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大学入試の女子枠は「逆差別」?東大の女子率はじっさい何割?ジェンダーの疑問に回答【アルテイシア×太田啓子】

  • 2026.9.4

「多様性」や「ジェンダー平等」が重視される中、大学入試などで女性向けの特別枠を設ける動きも広がっています。一方で、こうした制度について「逆差別ではないか」という意見も見られます。大学入試の女子枠は、男女平等の観点からどのように考えるべきなのでしょうか。

こうした疑問に長年向き合ってきたのが、ジェンダーやフェミニズムに関する著作を多数持つ作家・アルテイシア氏と、家族問題を中心に活動し、ジェンダーと憲法に関心を寄せる弁護士・太田啓子氏です。

2人は日本全国の学校から講師として呼ばれ、ジェンダーに関する授業を行う中で寄せられた、生徒たちの質問・疑問・モヤモヤを一冊の本にまとめました。本記事ではその書籍の中から、日本において大学入試の「女子枠」がどのような役割を果たしているのかを紹介します。

※本記事は書籍『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』(アルテイシア、太田啓子:著/集英社)から一部抜粋・編集したものです
※イラスト/マシモユウ

 

大学入試で女子枠をつくるのは「逆差別」?

Q.勉強できる女子はたくさんいるのに、大学入試で女子枠をつくるのは逆差別ではないですか?

 

アルテイシア(以下、アル):「大学入試の女子枠は逆差別なのでは?」というのは、最近一番よくある質問かも。ネットでもこの話題になるとバルサン焚いたみたいにクソリプがわくし。

 

太田啓子(以下、太田):男子からも女子からも出るよね。入試は個人の選択と努力の結果だから平等にやるべき、という気持ちはわかる。

でも、高校生の男女の成績の差はないのに、東大などのいわゆる難関大学であるほど女子割合は低く、また、理系学部の女子割合は低いというような状況をみると、進路選択に本人の意思とか努力以外の社会的な要因があるのは明らかでしょう。

そういう社会全体のアンバランスを是正するための措置のひとつだといえます。

歴史的に差別を受けてきた集団に対して積極的に機会を提供し、社会的な不平等を是正するための取り組み、アファーマティブアクション(積極的格差是正措置)という性格がある。あくまで過渡期の措置としていまは意味があるはず。

 

アル:私も若いころは「受験も就活も努力してきたのに、下駄を履いてると思われるなんて許せん!」って思ってたけど、それは社会が見えてなかったから。

世の中には努力したくてもできない環境にいる人、選択肢すら奪われてる人もいることに当時は気づけなかった。

親の経済格差が子どもの教育格差に直結している問題もあるし、ジェンダーの問題もあるよね。親の教育投資にはジェンダー差があって、娘より息子に教育費をかける傾向がある。

20代の女友達は、父親に「女は大学なんか行かなくていい」 「弟の学費を出すためにおまえは諦めろ」と言われて進学できなかったことが今でも悔しいって泣いてたよ。

 

太田:「女に学はいらない」 は昔の話じゃないんだよね。 「息子は勉強を頑張ってほしいけど、娘はそんな無理させなくても。女の子なんだから」とか言う親はいまでもいるよ。

 

アル:「女の子は浪人するべきじゃない」 「女の子は地元の大学に」と言われて進路を諦めざるをえなかった女子が、 「女子枠」があることで夢を諦めずにすむかもしれない。

 

太田:そもそも難関大学や理系の学部を受験する女子が少ないのは、志を低く抑え込むようなストッパーがそこらじゅうにあるからですよね。とりわけ地方出身の女子には抑圧が多い(※1)。

そういう抑圧を解除していくために、社会はいろんな仕掛けをつくらないといけない。そのひとつが入試の女子枠ということですよね。最近は大学自身が理系の女子学生を増やそうと努力してるし。

女子枠だけで解決するわけじゃないけど、社会全体で努力する中のひとつの取り組みなんだ、という説明を大学がもっとすることも必要だと思う。

 

アル:女子校の存在意義のひとつは、優秀な理系の女性を育成することだと国際的にも言われてるらしい。私の母校の女子校は、医学部やその他の理系学部に進む生徒が6割以上と聞きました。

卒業生には東大医学部卒で外科医から宇宙飛行士になった女性がいるんだけど、そういう先輩がいたら後輩たちも理系をめざしてみようってエンパワーされるよね。

 

太田:女子枠が必要とされる理由もそこなんだよね。女子を優遇しようというんじゃなく、チャレンジする気持ちを削がないようにしようってこと。

「女の子が無理して東大に行かなくても」 「東大卒の女は嫁のもらい手がない」みたいな世間の価値観のために、無意識のうちに自分の志望を低く見積もってしまう女性が多いから。

 

アル:ハーバード大やマサチューセッツ工科大のような世界のトップ校はほぼ男女同数だし、女子のほうが多い大学もある。

日本でも18歳男女の学力は同じなのに、東大に女子学生が2割程度しかいないのは、受験する女子が少ないから。

国際的に見ても日本の女子学生は理系の成績も優秀なのに理系に女子が極端に少ないのは、そもそも進路として選んでないから。

それは大学にとっても社会にとっても損失だし、優秀な女子に選んでもらうために女子枠を設けるってこと。

 

太田:そう。優秀じゃない女子を入れたいんじゃなく、優秀な女子に選んでほしいんだよね。

ただ同世代の男子としては、自分が性差別的な社会を作ってきたわけでもないのに、女子と合格倍率が違うのは納得いかないって気持ちもわかる。

そういう男の子には、「たしかに今の社会のジェンダー不平等は前の世代が作ったものだから、あなたのせいではない。けれども、何もしなければその不平等は次の世代にも受け継がれてしまう。人権の観点から、あらゆる差別をなくす努力をする責務はみんなある。それに、差別的な構造がある社会のままでは、あなたにも不利益がある。重要な意思決定をする、あらゆるポジションで多様性があるほうが社会全体が発展するのに、今はそうじゃないんだから」って伝えるかな。

「多様性は能力に勝る定理」というのがあって、簡単にいうと一定の条件のもとでは「少数のエリートが集まるよりも、平凡でも多様な考え方を持つ人が集まったほうが、難しい問題をうまく解決できる」という考え。

政治や経営など複雑な課題は、少数のエリート男性だけで決めるより、女性などマイノリティを含む多様な視点が加わることで、新たな観点をふまえた解釈ができて、集団全体としての認識能力、紛争解決能力が向上するんだよね。

 

アル:男性中心のままの日本の理系分野は多様性を欠き、イノベーションを生み出せず、結果的に国際競争力を失っている。

 

太田:女性の視点がないまま製品を開発してきたことで、人の命にかかわるような格差が生まれてしまうこともあるよね。

たとえば、自動車事故は男性のほうが事故に遭う確率が高い一方で、女性のほうが重症化や死亡するケースが多いんだよね。

これは自動車メーカーがシートベルトを開発する際、男性の体格を標準としてテストしてきたことが背景にある、と指摘されてます(※2)。

 

アル:自分の大切な女性が事故で死んじゃうかもしれない。それが嫌なら入試の倍率ぐらい我慢しようよ、つか、こっちは命の危険があるんですよ!

 

太田:東大の副学長の矢口祐人さんの『なぜ東大は男だらけなのか』(集英社新書、2024年)にこんな一節があります。

「男性優位の構造の社会に生きているということは、自らも差別の構造の一部になっているのだという意識も必要である」 。

つまり日本社会のジェンダー不平等はいまの中高生のせいではないけど、その中で何も考えずに過ごしていたら差別構造を認めることになってしまう。

自分は認めてないよと思うなら、性差別をなくすための変革をみんなで進めましょう、ってことですね。

 

アル:大事なポイントは、女子枠やクオータ制はあくまで過渡期の期間限定的なものだってこと。何もしなくても男女同数になる時代が来れば必要なくなるし、一日も早くそんな未来が見たいですよ。

※1 この問題については『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』江森百花、川崎莉音(光文社新書、2024年)に詳しい。
※2 「15歳のニュース 事故データを分析 女性の方がケガをしやすい? 続く男性基準の実験」 『毎日新聞』2024年3月16日より。

 

 

 

■著者:アルテイシア
 
作家、頌栄短期大学非常勤講師。神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、性教育、性暴力、毒親などをテーマに執筆、講演や授業も多数行う。全国でジェンダーしゃべり場を企画/出演。著書『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』ほか多数。
 

■著者:太田啓子(おおた・けいこ)
 
家族関係の仕事を多く手がける弁護士。関心事はジェンダーと憲法。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。著書『これからの男の子たちへ』(大月書店)が反響を呼び、 韓国 ・ 台湾 ・タイほかで翻訳出版。他の著書に 『100年先の憲法へ』(太郎次郎社エディタス)、 『いばらの道の男の子たちへ』(共著、光文社)。

 

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