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幽霊と話せる捨て子が「岬の魔女」を目指す? 少女たちの成長を描いた、ファンタジー長編小説『岬の魔女と頂の姫』【書評】

  • 2026.9.18
岬の魔女と頂の姫 野梨原花南/高星麻子/アース・スター文庫
岬の魔女と頂の姫 野梨原花南/高星麻子/アース・スター文庫

出自は選べない。どんな家に生まれ、どんな親元で育つのか、それは“運”のみによって決められる。それなのに、上流にいる者ほど「人生は平等だ」ときれいごとをのたまう。ただ、どんな出自であろうとも、己の可能性を諦めることはない。

野梨原花南氏によるファンタジー長編小説『岬の魔女と頂の姫』(野梨原花南/高星麻子/アース・スター文庫)に登場するルルは、捨て子であった。物語の舞台は、豊かな国、トーリンリマン。表向きがどれほど豊かであろうとも、すべての国民が豊かな国などあり得ない。ウイゲッシー魔法学園の門前に捨てられていたルルは、3歳から雑用をさせられ、物置小屋で寝泊まりをする生活を送っていた。誰もルルを自分たちと同じ“人間”として扱わない。そういう環境で育ったルルは、「幽霊と話せる」特殊能力を持ち合わせていた。

学園長は、ルルの自己申告による「幽霊と話せる」能力を信じていなかった。そのため、「幽霊たちに文字を教わり、本を読んで理解できたら生徒として扱ってやる」と安請け合いをする。結果、ルルは代償を払いながらも幽霊たちにさまざまな知識を教わり、学園長が差し出した『リートリートの書』をすべて唱え上げた。学園長は屁理屈をこねてルルの要求を突っぱねる。しかし結果的にはルルのほうが上手だった。生徒になったルルは、その後も差別や偏見に晒されるが、よき友人に恵まれ、満を持して「岬の魔女」になるべく旅立つ。

「岬の魔女」とは、トーリンリマンの繁栄を支える存在であり、「頂の者」と一蓮托生の間柄である。リッタ姫は、16歳の誕生日にリートリートの鐘を鳴らした。リッタ姫の父親を「頂の者」とする「岬の魔法師」のガンザ・ライオンは、彼女が鐘を鳴らすのを阻止しようと目論みたが、その野望は潰えた。だが、「頂の者」と「岬の魔女」が出会わなければ、代替わりは起きない。ガンザとリッタ姫の父親は、自分たちの契約が長きにわたり続くことを切望していた。だが、鐘は鳴った。鐘の音に誘われ、旅に出たルルの道程は、険しい獣道であった。

本書で描かれるのは、魔法ありきの冒険譚だけではない。ルルは旅路の中でさまざまな人々に出会い、少しずつ成長する。特殊な出自を持つ者は、そうでない者に比べて「わからない」ことが多い。相手の心の機微、他者との関わり方、自分の感情をコントロールする術など、本来なら親や教育者が教えてくれるはずだったことを、誰もルルに教えてくれなかった。強いて言うなら、それらをルルに教えたのは死者であり、死者の指南あって読み解いた書物が師であった。

引用----

“冒険の物語は、ルルの楽しみで、優しさも愛しさも、世間のことも、そこから学んだ。”

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この感覚に覚えがある。私もルルと同じように、物語の中からさまざまなことを学んだ。親が私に教え込もうとする事柄のほとんどが「嘘」であることを、幼心に知っていたのだと思う。

旅の序盤、ルルはアンザハンと名乗る青年と出会う。彼は、すでに亡き者と言われていたリッタ姫の兄だった。妹の苦境を助け、自分自身の人生を始めたい。そう告げる彼と、ルルは旅路を共にする。だが、目に余るほど無茶を続けるルルに対し、アンザハンは心配を募らせ、やがてその思いがすれ違いを招く。ルルは、生育環境の要因ゆえ、他者の不機嫌を必要以上に恐れる。アンザハンは、率直な思いを言葉にすることに長けていない。臆病者と不器用な者のすれ違いに胸が詰まるが、アンザハンが伝えた言葉は、たどたどしくも重く、この上ない慈愛に満ちていた。

引用----

“あたりまえに、ルルは、ルルを、安全に、大切に、扱わなきゃいけないの。”

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人間が生きていく上で、本来なら一番はじめに教わること。でも、この概念を欠片ほども教わらないまま大人になる人間もいる。そういう人の多くは、“人間扱い”されずに生きてきた。そのことに対する怒りが決して小さくないことが、本書の端々から伝わってくる。

ガンザもまた、彼なりの苦悩を抱えている。わかりやすい悪者がいる勧善懲悪の物語ではないところも、本書の魅力といえよう。冒険の中で描かれる少女の成長譚は、人間そのものの醜さ、愚かしさ、力強さを同時に描き出す。

引用----

“生きていることは、きっと死よりも強いのよ”

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ルルの言葉を抱きしめる。物語から多くを学んだルルは、のちに人間同士の関わり合いを通して、さらに深いところを知る。そうやって、生きていけばいい。生まれ持った財産が少なくても、諦めてしまうことはない。私たちの旅路は、生きる限り続く。ルルとリッタ姫の“これから”に思いを馳せながら、私は私の道を行こう。

文=碧月はる

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