1. トップ
  2. エピソード
  3. 「なんで今日、それ履いてたの?」葬儀から帰って喪服を脱いだ妹。だが、思わず家族に笑みが溢れたワケ

「なんで今日、それ履いてたの?」葬儀から帰って喪服を脱いだ妹。だが、思わず家族に笑みが溢れたワケ

  • 2026.8.30
「なんで今日、それ履いてたの?」葬儀から帰って喪服を脱いだ妹。だが、思わず家族に笑みが溢れたワケ

朝から、家の中には重たい空気が流れていた

祖父の葬儀の日のことです。まだ寒い時期で、朝早くから家族で支度をしていました。

母は必要なものを何度も確認し、父は時計を気にしています。

私も慣れない黒いネクタイを締めながら、ほとんど口を開きませんでした。

妹も黒いパンツスーツに着替え、玄関で靴を履きながら言いました。

「今日くらいは、ちゃんとしないとね」

普段は明るくてよくしゃべる妹ですが、その日は葬儀のあいだも静かでした。

親戚への挨拶もきちんとしていて、焼香の順番を待つ姿もいつになく緊張して見えました。

式が終わるころには、家族全員がすっかり疲れていました。

喪服のズボンを脱いだ妹を見て、母が止まった

帰宅すると、それぞれ自分の部屋や居間で着替え始めました。

私はネクタイをゆるめ、父も上着を脱いでいました。

少しして、黒いスーツのズボンを脱いだ妹が居間へ入ってきます。

その姿を見た母が、急に妹の足元を見て止まりました。

「ちょっと待って、その七福神のズボンは何?」

見ると妹は、喪服の下に派手な柄の薄手のズボンを履いていました。

そこには七福神が並んでいて、黒一色だった一日のあとだけに、余計に目立って見えました。

私と父も思わず妹の足元を見ます。

「なんで今日、それ履いてたの?」

私が聞くと、妹は自分のズボンを見下ろしてから答えました。

「朝寒かったから、下に一枚履いただけ。柄まで見てなかった」

慌ただしく支度をして、たまたま手近にあったものを履いたそうです。

母はあきれたように七福神を見つめていましたが、妹は少し考えてから言いました。

「まあでも、縁起はよさそうじゃない?」

その瞬間、父が吹き出しました。

張りつめていた空気が、少しだけほどけた

「いや、今日はそういう日じゃないだろう」

父が笑いながら言うと、私も耐えられなくなりました。母も「よりによって七福神って」と言いながら笑っています。

朝からずっと悲しさと慌ただしさのほうが先に立ち、祖父の思い出をゆっくり話すような余裕はありませんでした。

けれど、その七福神をきっかけに、母がぽつりと「おじいちゃん、こういう派手なの好きだったよね」と言いました。

そこから、祖父が昔着ていた派手なシャツの話や、家族を笑わせたときの話が少しずつ出てきました。

もちろん、悲しい気持ちがなくなったわけではありません。

ただ、一日中張りつめていたものが、そのときだけ少しほどけたように感じました。

あれから何年か経ちましたが、家族で祖父の話をすると、ときどきあの日の七福神のズボンも話題になります。

妹は今でも、「縁起はよかったでしょ」と笑います。葬儀の日の記憶の中に、そんな場面が一つ残っていることを、私は悪くないと思っています。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ