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「きっと、幻聴だ…」胆のう炎で入院した男性を心を追い詰めた、誰もいない病室で聞こえてくる“ベッドの下の音”

  • 2026.8.16
写真はイメージです。提供:アフロ

猟奇ユニット「Fear飯」のかぁなっきさんが収集した実話怪談の数々を、聞き手であり映画ライターでもある加藤よしきさんに語り聞かせる人気の怪談ネットラジオ「禍話(まがばなし)」。生配信サービス「TwitCasting」で2016年に始まり、今年で記念すべき10年の節目を迎えた同番組は、ホラー界隈から変わらぬ熱い支持を受けています。

本記事ではそんな禍話から、ある病院に入院していた患者が体験した、恐ろしすぎる出来事をご紹介します――。


Aさんの身に降りかかった突然の痛み

写真はイメージです。提供:アフロ

Aさんは都内のある中小企業で長らく経理課長を務めてきた50代のベテラン男性社員で、当時はやや人けの少ないエリアに妻と2人でひっそりと暮らしていました。

勤務態度は真面目一徹。

きっちりと仕事をこなすことはもちろんのこと、同僚に対して人当たりを良くする心配りにも彼の誇りは宿っていました。経理課にたまにやってくる新人社員たちから「Aさんとお話しするとなんか息抜きになります……」と言われると、自分の努力が報われるようでした。

これまで、何度も昭和的な空気が残る職場を経験してきたにも関わらず、今の職場では残業を良しとしておらず、その日の仕事はその日のうちにという、ある意味で令和的な感性を持ち続けていました。こうした部分に若い社員たちは好感を抱いたのかもしれません。

子どもは娘が1人いましたが、今は近隣の県の大学付近で一人暮らしを満喫中。自分を慕ってくる、娘とさほど年の変わらない社員たちと接していると、少し娘に会いたい気持ちを覚えることもありました。けれど、自分が若いときも過保護な親には困らされたので、やたらと電話したくなる気持ちをグッと堪えて日々を過ごしていました。

そんなAさんに、ある日予期せぬトラブルが降りかかったのです。

「うっ……いた、いたたたた……」

「大丈夫!?」

「いや、なんかお腹が……」

いつもの妻との夕食中に急に襲ってきた腹部の痛み。ここ最近は胃もたれしがちだったので、それが少し強まっただけだと妻に強がってみせたりもしたAさんでしたが、すぐに余裕はなくなり、額には苦痛を我慢するうちに脂汗が滲み出ました。

「えーっと、結論から申しますと、懸念されていた胃の病気というより、胆のうの炎症でほぼ間違いないですね」

翌日、緊急外来に駆け込んで検査を終えたAさんは、ベッドの上で腹を押さえたまま、かたわらに立つ医師の言葉を妻と共に聞いていました。

「胆のう、ですか」

写真はイメージです。提供:アフロ

「胆のう、ですか」

「はい。血液検査で炎症の反応が上がっていますし、超音波とCTで確認したところ胆のうに石がありました」

「胃がんとかじゃないんですね……よかった」

小さく安堵のため息を吐いたAさんの妻。

「はは、お気持ちはわかりますが、よかったって言うのは旦那さんがかわいそうですよ! まあ、痛みの場所がみぞおちに近いので胃の病気だと思われたのでしょう。痛みの反応が強いようなので、このまま入院していただき、お薬と点滴をしつつ数日から1週間ほど様子を見て、症状が改善しないようであれば手術も検討する必要があります」

大病ではないことに安堵すると同時に、入院や手術の可能性という医師の言葉がAさんに重くのしかかったそうです。

とはいえ、まずは早く治すことが先決。Aさんはすぐに会社に連絡を入れ、予期せぬ入院生活が幕を開けました。

◆◆◆

そこからはあっという間でした。

会社への仕事の引き継ぎや入院準備は想像以上に手早く済んでしまったうえに、病気が病気だったので食事はなしということで、気分転換にすらならない点滴をひたすら打たれるのみ。普段からあまりスマホをいじるタチでもなかったのと相まって、Aさんは瞬く間に手持ち無沙汰に陥ってしまいました。

こうなると、やることといえば寝ることだけ。昼間から柄にもなくウトウトと過ごす日々を繰り返すうちに、Aさんは夜に寝付けなくなってしまったそうです。

ひとりきりの病室で眠れない夜

写真はイメージです。提供:アフロ

加えて不運だったのが、緊急入院時に通された個室から大部屋に移ることを提案された際、他人がいるところで寝るのも嫌だと、つい『この部屋で大丈夫です』と言ってしまったことでした。

結局のところ、孤独な時間を狭い部屋で過ごす以外に彼に道はなかったのです。

その日の夜もAさんは少し開けたカーテンの隙間から、青白い月明かりをボーッと眺めていました。

「参ったなぁ、こりゃ……」

妻が買ってきてくれたアイマスクや耳栓も試してみたのですが、眠れないものは何をしても眠れません。

時間の感覚は曖昧になり、それが余計に眠りを妨げていく。

無音の中で耳の中に響く、キーーーーーン……という耳鳴り。

それは実際の耳鳴りなのか。はたまた、自分の頭の中で“耳鳴りの音”として想像しているだけのものなのか。

誰もいない病棟端の小さな個室の静寂は、その答えをAさんから奪い去っていきました。

カツ…………。

不意に部屋の引き戸の向こうから、かすかな足音が聞こえたような気がしました。

ベッドに横たわったまま、誰に見られているわけでもないのに寝たふりをしながら耳を澄ませてはみたものの、続くはずの足音は聞こえてきません。

カリッ…………。

今度は、自分のベッドの下で小さな物音がして体を小さく震わせてしまいましたが、やはり続く音は聞こえてきません。

「はぁ……」

布団を被り直して深いため息をついたAさんは、自分の繊細さに初めて気付かされたそうです。

「きっと、幻聴だ」

写真はイメージです。提供:アフロ

「なあに、それ。まだ数日しか経っていないのに、ずいぶん神経質になっちゃって」

翌日のお昼。見舞いに来た妻に夜中の物音のことを話すと、軽くあしらわれてしまいました。

「大丈夫よ。病気の方だって快方に向かっているって先生が言っていたのだし、もう少しの辛抱よ」

「まあ、そうだといいんだけどさ……」

「じゃあ、また2日後に来るから、必要なものがあったらスマホでメッセージ送ってね。送り方はもうわかるでしょ?」

「わかってるよ。ありがとうな」

Aさんは物音に過剰に反応していた自分が少し間抜けに思えたそうです。

病室から消えていく妻の背中を見つめながら、自分は毎日のように周りに気を張って生きてきたのかもしれない、そんな思いが去来しました。

小さい頃から周りの目を気にしながら過ごし、今の仕事に就いてからも、後輩たちが嫌な思いをしないように常に自分を見つめ直しながら、有害なおじさんとレッテルを貼られないように努力を重ねてきました。

「目端が効くことは、自分としては利点と思ってきたんだがなぁ」

孤独な病室があっという間に夜の闇に包まれてからも、そんな思いが心の中に漂い続けていたそうです。

『肩こりがひどすぎて痛みに気がつかないんですよ』

入院前に行ったマッサージ屋で、そんな風に言われていたっけ……。

「きっと、幻聴だ」

小さく笑みをこぼし、仰向けに寝直したとき――。

カリッ…………。

ベッドの下から、また小さな音が響きました。

文=むくろ幽介

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