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ロンシャンがパリでアートフェスティバルを初開催。好奇心を刺激するアートとの出合い

  • 2026.9.10
Hearst Owned

1948年にパリで創業したロンシャン。革巻きパイプの製造からスタートし、ラゲージ、バッグ、プレタポルテへとクリエイションの領域を広げてきたメゾンは、現在も創業一族が経営を担う独立企業だ。そんなロンシャンにとって、アートは決して新しい領域ではない。50年以上にわたりファッションとアートの対話を重ね、アイコニックな“ル プリアージュ®”をキャンバスに、さまざまなアーティストとのコラボレーションを実現してきた。店舗やオフィスには収集したアートを飾り、若い才能の支援にも取り組んでいる。

長年育んできたアートへの情熱を、もっと多くの人とシェアしたい──。そんな思いから、ロンシャンのアーティスティック ディレクター、ソフィー・ドゥラフォンテーヌと、舞台芸術のキュレーター・芸術監督・プロデューサーとして活動するオリヴィエ・バスエが共同で企画した「ロンシャン・アートフェスティバル」が、パリのマレ地区で開催された。9月4〜6日の3日間、無料で開放され、誰もが気軽にアートに触れられる機会となった。会場は、ポンピドゥー・センターからほど近いギャラリー・ジョセフ。地下を含む3フロアにアートが並び、開放感のある吹き抜けからは自然光がたっぷりと降り注ぐ。作品を美しく引き立てる光に恵まれていることに加え、ギャラリーやショップが点在し、パリのカルチャーを発信し続けるマレ地区というロケーションもこの会場を選んだ決め手になったという。

今回掲げたテーマは、「Creative Curiosity(創造的好奇心)」と「Movement(動き)」。職人の手仕事やデザイナーの筆致、旅や出会いから生まれる発見──「Movement」は、1948年の創業以来、メゾンのクリエイションを動かしてきたエネルギーでもある。一方、好奇心の赴くままに新しい発想や出会いを楽しむ「Creative Curiosity」は、2026-27年秋冬コレクションにも通じるキーワードだ。

展示の中心となったのは、ロンシャン ファミリーが長年にわたって収集してきた現代アートのコレクション。世界各国から約30人のアーティストとデザイナーが参加し、絵画や彫刻、インスタレーション、デザイン、そしてダンスや音楽など多彩なパフォーマンスも繰り広げられた。鮮やかな色彩や躍動感、遊び心にあふれたアートから伝わるのは、自由でポジティブなエネルギー。まさにメゾンがこれまでファッションで表現してきた世界観を、ここではアートをとおして感じ取ることができる。

グザヴィエ・ヴェイヤン《Mobile n°3》 Hearst Owned

会場内に足を踏み入れてまず目に飛び込んでくるのが、吹き抜けの高い天井から吊られたグザヴィエ・ヴェイヤンの《Mobile n°3》。フランス現代アートを代表する作家のひとりである彼は、彫刻やインスタレーション、映像、パフォーマンスをとおして、知覚や空間を探求してきた。自然光の中に浮かぶこの作品は、吹き抜けから差し込む光やわずかな空気の流れによってゆっくりと揺れる。ヴェイヤンにとってモビールは、捉えることのできない現在の連続性や、流れる時間を映し出す存在。この場所だからこそ引き出される繊細な“Movement”が印象的だった。

フェリペ・パントン《Optichromie Structural Instability 1》 Hearst Owned

同じフロアには、スペインのアーティスト、フェリペ・パントンの《Optichromie Structural Instability 1》も。鮮やかな色彩やグラデーション、ピクセルを思わせるパターンが組み合わされ、見る位置や角度によって線が揺れたり奥行きが変化したりするように感じられる。その視覚体験も面白さだ。

デボラ・オリー&ケン・ブラワーによる作品。 Hearst Owned

その近くには、ダンスの躍動を捉えた一枚がある。ブルックリンを拠点に活動するデボラ・オリー&ケン・ブラワーは、ダンスの魅力を写真で伝える「NYC Dance Project」を手がけるアーティスト・デュオ。展示された写真には、当時マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーのソリストだったシャーロット・ランドローが写し出されている。身体がもっとも高く舞い上がった瞬間を捉え、宙に広がるドレスまでもがダンサーの勢いを引き継ぐように伸びていく。

西川裕子によるワイヤーと紙を使った作品。 Hearst Owned

上階へ進むと、彫刻や家具、テキスタイルなど、素材もアプローチも多彩に。ブルックリン在住の日本人アーティスト西川裕子は、インテリアやインダストリアルデザインを学んだ後、陶芸との出合いをきっかけに、流動的で詩的な世界観を追求してきた。今回のモビールは、エクアドルの町ミンドを取り囲む雲霧林からインスピレーションを得た作品。わずかな空気の流れに揺らぎながら、浮遊するような風景を描き出す。

また、日仏をルーツに持つアーティスト、ティファニー・ブエルの水彩画からは、日本とのつながりも見えてくる。書道家の祖父から伝統的な書の技法を学んだブエルは、筆致を幾度も重ね、絵画とダンスの間を行き来するような独自のリズムを生み出す。今回展示されたのは、東京の旗艦店のために制作された一作。自然や旅、出会いから得たインスピレーションと、身体から生まれる筆の軌跡が重なり合う。

トーマス・ヘザウィックが手がけた《Spun Chair》。 Hearst Owned
キャロライン・ヘランによるテキスタイル作品。 Hearst Owned

ブエルのように、メゾンと以前から縁のあるクリエイターも多く参加した。ニ

ューヨークの店舗デザインを手がけたトーマス・ヘザウィックは、コマから着想した《Spun Chair》を展示。腰を下ろすと身体とともにくるりと回転する、椅子であり彫刻でもあるような作品だ。座るという行為を遊びに変える発想も楽しい。

ブリュッセルを拠点とするキャロライン・ヘランのテキスタイルアートも並ぶ。植物や風景を着想源に、布をフリーハンドで裁断し、異なる色や質感を重ねて制作。2026-27年秋冬コレクションでは彼女とのコラボレーションも実現し、その作品を“着用可能なアート”へと落とし込んだ。

コンピューターコードを用いて光や音、空間を扱う1024 Architectureによる作品。 Hearst Owned

地下へ降りると、自然光に満ちた上階から一転して暗がりに。そこで光を放つのが、フランスのクリエイティブスタジオ、1024 Architectureによる《Volume》。医療用スキャナーが生み出す画像からアイデアを得た作品で、幾層にも重ねたLEDの光が刻々と変化し、暗闇のなかに立体的な空間を浮かび上がらせる。現れては消える光によって、空間そのものが絶えず姿を変えていく。

ダミアン・プーラン《Bric à Bric》 Hearst Owned

見るだけでなく、参加できる作品もある。ダミアン・プーランの《Bric à Bric》では、来場者がカラフルなパーツを自由に動かし、積み上げながら作品に参加。子どもも大人も、思い思いの形をつくって楽しんでいた。

さらに会場では、元パリ・オペラ座バレエ団エトワールのマリ=アニエス・ジロらによるダンスや、クラシックピアノとDJカルチャーを融合するマティアス・ミムーンの演奏、約20人のシンガーからなるWe Are Oneのライブも。絵画や彫刻から、デザイン、ダンス、音楽までが同じ空間に交ざり合う3日間となった。

アートを見る、椅子に座る、作品に触れる、音楽を聴く。そこには難しいルールも、決まった楽しみ方もない。好奇心の赴くままに会場を歩き、それぞれの方法でクリエイションと出合う──。初開催となった「ロンシャン・アートフェスティバル」は、“Creative Curiosity”という言葉をそのまま体験するような場となった。

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