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かつて一世を風靡したトップアイドル。オノ・ヨーコに呼ばれた武道館→“水商売の母”へ…50代で見せる新境地

  • 2026.10.2
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2006年11月、ジョン・レノン スーパー・ライヴ」で朗読をした宮沢りえ(C)SANKEI

20年前の2006年9月、日本武道館で開催される『ジョン・レノン スーパー・ライヴ』の第1弾出演者が発表された。恵まれない国々に学校を贈るチャリティとして2001年に始まり、6回目を迎えていた同ライヴ。その出演者の中に、歌い手ではない名前があった。

提唱者であるオノ・ヨーコをはじめ、佐野元春、平原綾香といった錚々たる音楽家たち。その輪の中に、当時33歳の俳優・宮沢りえがいた。

歌い手たちが魂をぶつけ合うステージに、なぜ彼女が選ばれたのか。オファーを出したのは、ほかでもないオノ・ヨーコ自身だった。決め手は、宮沢がそれまで重ねてきた詩の朗読などの活動だった。

音楽が主役の夜に、歌ではなく言葉と声を託される。いま振り返れば、2006年の秋冬は、宮沢が俳優としてさらなる表現の高みへと駆け上がっていく鮮烈な転換期だった。

「嬉しくたのしく」に込められた高揚

かねてからジョンとヨーコの二人に憧れていた宮沢は、この大役を快諾した。発表に際して寄せたコメントには、素直な歓びが満ちている。

このチャリティで、ジョン・レノンという人の強く生き続ける想いと、世界中の子供たちの無限に広がる可能性に出会うことを、宮沢は「嬉しくたのしく思います」と言い表した。「嬉しく」に平仮名の「たのしく」を重ねたフレーズからは、憧れの存在から声がかかった表現者の、内から弾けるような鼓動が伝わってくる。

ジョンの誕生日にあたる10月9日には全出演者が発表され、Cocco、斉藤和義、スキマスイッチ、LOVE PSYCHEDELICO、曽我部恵一、そしてお笑い芸人のパックンマックンらが名を連ねた。ミュージシャンがひしめく武道館の舞台に、11月4日、宮沢りえも立った。

当時の宮沢は、まさにキャリアの充実期にあった。6月に是枝裕和監督の映画『花よりもなほ』が公開されたほか、ライヴの9日後には江崎グリコのCM会見にも登場。「伊右衛門」や「ヴィッツ」とCM出演が相次いだ。

香港映画『華の愛』でのモスクワ国際映画祭最優秀女優賞、『たそがれ清兵衛』での日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを経て、かつてのアイドルは、押しも押されもせぬ演技派としての地歩を固めていたのである。

祈りの武道館から暴力が渦巻くリングの下へ

武道館のステージからわずか1か月後の12月5日、NODA・MAP第12回公演『ロープ』が開幕した。野田秀樹が作・演出を手がけ、藤原竜也、渡辺えり子(現・渡辺えり)、宇梶剛士ら実力派が顔を揃えたこの舞台のセットは、白いマットのプロレスリングだった。

宮沢が演じたのは、そのリングの下に棲みつく謎めいた女「タマシイ」。未来からやってきたと信じる彼女は、不可解なほど巧みにリング上の出来事を実況し続ける。その声は、やがてリング上でぶつかり合う人間たちの「力」へと向かっていく。

秋の武道館では、子どもたちの未来を思い、ジョンの遺した想いを分かち合う側に立つ。ところがそのわずか数週間後には、リングの下から、人間の暴力を言葉で実況する役を演じているのだ。同じ年の同じ表現者に、これほど対極にある声の仕事が巡ってきたことに、演劇人としての底知れなさを感じる。

開幕から半月後の12月20日、宮沢は第41回紀伊國屋演劇賞の個人賞に輝いた。受賞理由は、まさに『ロープ』におけるタマシイの演技だった。

メアリーと言葉を発しない息子の母

2026年、50代を迎えた宮沢りえは、今なお言葉の最前線で闘い続けている。

4月、PARCO劇場で主演舞台『メアリー・ステュアート』(栗山民也演出)の幕が上がった。スコットランド女王メアリーを演じる宮沢と、イングランド女王エリザベス1世を演じる若村麻由美。運命に翻弄された二人の女王の物語には、東京のあと福岡、兵庫、愛知、北海道を巡る日程が組まれた。1か月の稽古で栗山から受け取った言葉を心いっぱいに染み込ませた彼女は、開幕に寄せたコメントを「前を向いて挑戦し続けたい」と結び、舞台の中央に立った。

そして9月25日、映画『しびれ』が劇場公開された。

内山拓也監督が故郷・新潟を舞台に描いた自伝的作品で、主演は北村匠海。宮沢が演じるのは、主人公・大地の母である亜樹だ。

大地は幼少期、暴君のようだった父の影響で、言葉を発することができない。一方の亜樹は水商売で暮らしを立て、ほとんど家にも寄り付かない母親だ。内山監督の『佐々木、イン、マイマイン』が大好きで、どんな役でも受けたいと思っていた宮沢は、苦しいことやつらいことを自分の中で変換している亜樹を、「生きるための選択をしていく強い人」と捉えた。

思えば20年前、オノ・ヨーコがその才能に目を留めたのは、宮沢りえの朗読だった。武道館に招かれたその人は、リングの下から人間の闘いを実況し、スコットランドの女王を演じ、いま、言葉を発しない息子の母として震える声を聞かせている。

映画館の暗がりでその母の声を耳にするとき、ふと思い出したい。あの20年前の秋、オノ・ヨーコに呼ばれて武道館に立った、33歳の彼女の姿を。


※記事は執筆時点の情報です

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