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「駅から近いって書いてあっただろ」ホテルのロビーで苦情を言う客。だが、私が感じた違和感とは

  • 2026.9.11

隣のカウンターで、声だけが大きくなっていく

チェックインの列に並んでいると、隣のカウンターから苛立った声が聞こえてきた。

白髪の男性と、その少し後ろに立つ同年代くらいの女性。

フロントの若い男性は、困った表情を浮かべながら何度も頭を下げていた。

時計は午後三時を回ったばかり。団体客の到着も重なり、カウンターはすべて埋まっていた。

「だから、君に言っても仕方ないんだよ。責任者の人、呼んでくれる?」

「申し訳ございません。まず私のほうでお話を伺ってもよろしいでしょうか」

「もう何度も話してるでしょう。駅から近いって書いてあったから予約したのに、ずいぶん歩いたんだよ」

男性は足元の大きなキャリーケースを指さした。

「これを引いて歩いてきたんだ。こっちは旅行で来てるんだからさ」

後ろの女性が小さくため息をつく。

「もういいじゃない。着いたんだから」

「よくないよ。近いと思って選んだんだから」

男性の声はだんだん大きくなっていった。

私が列に並んでからでも、もう五分近く同じやり取りが続いている。

これから泊まるホテルなのに、なんとも居心地の悪い空気だった。

やがて奥の扉が開き、紺色のジャケットを着た年配の男性が出てきた。

胸元の名札には支配人と書かれている。

「お待たせいたしました」

男性はすぐに振り返った。

「駅から近いっていうから取ったのに、こんなに歩くとは思わなかったんですよ」

私も同じ駅から歩いてきたばかりだった

その言葉を聞いて、私は少し首をかしげた。

というのも、私もつい先ほど同じ駅から歩いてきたばかりだったからだ。

キャリーケースを引いていたとはいえ、それほど遠かった記憶はない。

気になってスマートフォンの地図を開いてみると、駅の改札からホテルまでは徒歩でおよそ六分。

大通り沿いをほぼまっすぐ歩く道だった。

支配人も落ち着いた声で説明を始めた。

「お荷物が大きい中、お越しいただきありがとうございます。当館では駅から徒歩約六分とご案内しております」

「六分って言ったってね、荷物を持ってたらもっとかかるでしょう」

「そうですね。お荷物が多いと、長く感じられることもあると思います」

男性は少し意外そうな顔をした。

支配人は続けた。

「次に駅へ向かわれる際など、必要でしたらタクシーの手配もいたしますので、お声がけください」

「そういうことじゃないんだけど…」

さっきまでの勢いが少しだけ弱くなった。

後ろの女性がキャリーケースの持ち手をつかむ。

「ほら、お父さん。もう部屋行こうよ。私、疲れちゃった」

「分かったよ。別に怒りたいわけじゃないんだから」

男性はそう言いながらも、まだ少し不満そうな顔をしていた。

「今度から、荷物が多い人にも分かるようにしておいてくださいよ」

「ご意見ありがとうございます」

支配人が頭を下げると、二人はようやくエレベーターのほうへ向かった。

ロビーの空気が、少しだけ軽くなった気がした。

やがて私の番になり、先ほど対応していた若いスタッフが申し訳なさそうに笑った。

「大変お待たせいたしました」

「いえいえ…大丈夫ですか?」

思わずそう聞くと、彼は一瞬だけ目を丸くして、それから小さく笑った。

「ありがとうございます。大丈夫です。いろいろなお客様がいらっしゃいますので」

その言い方が妙に疲れていて、私はそれ以上何も聞けなかった。

地図に表示された「徒歩約六分」の文字を思い出しながら、同じ距離でも、人によって感じ方はずいぶん違うものなのだと思った。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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