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コーヒーで旅する日本/関東編|豆選びは生産者を深く知ることから。清澄白河で焙く、飲み手につながる一杯「First Crop Coffee Roastery」

  • 2026.8.26

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも関東エリアは、伝統的な喫茶店から最先端のカフェまで、さまざまなスタイルの店が共存する、まさに日本のコーヒー文化の中心地。

東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。焙煎士や店主たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

住宅街に店を構えるロースタリーカフェ。水、土、日の週3日の営業
住宅街に店を構えるロースタリーカフェ。水、土、日の週3日の営業

第25回は東京都江東区にある「First Crop Coffee Roastery(ファースト クロップ コーヒー ロースタリー)」。場所は清澄白河の住宅街、山崎恵美さんが営むロースタリーカフェだ。店主はバリスタに憧れ、オーストラリア・メルボルンで腕を磨き、開業の夢を叶えた人物。メルボルンでは、コーヒー生豆会社「First Crop Coffee」に出合い、「農家と焙煎所をつなぐこと」という想いに深く共感。その価値観を知ってほしいと「First Crop Coffee Japan」を開業し、2024年に清澄白河に移転。現在はコーヒーや焙煎豆の販売も行っている。

店主の山崎恵美さん。豆の生産者についての深い話が聞けるのも魅力
店主の山崎恵美さん。豆の生産者についての深い話が聞けるのも魅力

Profile|山崎恵美(やまざき・さとみ)

1984年、神奈川県生まれ。会社員を経てコーヒーの世界へ。コーヒーは未経験ながらオーストラリア・メルボルンへ渡航し、バリスタ・焙煎士としての技術を習得。2020年に帰国すると、「First Crop Coffee」(メルボルン)の日本代理店として「First Crop Coffee Japan」を開業し、生豆の輸入・卸しをスタート。その後、清澄白河へと活動拠点を移し、現在は焙煎豆の卸し、焙煎豆の販売、カフェ営業を行っている。

偶然の出合いからコーヒーに目覚め、キャリアチェンジへ

清澄白河駅B2出口が最寄り
清澄白河駅B2出口が最寄り

山﨑さんがコーヒーの世界に入るきっかけは、偶然見かけた、とあるカフェだった。

「実はもともとコーヒー好きというわけではなかったんです。きっかけは、かつて表参道にあった『OMOTESANDO KOFFEE(オモテサンドウ コーヒー)』というお店の前で行列を見かけたこと。行列には外国の人がたくさんいて、『外国人が並ぶなら、きっと相当おいしいんだろうな』と思って飲んでみたんです。それがすごくおいしくて衝撃的で、コーヒーに興味を持ちましたね」

豆の産地は時期によっては大幅に入れ替わることも
豆の産地は時期によっては大幅に入れ替わることも

その一杯を飲んでからというもの、ただ“おいしかった”で終わらず、さまざまなカフェ、ロースターを巡り、味の違いを確かめるなどいっきにハマっていった。

「もう何軒も巡りましたが、特に印象的なのが『GLITCH COFFEE & ROASTERS(グリッチ コーヒー ロースターズ)』。当時勤めていた会社の近くに1号店がオープンして、そこには週3回くらいのペースで通っていましたね。このお店のおかげでブラックコーヒーのおいしさがわかるようになり、行くたびにコーヒーに対して違う発見があるし、生産地や精製方法、品種の違いによって、こんなにコーヒーは表情を変えるんだっておもしろくなって。気づいたら、コーヒーだけじゃなくて、お店のバリスタの働き方まで気になるようになっていました」

焙煎に加え、抽出も丁寧な仕事ぶり
焙煎に加え、抽出も丁寧な仕事ぶり

以前はコーヒー業界とは無縁の職種であり、カウンターの向こうでいきいきと働くバリスタの姿は、彼女のなかで憧れの存在に。そして徐々に「好きなことを仕事にする」、そんなことがぼんやりした憧れではなく、現実の選択肢として、ふつふつと湧き上がっていたのも事実。

「『GLITCH COFFEE & ROASTERS』のバリスタは、コーヒーをおいしく抽出するだけではなく、飲み慣れない味に戸惑うお客様に丁寧に説明。そのこだわりや魅力に興味を持ってもらえるような教育的な関わり方を、お客様にしていることにも衝撃を受けました。純粋に『こういう働き方っていいな』と思って、このままずっと会社員でいるのか、それとも好きになった世界に飛び込むのか。あのころはずっと考えていた気がします」

香りのテイスティングで、豆選びの参考にできるのもいい
香りのテイスティングで、豆選びの参考にできるのもいい

そして山﨑さんが選んだのは、もちろんコーヒーの世界。その後、コーヒーの技術を高めるため、挑戦の場として向かったのがオーストラリア・メルボルン。ちなみに山﨑さんは、それまで家でコーヒーを淹れたことすらなかったが、それでもコーヒーの道に踏み出したのは、未経験でチャレンジする不安よりも、行かないまま終わるほうが怖いと思ったから。

「腕を磨くならコーヒーの聖地・メルボルンかな、と自然に思いました。コーヒーに関して世界的に文化が発達していて、より“濃い”場所に行きたかった。あのとき行かなかったら、多分一生行ってないだろうなって思います(笑)。経験なんて何もなかったですけど、それでもバリスタになりたいという、人一倍強い気持ちで向かいましたね」

豆やコーヒーの注文は1階で
豆やコーヒーの注文は1階で

しかしながら未経験の道のりは険しいもの。そんななか、山崎さんのコーヒー人生が大きく動き出したのが、当時メルボルンのカフェでヘッドバリスタを務めていた長谷川晃平さん(現在は「BREATHER COFFEE(ブリーザー コーヒー)」の店主)との出会いだったという。

「そんなときに晃平さんが、勤めていたお店で雇ってくれたんです。そこで働けたことで技術や知識を学べ、メルボルンで活躍する日本人のコーヒー業界の人たちともつながれました。技術だけではなく、仕事との向き合い方や人との関わり方まで、多くを学ばせてもらった貴重な期間だったことは間違いありません」

豆は生産者第一のセレクトながら、それぞれが個性ある確かな味わい
豆は生産者第一のセレクトながら、それぞれが個性ある確かな味わい

メルボルンでは抽出からはじまり、やがて焙煎を行うまでに。カップに注がれる最後の工程だけでなく、その前段階で味の土台をつくる焙煎という仕事にも強く惹かれるようになった。そんな日々のなかで、豆の仕入れ先として「First Crop Coffee」と出合う。そして、これが山崎さんのコーヒーに対する価値観を変えることになる。

「『First Crop Coffee』の考え方を知れたのは本当に大きかった。豆は、カッピングして、ロースターそれぞれの基準に合ったものを選ぶ、というのが一般的だと思うんですけど、彼らは『その取引で誰が潤うのか』まで大切にしていて。カッピングテーブルのうえでは伝わらない、生豆会社の“本当の気持ち”について、興味を持つようになりました。必ずしもトップロットじゃなくても、自分が仕入れることで、生産者の生活が少しでもよくなるほうを選択すること。私もそのほうが幸せだなって思えたんです」

「以前は、極端に言うと自分が“コーヒーをつくるマシン”みたいに感じてしまう瞬間もあった。でも、その考えに出合ってからは、つくり手が潤えば、自分のモチベーションにもつながって、それをおいしく淹れて飲み手も喜んでくれる。そのつながりのなかに、自分もいたいと思うようになりました」

一見わかりにくいが、緑の外観と店前に出る看板を目印に
一見わかりにくいが、緑の外観と店前に出る看板を目印に

2020年、約3年半のメルボルン修業を経て日本に戻った山﨑さん。帰国後は、本連載第23回で紹介した「Switch Coffee Tokyo(スイッチ コーヒー トウキョー)」に勤務。2022年には、「Switch Coffee Tokyo」と並行する形で、自身が深く共感した「First Crop Coffee」の価値観を日本でも広めたいと考え、代理店として「First Crop Coffee Japan」を起業。

2階に10席ほどのカフェスペースを用意
2階に10席ほどのカフェスペースを用意

当初は江東区新木場に倉庫を構え、生豆の卸しを専門とした事業を行っていたが、2024年3月、活動拠点を清澄白河へ。ここから生豆の倉庫、焙煎所、そしてコーヒーを出す場所を一つに集約した、今のスタイルとなった。

生産者の背景までを重視した豆選びを

【写真】南部鉄器で沸かしたお湯を使うことで、コーヒーがまろやかに仕上がるそう
【写真】南部鉄器で沸かしたお湯を使うことで、コーヒーがまろやかに仕上がるそう

時期によるが、店頭には20種類前後の豆がそろう。山崎さんにとって大事なのは、“数が多いこと”ではなく、味や香りといった豆の個性が重ならず、それぞれのキャラクターがしっかりと見えること。そして、それぞれの豆に信頼できる生産者との取引があることだ。

「豆は多いときで25種類くらいになることもあります。数としては多く見えるかもしれませんが、似た味にならないようにと豆の種類の違い、同じ豆でも焙き分けをすると、このくらいの種類に。たとえばシトラス系、ベリー系、フローラル系みたいに、豆ごとに違った風味があるので、そこをしっかりと出して伝えたいんです。風味がはっきり分かれていると、好みや試してみたい味など、人それぞれの判断基準で選びやすいかなと」

豆は100グラム1150円〜、テイクアウトは1杯500円で販売するなど、日常的に飲みやすい価格もうれしい
豆は100グラム1150円〜、テイクアウトは1杯500円で販売するなど、日常的に飲みやすい価格もうれしい

「生豆を選ぶときは味も大切ではあるのですが、『First Crop Coffee』の考えを胸に、生産者とどのような取引をしているかを気にかけるようにしています。農園で働く人たちが、どこで、どういう暮らしをして、また1キロいくらで取引すれば、運営や生活が成り立つのか、そこまで深い話ができる相手と付き合っていきたい」

「対話のなかで相手の状況をきちんと知って、取引を通じてサポートしようとしている生豆会社やロースターも増えてきています。サポートは必ずしもダイレクトトレードである必要はなく、同じ志を持った生豆会社を通して購入することも生豆会社と農園の両者を応援することにつながります。どうすればしっかりと還元できるか、しっかりと考えていきたいですし、それがコーヒー業界全体の未来につながっていけば、いいなと思っています」

「ローリング」の初号機を使用。雑味がなくクリアな味わいに焼けるのも特徴
「ローリング」の初号機を使用。雑味がなくクリアな味わいに焼けるのも特徴

焙煎機は「ローリング」で15キロの大型。クリーンで整った味が出しやすく、豆本来の個性をまっすぐ表現しやすい一方で、軽やかな風味も出るのが特徴だ。そして店で提供するコーヒーは、その味わいと価格を含め、特別なご褒美ではなく日常的に飲める一杯を目指している。

「メルボルンのコーヒー文化って、カフェにさっと行って、さっと飲むもの。でもちゃんとおいしい。その“特別すぎない感じ”がすごく好き。お店のコーヒーも、できるだけ日常に近い存在でありたいと思っています。だからこそカフェ利用でもテイクアウトでも、気楽に立ち寄ってほしいですね」

1階に焙煎所、2階にカフェスペースを備えた「First Crop Coffee Roastery」は、生産者を思う気持ちから伝わる緊張感と街に開かれた柔らかな雰囲気が同居した不思議な空間。生産者から飲み手までの長い流れを見つめながら、最後は“毎日飲みたい”一杯にきちんと着地させる。それこそが店の魅力だと感じた。

「DRIP COFFEE」(750円)※豆はエルサルバドルの浅煎り
「DRIP COFFEE」(750円)※豆はエルサルバドルの浅煎り

【山崎さんレコメンドのコーヒーショップは「BREATHER COFFEE」】

「神奈川県逗子市にある『BREATHER COFFEE(ブリーザー コーヒー)』。店主の(長谷川)晃平さんとは、メルボルンの『Krimper(クリンパー)』というお店で出会いました。当時、お店のヘッドバリスタであり、本当に頼りになる存在。未経験だった私を温かく迎えてくれた恩人です。真摯にコーヒーと向き合う姿勢はもちろん、細かいことに捉われすぎない、大らかで誠実な人柄もすごく魅力的。長谷川さん夫婦が営む『BREATHER COFFEE』は、コーヒーのおいしさはもちろん、優しい空気感も含めて心からおすすめしたいお店です」(山﨑さん)

【「First Crop Coffee Roastery」のコーヒーデータ】

●焙煎機/ローリング スマートロースター 15キロ(完全熱風式)

●抽出/ハンドドリップ(カリタ TSUBAME)、エスプレッソマシン(シネッソ S200)

●焙煎度合い/浅、中、深煎り

●テイクアウト/あり(500円〜)

●豆の販売/100グラム1150円〜

取材・文/GAKU(のららいと)

撮影/大野博之(FAKE.)

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