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「今日で会社を退職しまして」一人でお祝いに来た男性客。会計のあとに残された、小さな紙に書かれていたのは

  • 2026.9.7
「今日で会社を退職しまして」一人でお祝いに来た男性客。会計のあとに残された、小さな紙に書かれていたのは

昼どきだけ、一気に忙しくなる店だった

学生のころ、飲食店で接客のアルバイトをしていました。

ふだんは比較的静かな店でしたが、昼どきになると一気に混み始めます。

入口には待っているお客様が並び、厨房からは料理ができたという声が飛んできます。私はトレーや水差しを持って店内を行き来しながら、空いた席を確認したり、次のお客様をご案内したりしていました。

その日、少し年配の男性が一人で来店されました。

席について注文を伺うと、男性はメニューを見ながら少し迷っていました。

「すみません。えっと、日替わりの…いや、こちらをお願いします」

指がメニューの上を行ったり来たりしています。私が伝票を書いているあいだには、肘が水のグラスに当たりそうになり、男性は慌てて両手で押さえていました。

椅子には浅く腰かけ、上着も膝の上に抱えたままです。

そこは入口に近く、店員が何度も後ろを通る席でした。扉が開くたびに外の音も入ってきます。

私は、少し落ち着かないのかもしれないと思いました。

空いた窓ぎわの席を案内した

ちょうどそのとき、奥の窓ぎわの席が一つ空きました。

「よろしければ、あちらのお席へ移られますか」

そう声をかけると、男性は少し驚いた顔をしました。

「あ、いいんですか。ありがとうございます」

男性は伝票と上着を持って立ち上がりました。私は水のグラスを持ち、一緒に窓ぎわの席まで運びました。

「ごゆっくりどうぞ」

私がしたのは、それだけです。

まだ入口にはお客様が並んでいたので、私はすぐに仕事へ戻りました。その後、男性がどんなふうに食事をしていたのかも、ほとんど見ていませんでした。

しばらくして昼の混雑が落ち着いたころ、その男性が会計に来られました。

お会計を済ませる前に、男性は少し照れたように笑って言いました。

「実は今日で会社を退職しまして。一人でお祝いのランチに来たんです」

私は思わず男性の顔を見ました。

「こういうの、慣れていなくて。ちょっと緊張してしまって……注文もうまくできなくて」

そして、もう一度小さく頭を下げました。

「静かな席にしてくださって、嬉しかったです」

会計のあとに残された、小さな紙

席を替えたとき、私は男性が退職した日だとはまったく知りませんでした。

ただ、入口近くの席では落ち着かなそうに見えた。それだけで声をかけただけでした。

会計を終えた男性は、帰り際にカウンターへ小さな紙を一枚置いていきました。

そこには、「ありがとうございました」と一言だけ書かれていました。

私はおつりを片づけながら、その紙をしばらく見ていました。

自分にとっては、忙しい時間の中で何気なくした接客でした。でも、その日は男性にとって、長く勤めた会社を退職した特別な一日だったのです。

その後、私はアルバイトを辞め、別の仕事も経験しました。それでも、あの日の小さな紙のことは今でも覚えています。

ほんの少し相手の様子を見てしたことが、思いがけず喜んでもらえることもあるのだと知った出来事でした。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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