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「今、その話する?」焼香の列で香典の金額を聞いた親戚。誰も注意できなかった葬儀の空気

  • 2026.9.10

読経が途切れた瞬間、その声だけが響いた

祖母の葬儀の日でした。

九十を過ぎていた祖母を見送るため、遠方から来た人も含めて親族が集まり、式場は静かな空気に包まれていました。

焼香が始まり、私も親族の列に並んでいました。

そのとき、少し前から急に大きな声が聞こえてきたのです。

「なあ。香典、いくら包んだ?」

声をかけたのは親戚の一人でした。三人ほど前に並んでいた男性に向かって、普段の会話とほとんど変わらない調子で尋ねています。

ちょうど読経が途切れたところでした。

その声が思った以上に式場へ響き、近くにいた人たちが一斉に顔を上げました。

尋ねられた男性は振り返りません。

少し間を置いてから、低い声で返しました。

「…今、その話する?」

それでも親戚は、あまり気にした様子がありません。

「いや、ちょっと気になってさ。うち、五万にしたんだよ」

男性がようやく少しだけ振り返りました。

「だから、あとでいいだろ」

「多かったかなと思って。みんなどのくらいなのかなって」

責めるような言い方ではありませんでした。本当に、自分が包んだ金額が気になっているだけなのだと思います。

ただ、今は祖母を見送っている最中です。

その場には親族が20人ほどいました。あちこちから視線が集まっていましたが、誰も声をかけません。

私も心の中では、「今じゃないでしょう」と思っていました。

けれど、この静かな場所で自分まで声を出したら、余計に空気を乱してしまう気もして、結局何も言えませんでした。

誰かが言うだろうと思ったまま、列は動き出した

隣にいた叔母が、困ったようにこちらを見ました。

小さく息を吐いてから、私にだけ聞こえる声でつぶやきます。

「もう…今聞くことじゃないでしょうに」

私はうなずくだけでした。

前に並んでいた男性は、それ以上返事をせず、数珠を持ち直しています。

少しすると、司会の男性がマイクの前から声をかけました。

「恐れ入ります。前の方から、順にお進みください」

その声で、止まりかけていた列がまた少しずつ動き始めました。

親戚もそれ以上は金額について尋ねませんでした。

そのまま順番を待って焼香を済ませ、戻ってくる途中で私と目が合うと、いつものように軽く会釈しました。

まるで、さっきのやり取りなど何もなかったようでした。

精進落としの席でも、その話が蒸し返されることはありませんでした。

親戚も普通にほかの人と話していて、周りもわざわざ触れようとはしません。

式がすべて終わり、控室で少し落ち着いたころ、従兄が湯呑みを置きながら言いました。

「さっきの、びっくりしたな」

「うん」

思わず、私は従兄の顔を見ました。

「私も。誰か言うかなって、ずっと思ってた」

従兄が苦笑します。

「みんな同じこと思ってたのかもな」

「たぶんね」

金額が気になった気持ちは分かります。

ただ、聞くならせめて式が終わってからにしてほしかった。誰も口には出さなかったものの、あの場にいた人たちの表情を思い返すと、今でもそう思います。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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