1. トップ
  2. エピソード
  3. 「髪の毛、入ってたんだけど」ほとんど空の箱を差し出した客。高校生の私が覚えた違和感

「髪の毛、入ってたんだけど」ほとんど空の箱を差し出した客。高校生の私が覚えた違和感

  • 2026.9.18
「髪の毛、入ってたんだけど」ほとんど空の箱を差し出した客。高校生の私が覚えた違和感

ほとんど食べ終えた箱が、レジに置かれた

高校生のころ、鶏の唐揚げを売る店で働いていました。その日の私は夕方からレジを担当していました。

店に入る前には、髪が外へ出ないよう帽子の中へきちんと入れる。

それは初日に教えられた基本の決まりでした。

その人は揚げ物などを注文し、窓際の席で食べていました。

しばらくすると、紙の箱を持ってレジへ戻ってきました。中はほとんど空で、揚げ物が少し残っているだけでした。

「ちょっと、これ見て。髪の毛、入ってたんだけど」

差し出された箱をのぞくと、細い髪が一本ありました。

ただ、衣の中に絡んでいるようには見えませんでした。

残った揚げ物の表面に、ふわりと載っているように見えたのです。

私は一瞬、何とも言えない違和感を覚えました。

もちろん、それだけで髪がいつ入ったのかは分かりません。

高校生だった私が勝手に判断していいことでもありませんでした。

「申し訳ありません。確認しますね」

私が箱を見ていると、その人はもう一度、少し強い声で言いました。

「ほら、ここ。髪の毛が入ってたんです」

「すみません。店長を呼びますので、少々お待ちください」

私は奥へ向かって声をかけました。

「店長、ちょっとお願いできますか」

店長が並べたのは、確認できることだけだった

出てきた店長は箱を受け取り、髪を確認しました。

「不快な思いをさせてしまって、申し訳ありません。新しいものをご用意します」

その人は少し眉を寄せました。

「でも、そもそもどういう管理してるんですか?こういうの入らないようにしてるんですよね?」

「はい。スタッフは全員、髪が外に出ないよう帽子の中へ入れてから作業しています」

店長は自分の帽子の縁に軽く触れました。

それから、カウンターの内側にある詰め台を示しました。

「商品を箱に詰めるのはこちらです。客席からも見える位置で作業しています」

その人は店長の帽子を見て、それから詰め台のほうへ目を向けました。

店長はそれ以上、何も言いませんでした。

「こちらで入った髪ではありません」とも、「お客さまが入れたんですよね」とも言わず、普段どんな状態で商品を扱っているのかだけを説明していました。

しばらく黙ったあと、その人はさっきより小さな声で言いました。

「……じゃあ、新しいのをもらえますか」

「はい。すぐご用意します」

店長は新しい商品を箱に入れ、両手で差し出しました。

「お待たせしました。こちらです」

「どうも」

その人は箱を受け取ると、そのまま出口へ向かいました。

私は、ほとんど空だった箱と、揚げ物の上に載っていた一本の髪を思い出していました。

本当のところは、今でも分かりません。

ただ、店長が相手を決めつけず、こちらで確認できることだけを静かに伝えていた姿はよく覚えています。

その人が店を出たあと、店長が私に声をかけました。

「びっくりしたよね」

「はい。何て言えばいいのか分からなくて…」

「それでいいよ。分からないときは、自分で決めずに呼んでくれればいいから」

私はようやく肩の力を抜いて、「はい」と返しました。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ