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「やけどしちゃうぜっ!」20年前、19歳の【国民的女優】が人気俳優に放った一言。今年、結婚を報告した彼女の現在地

  • 2026.10.9
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2006年9月、映画『涙そうそう』初日舞台あいさつに登壇した長澤まさみ(C)SANKEI

20年前の2006年9月30日、東京・有楽町で、映画『涙そうそう』の初日舞台挨拶が行われた。上映を終えたばかりの劇場は、子どもからお年寄りまでの観客で満員に埋まり、盛大で暖かな拍手に包まれていた。壇上に並んだのは、メガホンをとった土井裕泰監督、小泉今日子、麻生久美子、そして血のつながらない兄妹を演じた妻夫木聡と、当時19歳の長澤まさみだ。

兄役の妻夫木との共演について尋ねられた長澤は、妻夫木をすごく生きている感じがする俳優さんだと評し、「温度を感じました」と語り、さらに「近寄ったらやけどしちゃうぜっ!」と言い足した。

思いがけないフレーズに、妻夫木は「おれってそんなに古いイメージなんだ!?」と笑い、場内はなごやかな笑いに包まれる。

褒め言葉としては、ずいぶん風変わりな言い回しだったかもしれない。けれどそれは、どこかから借りてきた大人の決まり文句などではなく、19歳の彼女が自身の感覚を総動員して、目の前にいる妻夫木聡という役者の熱量をなんとか言い当てようとした、混じり気のない生の言葉だったように思う。

沖縄の2か月が宿した兄妹の体温

あのとき長澤が口にした「温度」という感覚。それは、その場の思いつきではなかったと思う。

撮影は2006年5月から6月にかけての約2か月間、沖縄で行われた。スタッフや妻夫木とひとつの場所でずっと一緒に過ごす、いわば合宿のような生活。そのロケのさなかに、長澤は19歳の誕生日を迎えている。

堀越高校を卒業したこの年、長澤はまさに疾風怒濤の勢いの中にいた。NHK大河ドラマ『功名が辻』に出演し、8月下旬にはヒロインを務めた映画『ラフ ROUGH』が封切られた。その1か月余りあとに『涙そうそう』が公開され、秋には連続ドラマ『セーラー服と機関銃』の主演も控えていた。

主演作が続き、めまぐるしく大人の階段を駆け上がっていた19歳を、沖縄の現場で力強く受け止めたのが、ほかならぬ妻夫木だった。

クランクアップの日に開かれた会見で、長澤は妻夫木を「“俺の道”というものを持っている方」と表現している。画面越しに見ていた頃から、役者こそ自分の生きる道だと全身で示している人に見えていたが、現場で真正面からぶつかってみると、その直感に狂いはなかった。

思い切りぶつかっていっても、きちんと受け止めてくれる安心感。もうひとりお兄ちゃんができた感じだと語った長澤にとって、妻夫木が放つ熱量は、まさに肌で触れた、やけどしそうなほどの体温だったのだろう。

心から泣くと決めた長澤と背中を押した言葉

タイトルの「涙そうそう」は、涙がぽろぽろとこぼれ落ちるという意味だ。兄・洋太郎の愛情を一身に受けて、まっすぐに育った妹・カオル。長澤はこの作品に挑むにあたり、タイトルにもある涙に目を向け、本番で心から泣ける芝居を自らに課した。思い通りにいかないことも多かったが、迎えたラストシーンでは会心の涙を流すことができた。

翌2007年の第30回日本アカデミー賞では、妻夫木が優秀主演男優賞、長澤が優秀主演女優賞を受け、劇中の兄妹がそろって名を連ねた。

公開から14年後の2020年、長澤は沖縄市のカフェ映画館「シアタードーナツ・オキナワ」と結んだオンライントークに出演し、14年という時間が信じられないと口にした。あの2か月の撮影を、楽しくて濃密だったと振り返っている。

そのトークの中で明かされたのが、撮影中に義母役の小泉今日子から、自分と似ていると言われた話だった。自信のないタイプだった長澤にとって、初日の舞台あいさつにも並んでいた大先輩からのその一言は、自信につながった。トークでは、妻夫木の写真に向かって劇中の呼び名「兄ィニィ」で呼びかける場面を再現してみせ、会場を沸かせた。

「言葉に出して」から「言葉にする前の気持ち」へ

あの2006年の初日の舞台あいさつは、エンディングの光景が強く胸に残る。

琉球衣装の女性たちから花束が贈られ、いよいよ終演の時間が近づく。感極まった妻夫木は、人はひとりで生きているのではなく、いろんな人に支えられて生きていることを忘れないでほしいと、観客へ語りかけた。

その兄の思いを受け取るように、長澤が最後に客席へ投げかけたのは、シンプルで切実な願いだった。家に帰ったら大切な人に、ありがとうという気持ちを「言葉に出して伝えてください」と呼びかけて、舞台あいさつを締めくくった。

舞台の幕開けには、妻夫木を語るのに「温度」や「やけど」といった感覚的な表現を手探りで差し出していた19歳。その彼女が、舞台の去り際に客席へ託したのは、気持ちをちゃんと言葉にして手渡してほしいという願いだったのだ。

そして2026年、長澤まさみは元日に結婚を報告し、3月には映画『ドールハウス』で第49回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞に輝いた。『涙そうそう』で手にしたのと同じ賞だ。

11月3日には、天才気象予報官の青山真琴を演じる映画『ゴジラ-0.0』が公開される。11月27日には、主演映画『このごにおよんで愛など』の公開も控えている。夫と恋人という二つの愛を手に入れようとして、突拍子もない提案から3人の生活を始める絵本作家の役柄だ。

2026年9月、この作品に寄せて彼女が綴ったコメントが、実に深く胸に刺さる。長澤は「自分の気持ちって、言葉にしないとなかなか人に伝わらない」と記している。

それは、19歳のあの日、劇場の客席に呼びかけたメッセージと確かに地続きの実感だろう。だが、彼女の思考はそこにとどまらない。この映画を観たら、言葉にする前の人の気持ちを知ろうとするきっかけをもらえる気がする、と続けている。

「近寄ったらやけどしちゃうぜっ!」と場内を笑わせ、手持ちの言葉で懸命に感情の輪郭を掴もうとしていた19歳の長澤まさみ。20年という豊かなキャリアを重ねた彼女は今、言葉として差し出されたものだけでなく、言葉になる前の気持ちにまで、静かに耳を澄ませようとしている。


※記事は執筆時点の情報です

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