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「もうすぐ出番なんであとにしてください」運動会の立ち見場所を占めていた父親。しかし、先生の一言で周囲を見た瞬間

  • 2026.9.18

最前列は、立ち見の場所と決まっていた

去年の秋、下の子が通う幼稚園の運動会があった。事前の案内には、場所取りは禁止、グラウンドの最前列は立ち見の場所とはっきり書かれていた。

私は開始の三十分前に着き、うしろのほうで競技が始まるのを待っていた。

ところが、最前列の中央にレジャーシートが一枚広げられていた。そこには一人の父親が座っていて、カメラを手元に置いていた。

周囲の保護者は、広げられたシートを避けるように左右へ分かれて立っている。

しばらくすると、係の先生が父親のそばへ行き、少しかがんで声をかけた。

「すみません。ここ、立って見る場所になっているので、シートはたたんでいただけますか」

父親はグラウンドのほうを見ながら答えた。

「いや、でも、近くで見たいんで」

先生は少し間を置いてから、もう一度説明した。

「お子さんを近くで見たいですよね。ただ、ここは場所取りをしない決まりなんです」

父親は困ったように眉を寄せた。

「もうすぐ出番なんであとにしてください」

声を荒らげているわけではなかった。ただ、シートをたたむ様子もなかった。

そのうち競技が始まり、父親は立ち上がってカメラを構えた。それでもシートは広げたままだったため、その場所だけぽっかりと空いていた。

「ここに立ちたい方もいるんです」

一つ目の競技が終わったところで、先ほどの先生がもう一度やってきた。

「すみません。やっぱりシートだけ、たたんでいただけませんか」

父親はカメラを下ろした。

「あとちょっとなんですよ。終わったら片づけますから」

先生はシートの左右に立っている保護者へ視線を向けた。

「お気持ちは分かります。でも、ここは皆さんが入れ替わりながら見る場所なんです」

父親は黙ったまま、先生を見ていた。

先生は広げられたシートを指した。

「今、このシートを避けて立っている方がいます。ここに立ってお子さんを見たい方もいるんです」

その言葉を聞いて、父親が初めて左右を見た。

すぐ横では、何人かの保護者がシートとの間を空けるようにして立っていた。

父親はしばらく黙っていたが、やがてカメラを下ろした。

「わかりましたよ」

そう言って膝をつき、シートの端を持ち上げた。

「これ、片づけます」

「ありがとうございます」

先生もそれ以上は何も言わなかった。

シートがたたまれると、それまで空いていた場所にも人が立てるようになった。父親もその場に残り、ほかの保護者と同じようにカメラを構えた。

隣に立っていた別の保護者が、小さな声で言った。

「先生、怒らなかったですね」

私はうなずいた。

「でも、ちゃんと伝わりましたね」

自分の子どもの姿を近くで見たい気持ちは、きっとそこにいる誰もが同じだった。

だからこそ、一人分の場所だけを確保するのではなく、譲り合いながら見るための決まりがあるのだと思う。

次の競技の音楽が流れ始めると、最前列にはまた、肩を並べて子どもたちを見守る保護者たちが立っていた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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