1. トップ
  2. エピソード
  3. 「あなたの歩き方、危ないわよ」駅でスーツケースが引っかかった女性。40年近く経っても忘れられない一言

「あなたの歩き方、危ないわよ」駅でスーツケースが引っかかった女性。40年近く経っても忘れられない一言

  • 2026.9.8
「あなたの歩き方、危ないわよ」駅でスーツケースが引っかかった女性。40年近く経っても忘れられない一言

スーツケースの車輪が、溝にはまった

二十代の後半だったころ、旅行の途中で大きな駅を乗り換えていた。

人の流れが何方向にも分かれる広い駅で、私は重いスーツケースを引きながら、次に乗る電車のホームを探していた。

エスカレーターを降りて少し歩いたところで、突然スーツケースが動かなくなった。

振り返ると、キャスターが点字ブロックの溝にはまっていた。

前へ引いてみても抜けない。後ろから人も来ていたので、私はすぐにスーツケースを持ち上げ、通行の邪魔にならないよう脇へ寄ろうとした。

ほんの数秒のことだった。

そのとき、横を通り過ぎようとしていた女性が私のほうを見て言った。

「あなたの歩き方、危ないわよ」

「え?」

思わず声を出したが、女性は立ち止まらなかった。そのまま人の流れに乗って、先へ歩いていった。

私は持ち上げたスーツケースを下ろしながら、しばらくその後ろ姿を見ていた。

たしかに荷物が止まったことで、一瞬だけ歩く流れを乱してしまったのかもしれない。

でも、自分ではすぐに直したつもりだった。それだけに、「危ない」と言われたことが思いのほか心に残った。

旅の途中で、何度も思い出した

そのあと電車に乗っても、先ほどの一言が頭から離れなかった。

宿に着いてスーツケースを部屋の隅に置いたときにも思い出した。

翌朝、出かける準備をしているときにも、またあの声が浮かんだ。

同行していた人から、「さっきから静かだけど、どうしたの」と聞かれた。

「駅で、知らない人に歩き方が危ないって言われて」

事情を話すと、相手は少し驚いたあと、「そういうことを、すぐ口にする人もいるよ」と言った。

私も「そうだね」と答えた。その場ではそれで終わった。

けれど、気持ちの中ではなかなか終わらなかった。

あれから四十年近く経つ。あの日に乗った電車の色も、駅の名前も、もうはっきりとは覚えていない。

それでも、通りすがりに言われたあの一言だけは、なぜか今も覚えている。

女性にとっては、その場で気になったことを口にしただけだったのかもしれない。けれど、言われた側には思いがけず長く残る言葉もあるのだと思う。

今でも旅先でスーツケースの車輪が何かに引っかかると、私はすぐに荷物を持ち上げる。そして、ときどきあの日の声を思い出す。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ