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父の葬儀に届いた52個の盛り籠。兄「この中身、終わったら頂戴」と言われ、翌日会場に戻ると、思わず言葉を失った

  • 2026.9.7

数えたら、五十二個あった

父の葬儀のときのことです。

父は長く事業をしていました。

人にものを贈るのが好きな人で、盆と暮れになると、あちこちへ品物を送っていました。

送り先の名前を紙に並べ、それを見ながら電話をしたり、送り状を書いたりする父の背中を、私は子どものころから見ていました。

通夜の会場に入ると、壁に沿って盛り籠がずらりと並んでいました。

一つひとつに送り主の名前が書かれた札がついています。

知らない名前もたくさんありました。

父が仕事を通じて付き合ってきた方たちなのだろうと思いながら数えてみると、全部で五十二個ありました。

その日のことです。

香典の受付をしてくださっていた方が、兄に声をかけました。

「この盛り籠の中身、葬儀が終わったら頂戴」

私は少し驚きました。まだ通夜の最中だったからです。

兄も戸惑ったように見えましたが、朝から慌ただしく動き続けていたこともあり、強く断ることはしませんでした。

「ああ…はい」

そのやり取りを聞いていた別の人も、自分も欲しいという話を始めました。

一人が言うと、また一人。どの盛り籠の中身を持ち帰りたいのかという話が、受付の近くで次々に出るようになりました。

私は黙って聞いていました。

まだ父の葬儀が終わっていないのに。

これは父に届いたものなのに。

そう思うと腹が立ちましたが、その場で口を挟むことはできませんでした。

翌日、残っていたのは空の籠だった

翌日、火葬を終えて会場へ戻りました。

そこで私は、思わず足を止めました。

盛り籠は前日と同じように壁沿いに並んでいました。札もそのままです。

ただ、中身だけがありませんでした。

一つだけではありません。

見渡す限り、どの籠も空になっていました。

兄が近くの籠を見ながら言いました。

「全部、持って帰られたみたい」

「ひとつも?」

「ひとつも」

五十二個あった盛り籠の中身が、一つも残っていませんでした。

私はやはり、すぐには納得できませんでした。父への気持ちとして届いたものを、葬儀が終わる前から欲しいと言われたことへの引っかかりも残っていました。

すると、そばにいた親戚が空になった籠を見て、小さく言いました。

「あの人らしいよ、これ」

父のことでした。

そのときは、素直にそう思うことができませんでした。

ただ、時間がたってから、ときどきその言葉を思い出します。

父は、自分が何かをもらうことより、人に渡すことを楽しむ人でした。

もちろん、今回のことを父自身が望んでいたのかは分かりません。今でも、通夜の最中から中身の話をされたことには、少し複雑な気持ちがあります。

それでも、もし父があの空の盛り籠を見ていたら、「みんな持って帰ったなら、それでいい」と笑ったのかもしれません。

盆や暮れが来て誰かに贈り物をするとき、私は今でも父のことを思い出します。

人に何かを渡すのが好きだった父の姿だけは、五十二個の空の籠と一緒に、今もはっきり覚えています。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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