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「この電車、香水きつくない?頭痛くなりそう」真夏の車内で、私が隣の車両へ移った理由

  • 2026.8.22
ハウコレ

ハンカチを口元に当てて移った隣の車両で、学生の遠慮のない一言を思い返します。責める資格と後ろめたさの間で、私が選んだのは避けることだけでした。

冷房の風が回るたび、どこからか届く濃いバニラの香りが、真夏の車内に層を作っていました。

逃げ場のない甘さ

私は昔からにおいに敏感で、洗剤も柔軟剤も無香料のものを選んできました。香りつきの制汗剤を職場でもらったときも、結局、使わないまま引き出しに入れたままにしていたほどです。その日の通勤電車は満員に近く、ドアの横に立った途端、重たい甘さが押し寄せてきました。香りの主はすぐにわかりました。斜め前に立つ女性のワンピースの肩のあたりから、バニラのような香りが絶え間なく広がっていたのです。冷房は効いているのに、こめかみの奥がじんと重くなり、額のあたりに嫌な熱がこもっていきました。

ハンカチと後ろめたさ

私はハンカチを口元に当て、連結部の扉のほうへ少しずつ移動しました。香りから距離を取りたいだけなのに、当てつけに見えていないかが気になって、視線は窓の外へ向けたままでした。ドアが開くたびに入ってくる真夏の熱気と、車内の甘さが混ざって、ハンカチの内側でも呼吸が浅くなります。扉の前まで来たところで、近くにいた学生の1人が連れに言いました。

「この電車、香水きつくない?頭痛くなりそう」

遠慮のない声でした。私は内心でうなずきながら、あの女性の耳にも届いただろうかと考えていました。

隣の車両で考えたこと

連結部を抜けると、そこには冷房と鉄のにおいしかありませんでした。深く吸い込んでから、私は少しだけ自分が嫌になりました。ハンカチで顔を覆い、黙って離れることしかしなかったからです。香りをまとう理由は人それぞれで、あの女性にも何か事情があるのかもしれません。それでも、真夏の閉じた車内では、良い香りも過ぎれば誰かの体調を削ります。乗務員に相談するほどのことでもなく、本人に伝える勇気もなく、伝え方を持たないまま、私は避けることを選んでいました。

そして...

週が明けて同じ電車に乗ると、あの重たい甘さはどこにもありませんでした。窓越しの日差しは変わらないのに、呼吸のしやすさがまるで違いました。学生のあの一言が、誰かに届いたのかもしれません。私は無香料の柔軟剤の詰め替えを買い足すついでに、外出用の薄手のマスクもかごに入れました。避けるだけで終わらせず、自分の身の守り方を増やしておく。それが今の私にできる、いちばん角の立たない答えです。

(30代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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