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14歳の歌声はいまも残る 小川範子、早稲田で過ごした青春と、その先の結婚

  • 2026.9.5
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小川範子-1998年3月撮影(C)SANKEI

小川範子を覚えているだろうか。『はぐれ刑事純情派』で藤田まこと演じる安浦刑事の次女・ユカを演じた俳優。あるいは、静かな佇まいの歌手。そのどちらも、1980年代後半の彼女を形づくった大切な顔である。

けれど、小川の歩みは「子役出身の清純派」という一言では収まらない。6歳で仕事を始め、13歳で注目作に出演し、14歳で念願の歌手になった。長寿ドラマと音楽活動を抱えながら早稲田大学へ進み、舞台や声の仕事にも活動を広げている。

転機となった『愛の嵐』

小川は6歳で劇団に入り、子役として活動を始めた。転機となったのは、1986年に放送された東海テレビ制作のドラマ『愛の嵐』である。ヒロイン・ひかるの少女時代を演じた小川は、この作品で注目を集めた。

本人は幼い頃から歌が好きで、歌手になることを夢見ていたという。『愛の嵐』などへの出演が、その夢につながる機会になった。そして1987年11月、14歳で『涙をたばねて』を発表し、歌手としてデビューする。

翌1988年に発売された3枚目のシングル『こわれる』は、週間ランキングで最高6位を記録。ここから5作連続でTOP10入りした。俳優として知られた少女が歌も出した、というだけではない。小川は10代のうちに、歌手としてもはっきりと結果を残していた。

刑事の次女、そして広がる活動

『こわれる』を発表した1988年、テレビ朝日系で『はぐれ刑事純情派』が始まった。小川が演じた安浦ユカは、主人公・安浦吉之助の次女である。刑事ドラマの中心にいる父を、家庭の側から映し出す役だった。

小川は2005年まで18年間、レギュラーシリーズでユカを演じた。さらに2009年の最終回スペシャルにも出演している。14歳で始まった歌手活動の隣で、一人の役を長く背負う俳優の時間が流れていた。

その一方で、活動の場はテレビと音楽だけに限られなかった。舞台では『シェルブールの雨傘』に主演し、『ザ・サウンド・オブ・ミュージック』長女リーズル役や『マリー・アントワネット』エリザベート役などを演じた。のちには韓国ドラマ『チェオクの剣』で主人公の吹き替えを担当するなど、声の仕事にも取り組んだ。

毎週のように同じ役で家庭の風景に立ち、歌では自分の名前を掲げ、舞台では別の物語へ入っていく。小川の経歴に厚みがあるのは、仕事の数が多いからだけではない。異なる表現の場所を、長い時間をかけて並行してきたからだ。

学園祭の想い出がやがて学生生活へ

プライベートでは早稲田大学社会科学部へ進み、1997年に卒業した。早稲田への憧れが生まれた場所も、やはり歌だった。歌手デビュー時のコンサートで早稲田祭のステージに立ち、学生たちの熱気に触れたのである。会場となった15号館の大教室は、11月にもかかわらず真夏のように暑かったと、のちに振り返っている。

やがて小川は、憧れた大学へ学生として通うことになる。入学後には語学クラスの友人と列車で北海道を旅し、早稲田祭では仲間とお好み焼きの屋台を出した。芸能人として招かれた学園祭ではなく、今度は学生の一人として祭りの内側にいた。

6歳から仕事をしてきた小川にとって、大学は学歴を加えるだけの場所ではなかったのだろう。自分とは違う分野に関心を持つ人と出会い、同じ教室で学び、友人と旅をする。歌手として最初に立った場所へ、生活者として戻ってきたことに、小川の大学時代の面白さがある。

結婚より前に記録された演出家との一作

少しさかのぼること1994年、小川はTBSのオムニバスドラマ『乱歩―妖しき女たち―』に出演した。「密室の少女」で演じたのは、殺人鬼の父を持つ文代。監督を務めたのは、のちに夫となる吉田秋生だった。

吉田は『パパはニュースキャスター』などを手がけた演出家である。小川と吉田は2005年に結婚したが、その11年前には、監督と俳優として同じ作品に名前を残していたことになる。

一つの共作だけで二人の私生活まで語ることはできない。しかし、小川の人物録の中にこの作品を置くと、結婚もまた芸能活動と切り離された突然の出来事ではなく、長く働いてきたテレビドラマの世界と地続きに見えてくる。結婚は彼女の経歴の終点ではなく、すでに重ねてきた仕事の先に加わった人生の節目だった。

いまも重なりつづける様々な顔

2017年、小川は歌手デビュー30周年記念盤『30th Anniversary Best』を発表。自身で選んだ楽曲に加え、2枚目のシングルを歌い直した『永遠のうたたね 2017』と、朗読『涙』を新たに収録。レコーディングは5年ぶりだった。

小川は当時の歌を振り返り、14歳の声は幼いのに、歌っていたのは大人びた曲だったと語っている。セルフカバーでは、昔から聴いてきた人のイメージを壊さないように気を配りながら、大人になったからこそ味わえる歌の楽しさも感じていた。

同じ曲でも、14歳と44歳では声に積もった時間が違う。2017年の新録は、昔のヒット曲をそのまま並べるだけではなく、少女だった自分と大人になった自分を、一枚の作品のなかで向き合わせる試みだった。

2026年も番組表には『はぐれ刑事純情派』の再放送が並び、画面には安浦ユカを演じた若い小川が現れる。一方、音源には14歳の歌声と、44歳で歌い直した声が残る。現在の視聴者や聴き手は、異なる年代の小川範子に同時に触れることができるのだ。

新しい出演作だけが、俳優や歌手の「現在」をつくるわけではない。作品が繰り返し放送され、昔の歌と後年の歌声が並んで聴かれることで、その人の時間は何度も立ち上がる。6歳の子役、14歳の歌手、安浦家の娘、早稲田の学生、舞台俳優、そして44歳で自分の歌を録音し直した表現者。そのすべてが、2026年のいまも小川範子という一人の人物の中に重なっている。


※記事は執筆時点の情報です

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