1. トップ
  2. 物忘れは脳の省エネ? 脳科学者が解説する加齢と老化の違いと脳の可能性

物忘れは脳の省エネ? 脳科学者が解説する加齢と老化の違いと脳の可能性

  • 2026.9.29

脳には、経験を通して変化し続ける部分があり、脳科学を味方にすれば、付き合い方をデザインできると語るのは、お茶の水女子大学の毛内 拡先生。まずは、臓器としての脳の特徴から。

話を伺った人...
毛内 拡(HIROMU MONAI)
:脳科学者、神経科学者、生物学者。お茶の水女子大学ヒューマンライフサイエンス研究所助教。理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て現職。専門は神経生理学・生物物理学。ニューロンやグリア細胞、細胞外環境も含めた研究を進める。著書に『脳を司る「脳」』(講談社ブルーバックス)など。

脳は省エネ設計。経験を積むほど効率的に働くように

Maria Korneeva / Getty Images

脳とは、“生きる”を司る存在のようで、「脳科学」と聞くと、難しそうと身構える人もいるだろう。人工知能が実装される時代なのに、脳の働きはまだ解明の途にあるというし、治療法が確立されていない脳の病気も……。

「脳は、胃や腸、皮膚と同じく誰もが必ず持っている臓器です。そういうと驚かれるのですが、まずは脳を臓器として捉え直しましょう」とは脳科学者の毛内拡先生。脳の重さは成人で約1300〜1500グラム。体重の2%ほどにもかかわらず、安静時でも全身の基礎代謝の約20%を使う、エネルギー消費の大きな臓器だ。「人類の歴史は飢餓との戦いでした。脳は、限られたエネルギーを効率よく使えるように進化し、『省エネ』設計になりました」

時は進んで21世紀、例えば、ChatGPTのような生成AIは膨大なデータを学習したうえで応答する。一方、私たち人間は過去の経験や記憶をもとに“たぶんこうだろう”と予測しながら行動する。「この『ショートカット』こそ、脳の省エネです」。脳の“省エネ体質は、加齢を考えるうえでも重要な視点になるという。「例えば、モノの名前が出てこなくなって、それ・あれが増えると、加齢の影響かと不安になるかもしれません。でも、家族や同僚など、よく知った間柄なら、それ・あれで意思疎通できますよね」と毛内先生。もちろん、初期の認知症など病的な物忘れとは区別する必要はあるが、「経験を積むほどショートカットが増えていくのは、脳が省エネで稼働している証。いたって正常な働きといえるでしょう」

“脳のピークは20代”は誤解。30代以降に伸びる「結晶性知能」とは

そして、“脳は20代をピークに衰える”というイメージも正確ではないと指摘する。「誰しも誕生日を迎えれば1歳ずつ年を取りますが、近年は、加齢と老化を分けて考える研究が進んでいます。老化の背景には慢性的な炎症など、さまざまな要因が関わることがわかってきて、『体の状態は必ずしも年齢と一致するものではない』と考えられるようになってきました」。つまり、年齢を重ねても健康であれば、活動的な状態を維持できるし、若くても心身の機能が低下すれば、“老化したような状態”になることもある、ということ。

「そして、脳の使い方は、社会で求められる役割に応じて変わっていきます。20代は瞬発力や記憶力といった『流動性知能』が発達する時期。一方、30代以降に伸びていくのが『結晶性知能』。円滑なコミュニケーションや冷静な判断力、リーダーシップなど社会性に関わる能力で、個人差はあるものの、長い時間をかけて発達することが知られています。また、理性を司る前頭葉の成熟は25〜30歳ごろとされ、脳の発達には時間差がある。最近は、40歳前後を『第二の思春期』と表現することもあるそうですが、モノゴトを社会とつなげて考えられるようになる、脳が成熟していく世代といえるのでは」

人生100年時代。脳科学は“現代人の必修科目”に

Yana Iskayeva / Getty Images

人生100年時代が謳われ、健康意識が高まる今だが、脳の健康についてはどうだろう。「胃腸や肝臓の健康は気にするのに、脳と心の健康は後回しになりがち。そこでまず、『脳も胃腸と同じ臓器』と捉え直してみると、暴飲暴食で胃腸炎になるように、脳も使い方を間違えれば不調になる、ということが見えてきます。そして、社会性を司る脳は生涯発達し続けることなどを考え合わせると、脳科学は“現代人の必修科目”。脳科学を学ぶことは、自分の心を守り、他者を理解し、社会を円滑に回していく土台とも言えるのです」

体も脳も、加齢で衰えるという思い込みから離れ、年齢を重ねるほどに“育っていく力”に目を向けてみる。そして、脳科学を学び、脳との付き合い方を変えていくことを考えてみよう。

From Harper's BAZAAR October 2026

元記事で読む
次の記事
の記事をもっとみる

注目コンテンツ