1. トップ
  2. エピソード
  3. 「うちが相談したと思われてるのかな」庭に出るたび聞こえた咳払い。駅までの道でも続いた違和感

「うちが相談したと思われてるのかな」庭に出るたび聞こえた咳払い。駅までの道でも続いた違和感

  • 2026.9.17

庭に出ると、塀の向こうで音がした

隣の家に若い夫婦が越してきたのは、三年前の春だった。小さい子どもが二人いて、休みの日には走り回るような音が聞こえることもあった。

四十を過ぎた私と妻の二人暮らしなので、最初は「にぎやかになったな」くらいに思っていた。

ところが夏の終わりごろ、近所で「子どもの足音について、どこかの家が相談したらしい」という話を聞いた。

誰が相談したのかまでは分からなかった。

そのころから、庭へ出ると塀の向こうから大きな咳払いが聞こえるようになった。

鉢を動かしていたときも、垣根の手入れをしていたときも、少しすると三度ほど聞こえてくる。

ある日、家へ戻ると妻が声を落として聞いてきた。

「今の、聞こえた?」

「うん」

「まただよね」

「……そうだな」

道で隣の夫婦と顔を合わせれば普通に会釈をする。ごみ集積所では、向こうから「おはようございます」と言われることさえあった。

だからこそ、私たちもどう受け取ればいいのか分からなかった。

「もしかして、うちが相談したと思われてるのかな」

妻がそう言ったこともある。

「分からない。でも、向こうから何か言われたわけじゃないしな」

「じゃあ、こっちから聞くのも変か…」

「今はやめておこう」

結局、そのまま様子を見ることにした。

駅へ向かう途中でも、背後から聞こえた

私は十年ほど、朝に走る習慣がある。そのため早い時間に玄関を出ることも多かったが、外へ出た直後に隣の家の方向から咳払いが聞こえる日もあった。

姿は見えないので、誰の咳なのかは分からない。

それでも何度か続くと、玄関を開ける前から身構えるようになった。

そんな日が続いた一週間ほど後、仕事へ向かって駅まで歩いていたときだった。

角を二つ曲がったところで、少し後ろから男性の足音が聞こえた。

信号で止まれば足音も止まり、歩き出すとまた続く。

その途中で、何度か大きな咳払いが聞こえた。

家の前で聞いていた音と似ている気がして、思わず振り返った。

若い男性が歩いていたが、こちらを見る様子はなかった。

その人が誰なのかも、咳払いに何か意味があったのかも分からない。

それでも、その日は妙に気になった。

帰宅して妻に話すと、箸を持つ手が止まった。

「駅まで?」

「うん。でも、その人が隣の人だったわけじゃないよ」

「それでも…続くと嫌だね」

「俺も気にしすぎかと思ったんだけど、ちょっと落ち着かなくて」

「一度、相談だけしてみたら?」

翌日、市の相談窓口に電話をした。

事情を話すと、気になった日時や回数を記録しておくよう勧められた。

そこでノートを一冊用意し、咳払いが気になった日だけ日付と状況を書くことにした。

しばらくすると、以前ほど頻繁には聞こえなくなった。

記録を始めたことと関係があるのか、それとも偶然なのかは分からない。

今では、何も聞こえない日のほうが多い。

それでも帰宅すると、妻が時々聞く。

「今日は大丈夫だった?」

「うん。今日は静かだったよ」

その言葉を口にすると、ようやく少し肩の力が抜ける。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ