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あの「たらこ」は、いったい何だったのか CMから流行語、年末の音楽賞まで歩いた奇妙な行進

  • 2026.9.6
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2006年9月、東京・渋谷O-WESTで行われたキグルミのライブより(C)SANKEI

テレビから、あの曲が流れてくる。真っ白い顔に赤いほっぺ、体はどう見てもたらこ。そんな一団がずらりと列を組んで、こちらに向かって行進してくる。笑っていいのか怖がっていいのか判断がつかないまま、気づけば一緒に口ずさんでいた。

その光景が家庭のテレビに届き始めたのは2004年の秋。CDになって店に並ぶのは、そこから2年近くあとのことになる。

キグルミ『たらこ・たらこ・たらこ』(作詞:加藤良1/作曲:上野耕路)ーー2006年9月6日発売

「あれ、なんだったんだろう」の答えを、20年たったいまあらためて探しに行きたい。2006年という1年を、あのたらこの行進と一緒に思い出してみる。

手を挙げたレコード会社

まず順番の話をしておきたい。この曲はキユーピー『あえるパスタソース たらこ』のCMソングとして2004年10月に流れ始め、2年近くのあいだ、曲は商品の宣伝の一部として画面の中だけで暮らしていた。テレビで見て気になった人が店に行っても、そのCDはまだどこにもなかった。

そもそも、たらこにキユーピーの顔を入れるという発想からして、企画の段階で社内の賛否が割れたらしい。気持ち悪いと可愛いの境目を狙った顔つきは、そのギリギリを承知の上で世に出ている。

動きだしたのは2006年3月。ビクターの企画担当が、キユーピーのお客様相談室に一通のメールを送ったのがきっかけだった。商品の相談窓口に、曲の話が舞い込む。そこから半年後の9月にCDが店に並んだ。画面の中で2年暮らした曲が、CDとして外に出るまでは半年だった。

画面の一団に歌う顔が付いた瞬間

CDにするなら、歌う人がいる。選ばれたのが、志村玲那(レナ)と遼花(ハルカ)、当時子役だった2人だ。ユニット名はキグルミ。名付けたのは、CMを撮った監督の加藤良一である。監督は歌詞も自分で書いた。演技の仕事をしていた子ども2人が、たらこの着ぐるみで歌う仕事を任された格好だ。

画面の中で行進を続けていたたらこたちが、ここで初めて歌い手を持った。この曲は、見て笑うものから、いっしょに歌えるものへ変わったように映る。

2人の声は飾らない。着ぐるみをまとって、リズムに乗せて「たらこ」と繰り返す。大人が真顔でやったら気味が悪いだけの光景が、子どもの声だと無邪気な遊びに聞こえる。サビで2人の声が重なると、画面の行進の列がそのまま増えたように聞こえる。

離れない旋律は映画音楽の本気で書かれていた

作曲者は上野耕路。1980年代に戸川純・太田螢一と音楽ユニット「ゲルニカ」として活動した人物で、映画『ウンタマギルー』の音楽で1989年に毎日映画コンクール音楽賞を受けている。のちには『ゼロの焦点』『のぼうの城』で日本アカデミー賞優秀音楽賞も手にする、映画音楽の本格派だ。

そんな人が、パスタソースのCMソングを書いた。ここがこの曲のいちばんトンチキなところで、同時にいちばん本気なところでもある。

CMの尺で耳に残るように作られた旋律は、フルサイズになっても離れない。短い時間で覚えさせるためのくり返しが、フルサイズでは行進の持久力に変わる。宣伝のために削ぎ落とした形が、そのまま曲の骨になっている。

歌詞に物語はほとんどない。たらこの一団が食卓へやって来る、それだけを繰り返す。ところが旋律はどこか物悲しくて、明るいはずの宣伝なのに、行進の列がこちらへ近づいてくるような迫力がある。可愛いのに不気味、という顔つきの狙いを、旋律がそのまま音にしている。本気の設計を子どもの声が無邪気に運ぶ。ここがこの曲の底にある。

流行語の壇上から年末の歌の祭典まで

2006年の新語・流行語大賞で、『たらこ・たらこ・たらこ』はトップ10に入った。パスタソースの宣伝から生まれた曲名が、その年に世の中で使われた言葉と並んで表彰された。そして年末、第48回日本レコード大賞で特別賞を受ける。パスタソースの宣伝として画面を行進していた一団が、歌謡界の賞まで歩いていったことになる。

同じ年末には、クリスマス仕様のCDとCM映像のDVDを組み合わせた『たらこ・たらこ・たらこ たっぷりクリスマスBOX』という別の商品も出ている。

2006年をこの曲と一緒に思い出すと、春の問い合わせメールから流行語、年末の音楽賞受賞まで、目まぐるしいスピードで進んでいったことがわかる。

時を越えてもやってくる「たらこ」

2023年の夏、『24時間テレビ46』に、元メンバーの志村玲那と遼花が姿を見せた。デビューから17年。着ぐるみの中で歌っていた子役2人が、大人になって生放送の画面にもう一度立った。

あの行進が始まると、いまでも口が勝手に「たらこ」と動く。そこに何か感情も想い出も、何かしらの深いものもなにもないはず。だけど、聴いているだけでなんだか感傷的になる瞬間がある。たらこの塩味がそうさせるのだろうか。

あの頃、ただ同じものを手に取り、理由もなく再生し、目的もなくただ音を浴びていた、あの時間が今となっては、ほんの少し愛おしいのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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