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「これ、まだこんなに残ってる」葬儀後の会食。親族が帰った宴会場で、私が見てしまった光景

  • 2026.9.11

祖父の会食で、カニの足だけが膳に残った

祖父の葬儀のあと、参列してくれた人と親族で、祖父の家の近くにある小さな旅館の宴会場を借りて会食をしました。

一人ずつ用意された膳には、煮物や汁物に混じって、立派なカニの足と爪がのっていました。

叔母がカニを前にして、困ったように箸を止めました。

「ねえ、これ…どこから食べるの?」

「切れ目が入ってるから、そこから開けるんじゃないか?」

伯父もそう言いながら爪をひっくり返していますが、あまり自信はなさそうです。

「いや、全然取れないな。こんな難しかったっけ」

「うちでカニなんて、ほとんど食べないものね」

母も苦笑いしながら殻をつついていました。

私も真似をしてみましたが、身がきれいに抜けません。

喪服の袖を汚すのも嫌で、途中から諦めてしまいました。

「もういいや。これ以上やったら飛び散りそう」

「分かる。私もここまででいいわ」

そんなことを言いながら、いつの間にか話題は祖父の思い出に変わっていきました。

汁物も煮物も食べ終わったころには、カニだけが皿に残っています。

叔母が自分の皿を見て、小さくため息をつきました。

「ああ、もったいないね。まだ身が残ってるんだけどなあ」

「でも、みんな同じようなものよ。今日はもういいんじゃない?」

周りを見ると、身の残った皿は五人分ありました。

私と母、叔母、伯父、いとこの分です。

結局、そのまま膳を残して席を立つことになりました。

会食が終わると、親族はぞろぞろと玄関へ向かいました。

私は途中で母の袖を引きます。

「ごめん、ちょっとトイレ寄ってく。先行ってて」

「分かった。外で待ってるね」

親族が出たあとの宴会場から聞こえた声

用を済ませ、来たときと同じ廊下を戻りました。

親族はもう玄関へ向かったあとで、辺りはしんとしています。

宴会場の襖だけが開いたままで、中の明かりが廊下まで伸びていました。

そのときです。

「うわ、これ…まだこんなに残ってる」

宴会場の中から女性の声が聞こえました。

誰かと話しているのかと思い、何となく中を見ると、片付けをしていた旅館の従業員の女性が座卓の間に膝をついていました。

「もったいないなあ。ちゃんと身、入ってるのに」

女性はそうつぶやきながら、私たちが残した皿の一つからカニの足を持ち上げました。

次の瞬間、殻を割り、中の身を口に入れたのです。

私は一瞬、何を見ているのか分かりませんでした。

「え…」

思わず小さな声が漏れました。

女性がこちらを振り向きます。

目が合うと、女性も「あっ」というように動きを止めました。

私も何か言おうとしましたが、言葉が出てきません。

結局、気まずさに耐えられず、そのまま視線をそらして廊下を抜けました。

玄関まで戻ると、母が私の顔を見ます。

「遅かったね。どうしたの?」

「……ううん。ちょっとびっくりしただけ」

「何に?」

「いや、いい。帰ろう」

その場では、どう説明したらいいのか分かりませんでした。

駐車場へ出て車に乗り込んでからも、さっきの光景が頭から離れません。

私たちが食べ切れなかったカニを「もったいない」と思った気持ちは、分からなくもありません。

それでも、客が残した料理を片付けの途中で口にする姿を目の前で見てしまうと、何とも言えない気持ちになりました。

今でもカニを見ると、ときどきあの静かな宴会場を思い出します。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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