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「言葉の裏を読みすぎると日本の国力衰退に繫がる」直木賞作家・小川哲が説く、微妙な関係の人からの誘いを“本気にしていい”理由

  • 2026.9.16

CREA2026年秋号の「1冊まるごと人生相談」特集が、現在好評発売中! CREA WEBではその一部を抜粋してご紹介します。

日露戦争前夜から第二次世界大戦が題材の『地図と拳』や火星が舞台のSF『火星の女王』など、さまざまな時空の人間模様を描いてきた作家が、人間関係に悩む読者にアドバイス(全2回の2回目/)。


【相談】親友が大きな病気になったとき

小川 哲さん。

【お悩み】
親友がステージ2の乳がんに罹って以来、何を言ってあげたらいいのかわかりません。本人は仕事を続けながら治療中で、職場でも限られた人にしかオープンにしていないそうです。どんな言葉が彼女を傷つけてしまうのか怖くて、言い方を考えていると連絡を取るのも億劫になります。言葉で人を支えたり、救ったりできるものでしょうか。(51歳・女性・ちいかわ大好き)

難しいですね。具体的に何を言えばいいのかは、僕にもわからないです。ただ重要なのは、限られた人にしか言っていない話を、自分に話してくれたってことですよね。親友の方は相談者さんのことを、すごく信用してくれている。つらいんだとか、病気についての話ができる相手として選んでもらえていると思うから、傷つけるかもしれないって理由で恐れているんだったら、気にせず連絡を取ったほうがいいと僕は思います。

こっちがいくら想像しても、相手にとってどれが傷つける言葉でどれが傷つけない言葉かなんて、わかるはずがないんです。言葉は相手を傷つけるかもしれないけれど、相手を救う可能性もあるわけで、それって実際にやり取りをするまではわからない。だったら、どんな言葉も相手を傷つけてしまうかもしれないことを引き受けたうえで、心配なんだったら心配だとか、困ったことがあったら教えてほしいとか、自分の思いを率直に伝えたらいいんじゃないかという気がするんです。

【相談】親の期待に沿う選択をしてしまう

小川 哲さん。

【お悩み】
親の期待から自由になりたいのに、気がつくと親が喜びそうな行動や選択をしてしまいます。大学選びも就職先選びも、特に「こうしなさい」と言われたわけではないのに、忖度(?)して生きてきました。同棲(最初は親に内緒で)を経て結婚もしましたが、同棲期間は落ち着かず、早く親に話したくってしょうがなかった。今は落ち着いていますが、こういう気持ちや行動は一生付き纏うものでしょうか。(32歳・女性・くまきち)

はしごを外すような物言いになってしまうんですが、誰にも忖度せず、自分の意思だけで大学とか就職先を選べる人がいるとは、僕は思えないんですよね。相談者の方にとってはそれが親だっただけで、みんな何かしら、世間の空気とか周囲の友人とかから影響を受けて人生の選択をしているし、誰かに忖度しながら生きている。

むしろ「親の目を気にしている」という自覚があったうえで選択をしている状況は、自覚がないよりもいい。自分の意思で選択をしているつもりだけど、知らず知らずのうちに誰かから強い影響を受けていた、みたいなほうが危ない。最近はインフルエンサーとか、影響力の高い人たちがいっぱい目に入るじゃないですか。そういった素性の知れない人たちを参照して生きていくより、よっぽどまともだろうという気がします。

僕が心配なのは、おそらく親は相談者の方よりも先に亡くなるわけじゃないですか。人生にとっての参照先が失われたときに、自分はどう動けばいいかという基準を失うことにならなければいいな、と。ただまぁ、相談者さんは結局親に内緒で同棲できているし、本当に自分で決めたいことは自分で決めている。大丈夫そうですね。

【相談】微妙な関係の知り合いに、飲み会に誘われた場合

小川 哲さん。

【お悩み】
仕事で知り合った「友人」と呼べるか微妙なラインの関係の人に、飲みや遊びに誘われることがあります。気が進まない相手のときには色々と理由をつけて断りますが、好感をもっている相手の場合、行きたい気持ちもありつつ「もしかしたら社交辞令?」と勘ぐってしまい、誘いにのっていいものか迷います。(31歳・女性・ピラティスマニア)

これに関しては明確に、僕の中に答えがありますね。本気にしていい、です。例えば飲み会の後、気になっていた異性から「今度遊びましょう」って連絡が来たら、日程を詰めにいって全然大丈夫です。そこでもし「いや、あれは社交辞令だから」みたいな反応をしてきたら、そいつが悪い。無責任で、つまらない人間だったんだと判断していい。

現代社会は恋愛に限らず、必要以上にコミュニケーションが高度になって、言葉の裏の裏まで読もうとしすぎなんですよね。それこそ「社交辞令かも?」とか勘ぐりすぎて、縮まるべき距離が縮まってないケースが多い。そうやって嫌われたらどうしようとか迷惑だと思われたらどうしようって動けないでいるうちに、新しい出会いがなくなっていって、人間関係がどんどん狭くなっていく。それがひいては婚姻率の低下に繫がり、少子化に繫がり、日本の国力衰退に繫がっていくのではないかと、かなり本気で思っています。

踏み込めるときには踏み込んで、相手との距離をグッと縮めていく。相手に引かれたらそれはそれ。そのときは、そもそも脈がなかったんだなとか、自分とは合わなかったんだと早めに知れて良かったな、でいいと思うんです。

続きは「CREA」2026年秋号でお読みいただけます。

小川 哲(おがわ・さとし)

作家。1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年、『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。23年『地図と拳』で第168回直木三十五賞を、『君のクイズ』で第76回日本推理作家協会賞を受賞。9月30日に『オルロージュ』(講談社)が発売になる。

『屁理屈と哲学』

著者がこれまで執筆してきたあらゆるテキストから格言や寓話、アフォリズム、パンチラインのような印象的な文言を収集した“箴言集”。小川流の発想や哲学が開陳されている。

定価 1,320円(税込)
集英社

文=吉田大助 写真=平松市聖

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