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「100:0ではないんですね…」19時前後、スマホ歩きの高校生と接触した60代男性に生じた“過失割合”

  • 2026.9.8
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出典元:PIXTA(画像はイメージです)

「100:0ではないんですね」

契約者のAさん(60代・男性)は、電話口でそう話しました。

日が落ちた住宅街の中を車で走行していたAさんは、突然道路を横切ってきた高校生と接触しました。相手は転倒し、軽いケガを負っています。

車と歩行者の事故なのだから、車側がすべての責任を負うことになる。そう受け止める方は、少なくないように思います。しかし今回のケースで、Aさんの過失は70%として決着しました。

数字を動かしたのは、Aさんのドライブレコーダーに残っていた、小さな光でした。今回は、損害保険会社で私が担当した夜間の歩行者事故のお話です。

日が落ちた住宅街で

事故が起きたのは、日没も早くなり始めた秋口の頃。時刻は19時前後でした。

現場は住宅街の片側一車線の道路。道幅は狭く、歩車道の区別もありません。さらに街灯も少ないため、日が落ちればかなり暗くなる場所でした。

Aさんは普段からこの道を通っており、いつも30キロ程度で走ることにしていたそうです。暗い道であることも分かっていたため、速度を落として走行していました。

そこへ、道路の左端から高校生のBさん(10代・男性)があらわれ、横切ってきました。避けきれず、Aさんの車の左ミラーがBさんに接触。Bさんは転倒します。

不幸中の幸いというべきか、Bさんのケガは擦り傷と打撲、そして捻挫で、骨折などの大きなケガはありませんでした。

映っていたのは、下から光に照らされた顔

事故当時、Bさんが着ていたのは、黒っぽい服でした。街灯の少ない道では、見つけやすい服装だったとはいえません。実際、Aさんも「道の端から急にあらわれたように思えました。まったく気づかなかった」と話していました。

私は、まずAさんのドライブレコーダーを確認します。

映像には、Bさんがうつむきながら道路の左端から車道へ入ってくる様子が映っています。

そして、その顔はうっすらと下から照らされていました。

Bさんの手元にあったのは、スマートフォン。Bさんは画面を見たまま、周囲の状況を確認することなく道路を横切っていたのです。

のちに相手方の保険会社から聞いた話では、Bさんは「スマートフォンに夢中で、周りが暗くなっていることに気づきませんでした」と話していたそうです。

過失割合が動いた4つの理由

次に、私は事故現場について改めて整理しました。

Bさんが横断した地点は、最も近い横断歩道から30メートル以上離れていた場所。つまり、横断歩道の付近とはみなされない位置です。

このような横断歩道以外の場所での事故では、過失割合は80:20(Aさん:Bさん)が基本です。歩行者が横断歩道以外を渡っていた場合でも、車側により重い責任が置かれます。ここから、現場の状況に応じた修正が加えられていきます。

考えられる修正要素は、4つでした。

1つ目は、夜間であったこと。車はライトを点けるため、歩行者からは簡単に確認ができますが、車側は逆です。そのため、歩行者側の責任を一定程度認め、車側の過失割合が5%減算されます。

2つ目に、事故現場が住宅街であったこと。これは、車側の過失割合が5%加算される要素です。住宅街は歩行者の通行が当然に想定される場所であり、車側の責任は重くなります。

3つ目は、現場の道路には歩車道の区別がなかったこと。これも同じく車側の過失割合が5%加算されます。歩道がない道路では、車は歩行者により注意して走行すべきとされます。

そして4つ目は、Bさんがスマートフォンの画面を見たまま横断していたこと。これは歩行者側の危険な行為、「著しい過失」にあたり、車側の過失割合を10%減算する方向に働きます。

これらを加減した結果、事故状況だけを見た過失割合としては、75:25(Aさん:Bさん)が妥当であると判断しました。

説明を受けたAさんは、こう言いました。

「スマホを見ていたことまで、過失割合に反映されるんですか」

確かに、車と歩行者では危険性の違いから、一般的に車の責任が重くなります。しかし歩行者だからといって、危険な歩き方をしていいわけではないのです。

Aさんの自己負担とBさんの反省

Bさん側からは「Aさんに迷惑をかけた」として、歩み寄る申し入れがありました。それを踏まえて交渉し、最終的な過失割合は70:30(Aさん:Bさん)で合意しました。

Aさんの車のミラーの修理費は、約50,000円。このうちBさんの過失分にあたる30%、15,000円をBさん側から受け取っています。Aさんは車両保険に加入していなかったため、残りの約35,000円は自己負担となりました。

Bさんのスマートフォンも破損していましたが、親御さんが「子どもにもしっかり反省させたい」として、請求はありませんでした。

Bさんのケガについては、Aさんの対人賠償責任保険で対応することになりました。

ここで補足すると、自動車保険は自賠責保険が土台にあり、その上限を超えた分を任意保険が引き受ける仕組みです。今回は賠償額が自賠責保険の範囲内で収まったため、任意保険からの支払いは発生していません。等級が下がるのは原則として任意保険を使った場合なので、Aさんの保険等級は下がらず、翌年の保険料にも影響はありませんでした。

Bさんが軽傷で済んだ理由

ここで触れておきたいのは、事故が起きる前のAさんの行動です。

Aさんは、この道が暗くなることを分かっていました。そのため速度を落として走行し続けました。もし普段どおりの30キロのまま接触していれば、Bさんのケガは擦り傷や打撲では済まなかった可能性が高いです。

あわせて、夜間の運転で知っておきたいものに蒸発(グレア)現象があります。自分の車と対向車のヘッドライトの光が重なる場所で、その間にいる歩行者の姿が、まるで蒸発したかのように見えなくなる現象です。今回のBさんのような暗い色の服装であれば、なおのこと見つけにくくなります。

対向車とすれ違う場面では、その手前も直後も「歩行者がいるかもしれない」と考えておく。歩行者側は黒い服を避け、車から見えるライトなどを持ち歩く。夜の道路では、双方の意識が大きな事故を減らすことにつながるのです。

その光は、車には届かない

夜の道で危険なのは、暗さだけではありません。

Bさん自身が手にしていたスマートフォンは、Bさんの顔を下から照らしていました。しかしその光は、これから渡ろうとしていた道路への注意を奪ってしまいました。

これから、日が落ちる時間はどんどん早くなっていきます。いつもの道が、いつもより早く暗く変わっていく季節です。

手の中のスマートフォンの小さな光では、車側からは歩行者を認識できず、事故は防げない。それどころか、危険を呼び込むこともあるのです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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