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「なんだか薬が柔らかくて…」薬剤師が急いで患者宅に向かうと→重大な“違和感”を覚えたワケ

  • 2026.9.15
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出典:photoAC ※画像はイメージです

9月に入っても続く残暑のなか、在宅患者さんのご自宅に届けた坐薬を再確認したいとご家族から連絡が入りました。

「なんだか柔らかくなっている気がして」——訪問して確認すると、明らかに形状が崩れた状態。

単なる保管ミスかと思いきや、付き添いの娘さんが漏らした一言で、寝たきりの母親が置かれている本当の環境が見えてきたのです。

ご家族から入った「柔らかくなっている」の連絡

9月上旬、日中の気温がまだ33度を超えていた金曜の午後、在宅患者Aさん(80代女性、寝たきり)のご家族から一本の電話が入りました。

電話口の娘さんは、「先週いただいた坐薬なんですけど、なんだか柔らかくなっている気がして。使って大丈夫でしょうか」と不安そうなご様子でした。

Aさんは、痛みのコントロールに坐薬を使用されていました。適切に保管されていない場合、薬効に影響が出る可能性があります。

電話口では判断がつかないため、「私、これから伺いますので、それまで使用は控えてください」とお伝えし、すぐに午後の訪問スケジュールを組み替えて向かいました。

到着してみると、確かに問題の坐薬は明らかに形状が変わっていました。

本来なら固形であるはずが、シートの中で溶けかかり、輪郭がゆがんでいる状態。これでは正確な量を投与できません。

ただ、疑問だったのは、当薬局からお渡しした際にはきちんと保冷剤を入れてお持ち帰りいただき、ご家族にも冷蔵保管をお願いしていたことです。

「冷蔵庫には入れていただけましたか?」と確認すると、娘さんは少し困った表情で「入れてはいたんですけど……」と口ごもられました。

訪問先で目にした、想像を超える室温

自宅に入った瞬間に感じた違和感。単なる保管ミスでは説明のつかない状況の裏に、ご家族が抱えていた事情がありました。

「電気代が心配で」の一言の意味

リビングに通していただいた瞬間、違和感を覚えました。

9月上旬とはいえ、その日の外気は30度を超えていました。にもかかわらず、室内はうっすらと蒸し暑く、エアコンから風は出ているものの、明らかに冷えていなかったのです。

Aさんが寝ておられる奥の寝室に案内していただくと、こちらはさらに温度が高くなっていました。窓は開いていましたが、風通しは悪く、体感で30度近くありそうでした。

ベッドサイドの棚には、次回使用予定の坐薬が保冷バッグに入れて置かれていました。冷蔵庫から出してすぐに使えるように、と娘さんが用意されていたのですが、その保冷バッグの中の保冷剤も、すでにぬるくなっていました。

「エアコン、あまり効いていないようですが」と尋ねると、娘さんはようやく口を開かれました。「実は先月からエアコンの調子が悪くて。修理を頼んでいるんですが、部品待ちで2週間かかると言われて。それに……電気代のこともあって、日中はできるだけ控えるようにしていたんです」。

介護をしながらの家計のやりくり。

Aさんの医療費に加えて、電気代の高騰が家計を圧迫していた事情もあり、エアコンの使用を控え目にしていたとのこと。

寝たきりのAさんご本人は、暑いとも寒いとも訴えられない状態でした。だからこそ、周囲がその環境に慣れてしまっていたのだと思います。

薬剤師が薬以外にできる“橋渡し”

その日は溶けかかった坐薬を廃棄し、処方医に連絡のうえ、新たに調剤したものを保冷ボックスに入れてお届けしました。

同時に、担当のケアマネジャーさんにも状況を共有しました。エアコンの応急対応(レンタル可能な冷風機の紹介)や、経済的な負担についての相談窓口も含めて、多職種で連携できる体制を整えたのです。

数日後、ケアマネジャーさんから連絡があり、地域の福祉制度を活用してエアコン修理までの間、レンタル冷風機を導入できたとの報告をいただきました。Aさんの寝室の室温も、徐々に管理できる状態に戻ったそうです。

この一件から強く感じたのは、在宅患者さんのご自宅では「薬の保管環境=患者さんの療養環境」だということです。薬が溶けるほどの室温は、寝たきりの患者さんにとって熱中症のリスクそのものでもあります。

以降、当薬局では夏場の在宅訪問時、以下の3点を必ず確認するようにしています。

①室温と湿度

②エアコンの稼働状況

③冷蔵保管薬の実際の保管場所と方法

薬剤師の訪問は、薬をお届けするだけの時間ではありません。ご家族が「言い出しにくい」経済的な事情や設備トラブルが、薬の状態から見えてくることもあります。

そうしたサインをすくい上げ、必要な支援につなぐ橋渡し役になること——それも、在宅医療における私たちの大切な役割だと、改めて教えられた出来事でした。


ライター:下田篤男

京都大学薬学部総合薬学科を卒業後、調剤薬局やドラッグストアグループで薬剤師として勤務してきました。総合病院の門前店舗では管理薬剤師を務め、たくさんの患者さんと向き合う日々の中で、「薬を渡す」だけではない、人と人との関わりの大切さを実感しています。現在は薬剤師として現場に立ちながら、医療記事の執筆・編集や薬局経営コンサルタントとしても活動中。読者の皆さまに、薬局がもっと身近で頼れる場所になるような情報をお届けしていきたいと思っています。


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