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『宇宙兄弟』名場面5選【後編】「こんなに怖いんだ」死を覚悟した六太の脳裏に浮かんだある恩人の顔とは?

  • 2026.8.25

※本記事では『宇宙兄弟』に関する若干のネタバレがあります。未読の方はご留意ください。

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小山宙哉氏による『宇宙兄弟』最終巻の46巻が、2026年7月22日に刊行された。『モーニング』での連載期間は、実に18年半あまり。丁寧に描かれた人物描写が印象深い本作を、名場面と共に改めて振り返りたい。

前編では、六太が月面に到達するまでの中から印象深い場面をご紹介した。本記事では、いよいよ六太が憧れの月面に着陸する。最終巻につながるまでの流れを振り返りつつ、本作の魅力を今一度お伝えしたい。

1.「アナタガ“アナタ”ダッタカラヨ」夢を目前に控えた六太の胸に蘇る、大切な人たちの言葉

念願叶い、いよいよ六太を含むジョーカーズのメンバーが宇宙へと打ち上げられた。その瞬間、大事な人たちの言葉が六太の脳裏をよぎる。宇宙への旅立ちの前、シャロンと再会した六太は、「月に行けるのはシャロンのおかげだ」と感謝を伝える。しかし、シャロンは六太に次の言葉を返す。

引用----

“「ムッタガ夢ヲ叶エラレタノハ アナタガ “アナタ”ダッタカラヨ」”(25巻)

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「あなたが、“あなた”だったから」――これほど嬉しい言葉があるだろうか。六太はその言葉の意味を測りかねるが、のちに改めてシャロンのこの台詞を振り返ることとなる。

もう一つ、六太が想起したのは日々人の言葉だ。

引用----

“「隠すなよ 心で祈ってたって叶うもんじゃないだろ」”

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「宇宙飛行士になりたい」。その夢を語るたび周りから嘲笑され続けた六太は、いつしか自分の夢を隠すようになった。心の中だけで祈っていても、夢は叶わない。声に出して、行動につなげて、それではじめて道は開ける。真っ直ぐな思いを六太にぶつけた日々人の姿は、月面に旅立つ六太の背中を力強く押してくれる。

2.せりかへの謂れなき誹謗中傷と、貫いた強い意思

「閉鎖環境訓練」で出会ったせりかは、六太より一足早く宇宙へと旅立つ。せりかの悲願は、国際宇宙ステーション(ISS)で、難病指定の疾患「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の治療薬開発につながる実験を成功させることであった。父親をこの病気で亡くしたせりかは、人一倍の情熱を持ち実験に挑む。

だが、せりかを逆恨みした製薬会社の人間が、SNS上にデマをバラまいたことを機に、雲行きが一気に怪しくなる。ただの“デマ”にもかかわらず、騒ぎが大きくなることを懸念した上層部は、実験の中止を言い渡す。だが、せりかはそれに屈しない。

引用----

“「先があると思ってたのに突然終わるものだってあるんです

私自身もこのISSも どうなってるかは分かりません」”(27巻)

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突然の父の病、そして他界。「ずっとあるもの」と思っていたのに、唐突に奪われる。身をもってその痛みを経験しているせりかは、強い意思で実験をやり遂げる。この場面において、六太の心の呟きも印象深い。

引用----

“その夜も人々は せりかさんを傷つけるための重い言葉を

その鋭利さに気付きもせず軽いタッチで打ち込んだ”(27巻)

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SNSは匿名で書き込みができる性質上、面と向かっては言えない台詞を平気で吐き出す人がいる。大勢が打ち込む鋭利な言葉は、タッチの軽さに似合わず、人を深く傷つける。六太の言葉は、昨今のSNS上の誹謗中傷やデマの拡散に一石を投じている。

3.「完成前に見つけちゃったよ」シャロン月面天文台建設中に見つけた、今の六太にとっての「金ピカ」

六太が月面で成し遂げたかったことの中で、「シャロン月面天文台建設」は大きな要因を占める。子ども時代の六太とシャロンの約束が、壮大な物語へとつながった。建設作業中のフィリップとの会話で、六太はすでに今の自分にとっての「金ピカ」を見つけたことを悟る。

引用----

“完成前に見つけちゃったよシャロン……

俺にとっての金ピカは もうここにある――!”(35巻)

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宇宙飛行士への道を諦めようとしていた六太に、シャロンが問いかけた答え。

「今のあなたにとって、一番金ピカなことは何?」

それに対する答えを見つけた六太は、ある結論に到達する。

引用----

“「自分のやっていることの“意味”を探す必要はない

やったことの結果が 誰かの“意味あること”になればいいんだ」”

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自分が手がけたものに対して、「意味」を見出したくなるのは人の性であろう。だが、六太はその先を見据える。思いがリレーのようにつながっていく本作の色合いが、六太のこの一言に凝縮されている。

4.「We are “Space brothers”」月面での日々人との再会、マクシム4との出会い。南波兄弟だけにとどまらない、真の意味での「兄弟」とは

『宇宙兄弟』というタイトルは、南波兄弟を表すものだとずっと思っていた。だが、六太とフィリップの地球帰還を目的として宇宙に飛び立った「マクシム4」に出会った時、六太の中のある思いが言語化される。

引用----

“「宇宙に来てからずっと……地球を眺めるたびに

――関わってきたたくさんの人たちに“仲間”以上の何かを感じてたんですけど

日々人と再会して……そして『マクシム4』に出会えてその気持ちが何か分かりました――

We are “Space brothers”(僕たちは“宇宙兄弟”です)」”(40巻)

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支え合い、時に命を預け合う彼らの絆は、実の家族に負けず劣らず強い。六太のこの言葉は世界中に拡散され、大きな感動を巻き起こした。兄として弟に先を越され、不甲斐なさに葛藤する六太。物語序盤の彼を思い起こすたび、この旅路の果てしなさを思う。

月面での日々人との再会、マクシム4との出会いは、最終巻へとつながる序章である。描かれた先の未来を想像させる本作において、「宇宙兄弟」の真の意味は、彼らの絆の深さを物語る。

5.宇宙空間に取り残され、はじめて知ったシャロンの孤独。“死”が間近に迫る中でも、他者を思い続ける南波六太という人間の強さ

最終巻手前の45巻、ソユーズへの移動を余儀なくされる状況下で、日々人の命綱だったベルトが千切れた。宇宙空間に投げ出される弟を目にした六太は、反射的に日々人に飛び込み、自らの危険を顧みず弟の命を救う。だが、その代償として、六太は独りきりで宇宙を漂流する事態となる。

数時間後にはなくなる酸素、真っ暗な宇宙空間、耐え難い孤独。「死」を覚悟した六太の脳裏に、ある恩人の顔がよぎる。

引用----

“シャロン……今まで全く想像できてなかったよ……シャロンの気持ちを……

こんなに……こんなに怖いんだ”(45巻)

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ALSを患うシャロンは、自分の意思で体を動かすことができず、声さえも発せられない。ただじっと、いつかくる“そのとき”を待つしかないシャロンの恐怖に、自身の恐怖を重ねる六太。こんな場面でさえ、他者のことを思いやるのが南波六太という人間であり、それこそが本作の魅力であると改めて思い知る。

ついに完結を迎えた本作の名場面を振り返りつつ、すべての登場人物に思いを馳せる。そうして味わう最終巻の余韻は、かけがえのないものになるだろう。

文=碧月はる

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