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15年前、セットが「本当に怖くて震えた」と笑った【大河主演女優】の飾らない強さとは?

  • 2026.9.28
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2012年4月、著書「ものづくりの楽しさ発見! 上野樹里とナニカをツクル旅」の発売記念イベントを開いた上野樹里(C)SANKEI

15年前の2011年9月、上野樹里が主演を務めたNHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』が、1年以上にわたるスタジオ収録の幕を下ろした。

セレモニーで彼女に贈られたのは、姿がすっぽりと隠れてしまうほど大量の花束。その席で彼女の口からこぼれ出たのは、意外にも始まった当初の恐怖だった。

最初にセットを見たときはすごく高さがあって、「そこに上がることが本当に怖くて震えた」と、笑顔で明かしたのだ。大河ドラマの座長としてスタジオ収録を終えた晴れの日に、誇らしい武勇伝ではなく、怖くて震えていたころの自分を屈託なくさらけ出してしまう。そんな上野樹里のありのままの姿に、どうしようもなく惹きつけられる。

のだめと戦国の姫のあいだの距離

上野樹里と聞いて、まず『のだめカンタービレ』の野田恵役を思い浮かべる人は多いだろう。天真爛漫でエキセントリックな音大生の役は、今なお愛され続けている。上野は2025年の秋にもミュージカルのシンフォニックコンサートで台北と東京の舞台に立った。

それだけに、戦乱の世を気高く生き抜く姫君・江という役どころは、当時のパブリックイメージからすればずいぶん遠い場所にあるように見えたかもしれない。

だが、作り手側の期待は絶大だった。放送前の記者会見で、チーフプロデューサーの屋敷陽太郎氏はドラマ『ラスト・フレンズ』での演技を引き合いに出し、『のだめ』との落差について「同じ人とは思えない」と語った。幼い時代から54歳ぐらいまでの波乱の生涯をどう演じ分けるのか、期待を寄せていた。

「こんなところで芝居できない」とこぼした日

撮影がスタートしたのは、2010年夏。セレモニーで彼女が振り返ったファーストインプレッションは、スタジオに組まれたセットの高さだった。

共演者には「こんなところで芝居できない」と弱音をこぼし、リハーサルでやった動きを、一人でもう一度やってみたりもした。乗馬や時代劇特有の所作、重みのある台詞回しも、彼女の前に立ちはだかる高い壁だった。

あの奔放な「のだめ」を演じていた人が、現場のスケールに呑まれ、恐怖に震えながら、一人きりで愚直に動きをなぞっていた。そこに、彼女の不器用なまでの真摯さがのぞく。

「いろいろあった」の一言で包み込むあっけらかんさ

それから1年余り、すべてのスタジオ収録を終えたこの日、上野はセットに上がるのももう自然になったと語り、江に感情を集中させて、最後は穏やかな笑顔で終わることができたと続けた。

スタジオとの別れについては、正直まだ実感がなく、これから時間をかけて実感していくのだと思う、と率直に漏らしている。そのうえで「いろいろあったと思いますけど、そういうことも含めていい1年だった」と言葉を結んだ。

過酷だった日々の苦労を、決して並べ立てたり、大げさに美談に仕立てたりはしない。「いろいろあった」という、たった一言のなかにすべてを溶かし込み、「いい1年だった」と言い切る。

あまりの花束の多さには、人生を卒業していく人みたいだとおどけてみせた。恐怖に怯えていた過去を明かしたその日に、こんな冗談も飛ばしてしまう。その絶妙な切り替えとチャーミングさには、思わず頬が緩んでしまう。

怯えていたスタジオから馬で出かけていく最後の場面へ

この日、スタジオで最後にカメラが回ったのは、江と夫の秀忠(向井理)が馬に乗って出発し、姉の初(水川あさみ)がそれを見送る場面だった。水川はこの日でオールアップを迎え、上野と向井には翌月の長野ロケが残されていた。秀忠とのロケで気持ちよく最後を締めくくりたいと、彼女は前を向いていた。

この見送りの場面は、最終回で放送される予定だった。最初は上がるだけで震えていたスタジオで、彼女が最後に演じたのが、馬に乗って出かけていく江の姿だったというのは、なんとも象徴的だ。『江』という作品を見返す機会があれば、あの出立のシーンに、1年間を乗り越えた上野樹里自身の姿を重ねて見てみたい。

震えていた場所から自ら舞台を用意する人へ

あれから15年がたった2026年10月、上野樹里は故郷である兵庫県加古川市で、自身初となる音楽フェス『樹里フェス 2026 in Kakogawa』を開催する。

各地で出会い、心を打たれた音楽を地元の人たちに届けたい。その強い思いから、なんと彼女自身が市民会館へ直接連絡を入れて会場を押さえた。当日は自らもステージに立つ。

15年前、高いセットに怯えて震えていた人は、いま、自らの足で立ち、自分の手で舞台を用意して、人々を温かく迎え入れる側に回っている。花束に隠れそうになりながら、冗談を言っていたあの日の上野樹里を思えば、彼女が歩んできたまっすぐな軌跡が、たまらなく頼もしく思えてくる。


※記事は執筆時点の情報です

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