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「面白かったでしょ?」“自信満々”に記者へ放った【朝ドラヒロイン】NHKドラマに引っ張りだこの女優とは?

  • 2026.9.29
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2011年4月、「名前をなくした女神」制作発表会見に出席した尾野真千子(C)SANKEI

15年前の2011年9月、NHKの連続テレビ小説『カーネーション』の完成披露会見でのことだ。第1週の試写を見終えたばかりの報道陣に向け、ヒロインの尾野真千子は「面白かったでしょ?」と声をかけた。

感想を尋ねられる前に、自分から答えを言ってしまう。放送開始までまだ1か月近くあり、小原糸子というヒロインの魅力を知る視聴者はまだ誰もいなかった頃だ。誰よりもまず主演俳優自身が作品のいちばんのファンであり、その熱狂を隠そうともしない。こんなふうに屈託なく勧められたら、見ないわけにはいかなくなる。

尾野真千子は、自分の作品を見てほしいという情熱を口にする。そう胸を張って言えるようになるまでには、海外で評価された作品でのデビューから重ねた下積みの日々があった。

カンヌ受賞作なのに手元に台本がない?

尾野の原点を振り返ると、鮮烈なデビュー作に行き当たる。河瀨直美監督の映画『萌の朱雀』だ。奈良の山あいに暮らす一家の物語で、当時地元の中学生だった尾野は一家の娘・みちる役に抜擢され、作品はカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)に輝いた。

しかし、華々しい国際的評価とは裏腹に、当時の本人は台本の読み方すら分からなかった。後年、河瀨監督と並んだ舞台挨拶で明かしたところによれば、台本は読まずに、次はどの場面を撮るのかを監督に聞きながらカメラの前に立っていたという。

尾野はこれまでの出演作の台本をすべて大切に保管しているそうだが、この『萌の朱雀』だけは手元にない。台本を読まなかったことが、手元にない理由なのかもしれないと本人は話している。押し入れいっぱいの歴代の台本の中で、記念すべきデビュー作の1冊だけがぽっかりと抜け落ちている。

カンヌの受賞作に出ても街では誰にも気づかれない

その後も河瀨監督の『殯(もがり)の森』で主演を務め、作品はカンヌ国際映画祭のグランプリを受けた。さらには日本テレビ系のドラマ『Mother』で我が子を虐待する母親という難役を演じるなど、ドラマでの演技も評判を呼んでいた。

だが、世間の認知度はまったく追いついていなかった。『Mother』に出ていた頃も、街を歩いていて誰にも気づかれなかったと、のちに本人は振り返っている。

18歳で奈良から上京して以来、朝ドラのオーディションにも幾度となく挑み続けていた。しかし、結果はことごとく落選。もう自分にヒロインは巡ってこないと、諦めかけていた。

スーパーで大泣きしたヒロイン決定の知らせ

転機が訪れたのは2011年3月。NHK大阪放送局が制作する『カーネーション』のヒロインに選ばれた。節目の30歳を迎える年に、ようやく掴み取った合格だった。

知らせが届いたのは発表の数日前。スーパーで買い物をしていた最中に事務所から連絡が入り、尾野はその場で大泣きしたという。

ヒロイン発表の記者会見で、朝ドラへのイメージを問われた尾野は、「出たら有名になれる」と答えて報道陣を笑わせた。親孝行にもなると思っていた、とも付け加えた。

清廉さが求められがちな朝ドラのヒロインの会見で、ここまで堂々と「有名になれる」と口にする人がいただろうか。聞いた側は笑ってしまうが、実力がありながら街で気づかれなかった人の言葉だと思うと、笑いながらも少し胸が詰まる。

「今回の作品で私は生きられる」渡辺あやの脚本に宿った命

そして冒頭の完成披露会見へと繋がる。試写を終えた記者たちに声をかけたあの日の尾野は、物語には泣いたり笑ったりする展開があり、進むにつれて楽しくなっていくと、自信たっぷりに語っていた。

脚本を手掛けたのは、NHKドラマ『火の魚』でもタッグを組んだ渡辺あや。尾野は渡辺の紡ぐ言葉に心底惚れ込んでいた。文字だけでなく、登場人物たちが生きている様まで描かれているから動きやすい。今回の作品で自分は生きられると、尾野は感激していた。

長丁場の撮影をどう乗り切るかと聞かれたときの答えもふるっていた。食べて寝て栄養をつけることだと言い、休みの日も肉は外せないと続けた。過酷な撮影の話を聞いているはずが、いつの間にか休日の元気な献立の話になっている。

台本になかった最後のミシン

蓋を開けてみれば、『カーネーション』は全151回の放送を通じて高い視聴率をキープした。コシノ三姉妹の母・小篠綾子をモデルにした、ヒロイン・糸子の怒涛の一代記である。

放送を終えた年の秋、尾野はこの作品で東京ドラマアウォードの主演女優賞に輝く。授賞式の壇上では、『Mother』の頃は街で誰も見てくれなかったのに、最近は「おのまち」と声をかけられるようになったと語った。「出たら有名になれる」というあの日の言葉は、冗談ではなく本物の現実になったのだ。

放送から5年後、早稲田大学演劇博物館のイベントで、尾野はある撮影秘話を明かしている。現場では基本的に台本通りに演じていたが、晩年の糸子を夏木マリに託す前の最後の回だけは、どうしても譲れない思いがあったという。ミシンに触りたいという一心で、台本にはなかったミシンに触れる場面を足してもらった。

デビュー作では台本すら読めずに現場に立っていた人が、15年の時を経て、台本に新たな一場面を足してもらうまでの表現者になった。

糸子を演じた人が朝の画面に帰ってくる

2026年4月には、藤原季節とダブル主演を務めたドラマ『まぐだら屋のマリア』がNHK総合でオンエアされた。BSでの先行放送に続く総合テレビでの放送を前に、尾野はとてもうれしいと素直な喜びを口にしていた。どれほどキャリアを重ねても、作品を誰かに届けたいという貪欲な思いは、あの会見の日から少しも変わっていない。

2026年8月公開の映画『八月の声を運ぶ男』では、被爆者に寄り添う福祉関係者という重厚な役どころを演じた。そして、この映画で共演した石橋静河がヒロインを務める朝ドラ『ブラッサム』が、2026年9月28日から幕を開ける。尾野が演じるのは、ヒロインが憧れを抱く人気作家・土橋風子だ。

かつて朝ドラのヒロインを務めた経験があるだけに、オファーを受けた当初は複雑な思いもあったという。それでも、大阪局の制作の朝ドラで「大阪に帰れるというのは本当にうれしくて」と、出演発表のコメントで語っている。

15年前、「面白かったでしょ?」と笑顔で記者に聞いた糸子役の尾野が、今度は次世代のヒロインが見上げる存在として朝ドラの舞台に帰ってくる。


※記事は執筆時点の情報です

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