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「その千円札じゃなくて、こっちのにして」レジの中へ手を伸ばした客。だが、店長が静かに止めた一言

  • 2026.9.1
「その千円札じゃなくて、こっちのにして」レジの中へ手を伸ばした客。だが、店長が静かに止めた一言

名前を聞けないまま流れた注文

大学生のころ、駅前の総菜店でアルバイトをしていました。

揚げ物は注文を受けてから作るため、お名前を伺い、出来上がったらお呼びする決まりでした。

夜の混み始めた時間、一人の男性のお客さまがカウンターへ来ました。

「唐揚げ、大きいほう一つね」

「ありがとうございます。お名前だけ伺ってもよろしいですか?」

ところが、男性は返事をしないまま売り場の奥へ歩いていってしまいました。

「あ、お客さま……」

呼び止めかけましたが、すぐ後ろには次のお客さまが待っています。追いかけるわけにもいかず、私は伝票にカウンターの番号だけを書いて厨房へ回しました。

何人かのお会計を終えたころ、先ほどの男性が戻ってきました。

「ねえ、さっきの唐揚げ、まだ?」

「申し訳ありません。今、揚げておりますので、もう少々お待ちいただけますか」

「まだなの?もう結構待ってるんだけど」

男性は明らかにいら立っていました。

「すみません。出来上がりましたら、こちらからお声がけします」

そう答えながらも、私は緊張していました。名前を聞けなかったことを今さら説明したら、さらに怒らせてしまう気がしたのです。

レジへ伸びてきた手

少しして唐揚げが出来上がり、男性のお会計をすることになりました。

五千円札をお預かりし、私はレジからお釣りを取り出しました。

すると男性が、私の手元を見て顔をしかめます。

「あ、その千円札、ちょっとしわになってるな」

「あ、失礼しました」

別の札に替えようとした、そのときでした。

「そっちのきれいなのあるだろ。こっち、こっち」

男性の手が、開いたままのレジへ伸びてきたのです。

「あ…すみません、そこは…」

とっさに声が小さくなりました。

その瞬間、横から店長が一歩前に出ました。男性の腕をつかむことも、大声を出すこともありません。ただ、私とレジの間に自然に入ったのです。

「すみません。レジの中にはお手を入れないようお願いします」

男性の手が止まりました。

「いや、取るつもりじゃないよ。これにしてって言っただけ」

少しムッとした声でした。

店長は表情を変えません。

「はい、分かっています。こちらで交換しますので、少々お待ちください」

責めるような口調ではなく、本当にそれだけでした。

男性も「……じゃあ、それで」と小さく答え、手を引きました。

店長がきれいな千円札を選び直して渡すと、男性はお釣りと唐揚げの袋を受け取り、そのまま店を出ていきました。

私はしばらく手が震えていました。

店を閉めたあと、店長が事務所で声をかけてくれました。

「さっき、怖かったでしょう」

「……はい。どう言えばいいのか、分からなくなってしまって」

そう答えると、店長は少しだけうなずきました。

「ああいうときは、自分で何とかしなくていいから。困ったらすぐ呼んで」

「でも、私がちゃんと名前を聞けていなくて……」

「それと、レジに手を入れていいかどうかは別の話だから」

その言葉を聞いて、ようやく肩の力が抜けました。

あの夜から、困ったお客さまを前にしたとき、「自分一人で何とかしなければ」と思い込むことは少なくなりました。

今でも覚えているのは、レジへ伸びてきた手よりも、「困ったらすぐ呼んで」と言ってくれた店長の声です。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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