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すでに花嫁が死んでいる結婚式に、代理出席をお願いされた? 中国の「冥婚」をルーツにした五感を刺激するホラーミステリー小説『囁く逆婿』【書評】

  • 2026.9.10
『囁く逆婿 怪民研に於ける記録と推理』 (三津田 信三 / KADOKAWA)
『囁く逆婿 怪民研に於ける記録と推理』 (三津田 信三 / KADOKAWA)

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引用----

「瞳星さんには、異母姉である美々子の結婚式兼披露宴に、私の代わりに出てほしいんです」

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無明大学の一回生である百古里民恵に、同じく無明大学三回生の瞳星愛が荒唐無稽な頼まれ事をされる場面から物語は始まる。

身内でもない人間から「自分の代わりに結婚式に出席してほしい」と頼まれることなど普通に考えてあり得ない。しかもその花嫁である美々子はすでに亡くなっているというではないか。

これは一体どういうことなのだろうか。

無明大学の図書館棟の地階の一室にある怪異民俗学研究室、その主の刀城言耶の助手である天弓馬人が謎を解く人気シリーズの第三弾。

今回の舞台は奈良県の丹生谷村。そこには古くから村を二分するほど力のある二つの名家があった。百古里家と田染家である。

しかし、ある事件をきっかけに田染家は没落してしまう。

それは現在の百古里家の当主である美世の弟である文郎が田染家の娘と結婚し、婿入りすることが決まったときのことだった。相手の花嫁には兄がいて、妹を溺愛していた。そして有ろうことか妹の披露宴に乱入し、日本刀で文郎の首を一刀の下に、すぱっと切断してしまう。その首は逆さまの状態で文郎の膝の上にぽとっと落ちたという。この一件から両家の間に因縁が生まれたのは言うまでもない。

一方で、日本には御霊信仰というものがある。

祟りそうな存在を祀りあげることで逆にご利益を受ける、というものがそれで、文郎も身代わり堂という御堂に祀られ、新たな名称〈逆婿様〉を得ることになった。

文郎の事件から時間が経ち、美世の孫である美々子は田染家の人間である真之輔と恋仲になる。二人は御堂で逢瀬を交わすようになり、愛を深めていた。

そんなある日、村の医師である井丸が御堂の中で倒れている美々子を見つける。美々子はすでに事切れていて、井丸は吊るされてあった天秤棒が運悪く美々子の頭部を強打したのだと考えた。

しかし、その考えはすぐに覆されることになる。

美々子の頭部には傷口が二箇所あったからである。

引用----

「誰かが殴った?」

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瞳星愛が出席を頼まれた奇妙な結婚式兼披露宴のルーツは中国の「冥婚」にある。冥婚とは、未婚のまま亡くなった人のために、死後の世界での配偶者を用意して結婚させる風習のことで、百古里家ではそれは「霊婚」と呼ばれていた。霊婚には、亡くなった美々子は花嫁姿の肖像画で、お婿である田染真之輔は存命であるのにもかかわらず生き人形で参加することになっている。

愛から間接的に話を聞き、安楽椅子探偵的に事件に立ち向かうのが、前述の天弓馬人である。

天弓は怪異譚蒐集家でもある刀城言耶の助手にもかかわらず極度の怖がりのため、非科学的な事象を人間の仕業であったと証明するために探偵的な役割を担っている。天弓は正義の名の下に事件を解決するのではなく、自分を安心させるために推理を働かせる。また、事件に巻き込まれ、翻弄され、怪異を体験し、捻れた形で天弓の興味を引く瞳星愛のキャラクターは唯一無二である。

独特な擬音と五感を刺激する描写が生み出す臨場感と、それによる圧倒的な恐怖。

「あるはずのものがない」「ないはずのものがある」という感覚的な違和感を見事なロジックで解いていく推理。

ホラーとミステリーのバランスの良さでは群を抜いている今シリーズの異様な世界観は一読の価値ありである。

文=斉藤紳士

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