体温が同じ秋の画面に重なり合っていたところに、この曲ならではの絶妙な立ち位置がある。勝ち負けを競う舞台の熱気と、誰かを振り向かせたい胸の熱さ。一見かけ離れた二つの感情は、どちらも「無我夢中で前のめりになる」という一点において深く通じ合っている。

同じ大会で、NHKは岡村孝子の『ヒロイン〜あの日の涙を忘れない〜』をイメージソングに据えていた。チャンネルを替えれば、寄り添う歌の表情もがらりと変わる。民放と公共放送がそれぞれ大会の「顔」となる楽曲を掲げていた、当時の豊かなテレビカルチャーも懐かしい。

生のホーンが画面越しに声援を重ねる

再生してまず耳を捉えるのは、生楽器ならではの明るさとグルーヴだ。ミディアムテンポのバンドサウンドの上でトランペットが真っ直ぐ前に出て、パーカッションが軽快に転がっていく。生身の人間が鳴らす音の弾みこそが、楽曲の芯にある。

トランペットは、遠くまで真っ直ぐ届く楽器だ。競技場や沿道のスタンドで鳴り響く応援団のブラスを思わせるその音色は、テレビの前のリスナーへ、現地の空気と声援の熱気をそのまま運んでくるかのような臨場感を持つ。大会のテーマソングとして、これ以上なくピタリとはまる響きだ。

米米CLUBはホーン隊を擁し、ファンクやラテンの躍動感をバンドのアンサンブルに持ち込んできた。洋楽の踊れるリズムを、親しみやすい歌謡曲のサイズへと仕立て直す卓越した手腕は、この曲の隅々にも鮮やかに息づいている。

テンポが速すぎないことも効いている。全力疾走のビートなら競技のスピード感には合っても、恋の歌が宿す体温からは離れてしまったかもしれない。ほどよい歩幅のリズムにファンファーレのようなホーンが重なることで、中継の高揚感と恋のときめきが、一本の曲の中に無理なく同居しているのだ。

春のサビで繰り返された一節を看板に

前作にあたる『ア・ブラ・カダ・ブラ』は1994年3月に出たシングルで、そのサビでは「俺色に染まれ」というフレーズが繰り返されていた。それから半年後、この言葉がそのまま次作シングルの表題になる。表記は漢字の「染まれ」から、柔らかなひらがなの「そまれ」へと変わった。

前作を知る耳には、春に聴いたあの一節が、秋には堂々とシングルの顔をして帰ってくる。半年越しに同じ合言葉で呼びかけられたような楽しさは、遊び心あふれる米米CLUBならではの粋な味わいと言えるだろう。

ひらがなに開かれた表題は、同じ言葉でも当たりがぐっと柔らかい。命令形の力強さを残したまま、恋の歌の看板に据え直したセンスが秀逸だ。恋の歌で命令形を掲げれば気恥ずかしさが先に立ちそうなものだが、それでも嫌みに聞こえないのは、この曲が最初から理屈抜きの「祝いの温度」、底抜けに晴れやかな祝祭感で鳴っているからに他ならない。

バンドの名ひとつで鳴らした恋の歌

1994年の米米CLUBは、3月に前作、9月に本作、11月に映画『河童』の主題歌『手紙』と、シングルを立て続けに発表した。石井竜也個人も、春に個展を開き、12月には自身が初めて監督を務めた映画『河童』の劇場公開と、米米CLUBのアルバム『Phi II』の発売が重なるなど、凄まじいクリエイティビティの奔流の中にいた。

春から冬まで、バンドとしても個人としても作品を世に出し続けた多忙極まる1年。そんな慌ただしい真ん中にありながら、本作のクレジットは作詞・作曲・編曲のすべてに「米米CLUB」というグループの名が並ぶ。誰か一人の名前を前に立てるのではなく、あくまでバンドの名ひとつで世に差し出した恋の歌だったのだ。

「俺」という一人称を掲げた表題を、ホーンや打楽器を鳴らす大所帯バンドのアンサンブルが底抜けの明るさで支えている。そう聴くと、一見ひとりよがりの強がりに見えた言葉が、大勢の仲間たちで声を合わせて放つ誇らしげな祝福のように響いてくる。アジア大会の秋をくぐり抜けた今だからこそ、その賑やかでタフなサウンドがいちばん素直に胸に届く。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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