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耳栓をしても聞こえてくる“カリッ”という謎の音…退院前夜、病室に現れた“謎の老婆”がゴミ箱に捨てた《体の一部》とは

  • 2026.8.16
写真はイメージです。提供:アフロ

放送後にファンが小説、漫画、動画など、自由な形でリライトする独特のスタイルでも話題を呼んでいる、生配信サービス「TwitCasting」の怪談語りチャンネル「禍話(まがばなし)」。語り手であるかぁなっきさんが若い頃から集めに集めた実話怪談は、10年の節目を迎えた今年もいまだに尽きる気配がありません。

今回はそんな禍話から、神経質な中年男性が予期せぬ入院中に体験した奇妙で恐ろしい出来事をご紹介します――。


確かに聞こえる“音”と甦る記憶

写真はイメージです。提供:アフロ

張り詰める空気。

Aさんが息を殺して耳をそば立てていると――。

カリッ…………カリッ…………。

今度は2回音がしました。

子猫が爪を研いでいるような、生き物の気配を感じさせる音。

机の上に置いてあった、妻からもらった耳栓を取り出して、苛立たしげに耳に詰め込んだ瞬間、不意に小学生のときの記憶が蘇ってきました。

当時のAさんは汗をかきやすい、少しぽっちゃりとした体型の子どもでした。

緊張したとき、怒られたとき、誰かに見られていると感じたとき、首の後ろや背中からぶわりと汗が噴き出してくるのです。

体育館で全校集会があったあの蒸し暑い夏の日。

延々と終わらない校長先生の長話。

床板にこもる耐え難い熱。

後頭部ににじむ汗はやがて首筋を伝って落ち、体操服の背中を濡らしていきました。

「お前、背中びしょびしょじゃん」

背後から聞こえてきたクスクスというクラスメイトの嘲笑。

聞こえないふりをしたものの、汗はますます吹き出してくるばかり。

脇の下に伝う汗を止めようとしたのか、それとも嘲笑の視線に耐えかねたからか。Aさんが身をよじった瞬間、どこからかその声は聞こえてきたのです。

『デブ汗』

汗だくで布団から半身を起こしたAさん。彼は何かに突き動かされるように体をよじると、ベッドの下を覗き込もうと顔を横に出しました。そのときでした。

黄ばんだ灰色をした、10センチはあろうかという異様に長い爪としわくちゃの手。

それがベッドの支柱を爪でカリッ…………と撫でてから消えるのが一瞬見えたのです。

「うわぁ!!」

またしても汗だくでベッドから飛び起きたAさん。

外はまだ真夜中で、辺りはしんと静まり返っていました。

バクバクと激しく脈打つ心臓の音。

今度こそ本当に夢から覚めたのかという不安と共に垂れる額の汗。

硬く握り締めていた左手の中にはすでに押されたナースコールのボタンがあり、瞬間、Aさんの中に深い後悔と恥ずかしさがこみ上げてきたそうです。

悪い予感を振り払いながら眠った“最後の夜”

写真はイメージです。提供:アフロ

「はーい、どうされましたー?」

ほどなくしてやってきた看護師の女性と目が合ったとき、Aさんは自分の行動への恥ずかしさに言葉が詰まってしまいました。

「あ、いえ……ちょっとベッドの下から物音がした気がしたもので……」

汗だくで口ごもるその様は、かつての小学生のようでした。

「物音?」

ヒョイと頭をベッド下に潜らせた若い看護師さん。彼女はすぐに頭を上げ「何にもないですよ。お疲れで眠れないなら睡眠薬処方いたしましょうか?」と笑顔で問いかけてくれました。

「そ……そうですね、いただこうかな……」

「少し待っていてくださいね」

しばらくして渡された錠剤を水で流し込み、呼び出してしまったことを詫びつつ、Aさんは再びベッドに潜り込みました。

写真はイメージです。提供:アフロ

「よかったじゃない! 予定より早く退院だなんて」

「だいぶ炎症は治まっていたので、手術も必要ないと思いますよ」

翌日の昼、Aさんは医師からの嬉しい言葉を妻と共に聞いていました。

病気の回復を喜ぶ妻は、スマホで娘に電話をかけ始めています。

「念のため、今晩はこのまま泊まっていただき、明日の退院ということにしましょう」

これで自宅のベッドで寝ることができる……――医師の言葉に生返事をするAさんの内にあったのはその思いだけでした。

あのカリカリという奇妙な幻聴。心を苛む幼少期の記憶。

そして何より、あの不気味に黄ばんだ長い爪の夢。

夢だとわかっていてもいまだに寒気がするあの光景を振り払うように、Aさんは医師に精一杯の笑顔を向けました。

まぶたを開ける前から感じた気配

その日の夜。

Aさんは睡眠薬をもらわずとも、すでに眠気に身を委ね始めていました。

今回の入院で気づけたのは、こんなことで一気に心のバランスが壊れてしまう自分の脆さだ。小さな頃の汗と同じく、自分の心の弱さが漏れ出して人にバレるのがすごく怖かったのだろう……――Aさんは沈みゆく意識の中でそう考えていました。

彼を穏やかな眠りから引き戻したのは、小さな物音でした。

ゴソゴソ……。

誰かが自分の部屋の中で動き回っている……まぶたを開ける前から感じた気配。

ぼーっとした意識の中でゆっくりと目を開けると、老婆が箒で部屋を掃除していました。

「あら、起こしてしまったかしら。すみませんねぇ」

「あ、いえ、ご苦労様です……」

こちらの返答にぺこりと小さく会釈を返したその女性は、視線を床に落としてまた黙々と掃き掃除を始めました。

写真はイメージです。提供:アフロ

部屋の電気は消えたまま。

自分はまだ夢を見ているのだろうか? ――よく夢の中で夢だと気づくと金縛りに遭うと言いますが、そういったこともありませんでした。

「じゃあ、掃いたの、ここに入れちゃいますね」

そう言ってこちらに微笑んだしわくちゃの笑顔。

彼女はちりとりの中身をベッド脇の背の低いゴミ箱にザラザラザラザラ……と流し入れました。

「失礼しました」

彼女は背を向けてトコトコと扉の方に歩いていくと――。

バンッ!

というやたら激しい音を立てて扉を閉めました。

扉には緩衝材が付いているのに、あんなに大きな音が鳴ることがあるのだろうか。というよりも、よく考えるとあの女性の服装は看護師でもなんでもなかったのでは――。

「誰……?」

翌朝、ゴミ箱のビニール袋から見つけたものは…

写真はイメージです。提供:アフロ

青白い月明かりの中で呆然としていると、扉の向こうからパタパタと駆けてくる音が近づいてきました。

ガラリ。

「大きな音がしたけど、どうかされました?」

いつもの若い看護師の女性が扉を開けていました。

「いや……ああ、別に大丈夫です。すみません」

「そうですか。えっと、じゃあ、おやすみなさい」

「はい」

◆◆◆

翌朝。

早くに目覚めてしまったAさんが、妻が迎えにくるまでに退院の準備をそそくさと進めていると、夜勤明けのあの看護師の女性と目が合いました。

「Aさん、今日で退院ですね~」

「ええ、おかげさまで」

なんだか浮かないAさんの表情に、看護師の女性は気がつきました。

「どうかされました?」

「あの……昨日の夜、何か大きな音が聞こえたりしましたか?」

「え? うーん、あ、そうそう、しましたよ。だから少し見に来たんです」

『じゃあ、掃いたの、ここに入れちゃいますね』

突然、全身の毛が総毛立つのを感じて、Aさんは体を捻ってベッド脇のゴミ箱を見ました。

「ど、どうされたんですか?」

駆け寄る看護師さんの言葉をよそに、Aさんの視線はゴミ箱の中に釘付けになっていました。

「……なんですか、この長い爪」

くしゃくしゃのビニール袋の中。

Aさんが丸めていた数枚のティッシュの上に、黄ばんだ灰色をした10センチはあろうかという異様に長い爪が、10本ほど捨てられていました。

その後、Aさんは無事に退院して今も元気に職場で働いているそうですが、入院前よりも口ごもることが増え、事あるごとに激しく汗をかくようになり、寝る前に必ずベッドの下を確認するという奇妙な癖が抜けなくなってしまったのだそうです。

文=むくろ幽介

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