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18歳でアイドルデビューもすぐ引退→バンドへ。自分で書いた35年前の片想いの歌

  • 2026.10.18
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2009年4月、デビュー20周年記念日に復活ツアーをスタートさせたLINDBERG(C)SANKEI

女性ボーカルを真ん中に立てたバンドが、ギターと跳ねるビートに乗せて、年頃の女の子の声が恋や日々の出来事を歌う。テレビの向こうのきらびやかなアイドルより、ほんの少しだけ聴き手の近くにいる歌だった。

そんな季節の真ん中で、LINDBERGが届けたのは、図書館のあいさつから始まる片想いの一年だった。春休みの終わりに声をかけられ、新学期には隣の席になり、季節がめぐって卒業が近づく。それでも好きだとは告げないまま、歌は幕を下ろす。

派手な仕掛けがあるわけではない。けれど、知っているつもりで通り過ぎてきた人ほど、いま一編の物語として聴き直すと、胸の奥にしまっていた教室の匂いがふっとよみがえってくるはずだ。

LINDBERG『I MISS YOU』(作詞:渡瀬マキ/作曲:平川達也)ーー1991年10月18日発売

図書館で始まり図書館へ戻っていく一年

物語の幕は、春休みの終わりの図書館で開く。私服の「君」から、初めてあいさつをされる。制服を脱いだ姿で向き合う、ほんの短いやりとりだ。教室で見慣れた誰かが私服で現れた途端、ひとりの異性として輪郭を結ぶ。片想いの始まりをこれほど身近な一場面に置いたところに、この詞の確かな息づかいがある。

始業式のクラス替えで、ふたりは隣の席になる。夏休みには街角で偶然出会い、初めて一緒にコーヒーを飲む。やがて秋の気配が近づき、冬休みの前日がやってきて、卒業が見えてくる。初めてのあいさつ、初めてのコーヒーと、一年は小さな「初めて」を指折り数えるように進んでいく。

並んでいる出来事はどれもささやかで、劇的な事件やすれ違いは起きない。ただ、この小ささが効いている。図書館、隣の席、夏の街角。誰もが知る日常の風景だけで一年が組み立てられているからこそ、聴く側は自分の記憶をそのまま重ねられる。

そして歌は、告白の直前で立ち止まる。最後に置かれるのは、もしもう一度あの図書館で会えたならという仮定と、その時こそ勇気を出すという決意だ。始まりの場所が、終わりには願いの場所へと姿を変える。一年かけて同じ場所へ戻ってくる円環の描き方に、言いそびれてきた時間の長さがにじむ。

笑っていた女神が目を伏せはじめる

この一年に時計の針を刻んでいるのが、サビに現れる「運命の女神」だ。1番では微笑み、2番でもまだ微笑んでいる。ところが卒業が近づく3番になると、女神はうつむきかける。

とりわけ胸を突くのは、2番の「まだ」という一言だ。微笑みが続いていることを手放しで喜ぶのではなく、いつか途切れてしまうかもしれないと予感している人の言い草に聞こえる。季節がひとつ進むごとに、女神の顔にはわずかな影が差す。その表情の移ろいは、運命の気まぐれという以上に、主人公自身の揺らぐ自信と焦燥感をそのまま映し出しているように見える。

終盤になると、女神の表情に加えて、残された時間がもうわずかだという現実が飾りのない言葉で吐露される。遠回しに積み重ねてきた切なさが、最後に切迫した本音となってこぼれ落ちるのだ。

その切り替わりに触れると、聴き手の頭にも卒業までのカレンダーが浮かび上がる。毎日隣にいながら核心を告げられず、めくられていく日付ばかりを見つめるもどかしさ。片想いをしたことのある人なら、あの日数が削られていく感覚がわかるはずだ。

居心地の悪い衣装からノートの言葉へ

この詞を書いたのは、ボーカルの渡瀬マキ本人だ。渡瀬は1987年、18歳でアイドルとしてデビューしている。同期には森高千里がいた。

けれど、あらかじめ用意された世界は、渡瀬にとって居心地のいいものではなかった。あてがわれた衣装ひとつ取っても、気持ちがどうしてもついていかなかった。

違和感を社長に相談したことを機に、渡瀬はライブハウスで生のバンドと歌う道へと進む。そうして集められたメンバーのなかに、ギタリストの平川達也がいた。渡瀬が書きためていたノートの詞に、平川がメロディをつける。そこからLINDBERGの歩みは始まった。

誰かにあつらえてもらった恋ではなく、自分の言葉で書いた片想いを、自分の声で歌う。その背景を知って聴き直すと、隣の席の距離感がなぜこれほど生々しいのかがよくわかる。図書館のあいさつも街角のコーヒーも、借りものの小道具ではなく、書き手の手もとからこぼれ出た体温のある風景に映る。

言えなかった続きは聴く人が書く

LINDBERGといえば、『今すぐKiss Me』をはじめ、代表曲がいくつも並ぶ。その陰で、この曲が語られる機会は決して多くない。それでも時を経て聴き返すほど、青春の一年ぶんの記憶をまるごと預けられるのは、案外この曲のほうだと気づかされる。

告白が届いたのか、あの図書館で再会できたのか、歌は何も明かさない。だが、その空白があるからこそ、春休みの図書館は自分の学校の図書室へと姿を変え、隣の席の「君」には、あの頃の誰かの横顔が重なっていく。

タイトルの『I MISS YOU』は、本来は会えない誰かを恋しく思う言葉だ。けれど、歌の主人公は新学期にその人と隣の席になる。すぐそばにいるのに、いちばん大切な一言だけが届かない。その近くて遠い距離を、短い英語のひとことが鮮やかに射抜いているように聞こえる。好きな人が隣の席にいた一年を持つ人なら、この言葉の意味を説明なしで受け取れるはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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