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「だめ、今は絶対に笑ったらだめ」高い声の読経に戸惑った私。だが、読経を終えた僧侶にかけた一言

  • 2026.9.1
「だめ、今は絶対に笑ったらだめ」高い声の読経に戸惑った私。だが、読経を終えた僧侶にかけた一言

線香の匂いだけがしていた本堂で

親戚の葬儀に参列した日のことです。本堂は静まり返っていて、線香の匂いが漂っていました。私は末席に座り、膝の上で手を重ねていました。

やがて読経が始まりました。

私は勝手に、お経というものは低い声で淡々と続くものだと思っていました。ところが、その日の僧侶の声は思ったより高く、ときどき大きく響きます。

鈴の音もはっきりしていて、そのたびに私は少し驚きました。

もちろん、ふざけているわけではありません。真剣に読経されていることも分かっています。

それなのに、一度「声が高いな」と意識してしまうと、なぜかそこばかり気になってしまいました。

「だめ、今は絶対に笑ったらだめ」

そう思えば思うほど、口元に力が入ります。

私はとうとう顔を上げられなくなり、膝のあたりをじっと見つめていました。

隣に座っていた親も、さっきから妙に下を向いたままです。最初は具合でも悪いのかと思いましたが、声をかけられる雰囲気でもありません。

読経が続くあいだ、私はとにかく誰とも目を合わせないようにしていました。

終わった瞬間は、悲しさとは別の意味でも、ようやく息をつけたような気持ちでした。

会食の席で、親が小声で言った

そのあと会食の席へ移り、私は親の隣に座りました。

お茶が配られ、私が湯呑みに口をつけようとしたときです。親がこちらを見て、声を落としました。

「あんたも堪えてたやろ」

私は思わず親の顔を見ました。

「……分かった?」

「分かるわ。手、震えてたもん」

「そっちこそ、ずっと下向いてたやん」

そう返すと、親は口元を押さえました。

「だって、一回気になったらあかんわ。顔上げたら絶対あんたと目ぇ合うと思って」

私も同じことを考えていました。

二人で笑うわけにもいかず、しばらく湯呑みを見ながら肩を震わせていました。

そこへ、先ほど読経されていた若い僧侶が挨拶に来られました。

「本日はお疲れさまでした」

私たちも慌てて姿勢を正しました。

少し話したあと、親がためらいながら言いました。

「あの…よく通るお声ですね」

すると僧侶は、少し笑って答えました。

「そうなんです。昔から声が高くて。初めて聞く方には、驚かれることもあります」

その言い方があまりにも普通だったので、私はかえって肩の力が抜けました。

親も「そうなんですね」と笑いながらうなずきます。

すると近くにいた伯母が、「でも後ろまで、よう聞こえてましたよ」と声をかけました。

僧侶は少しうれしそうに、

「それならよかったです」

と頭を下げました。

帰りの車の中で、親がぽつりと言いました。

「あの人、別に何もおかしなことしてへんのにな」

「うん。こっちが勝手に意識しすぎただけやな」

そこでようやく、二人で少し笑いました。

笑ってはいけないと思うほど、なぜか笑いそうになることがあります。あの日の読経を思い出すと、今でも僧侶の声より、必死に下を向いていた親の姿のほうが先に浮かびます。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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