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「あなたはもう開かれました」…山奥の廃旅館で見つけた“黄色い紙の束”に書かれていた異様な文章と姿を消したAくんが担った“役割”

  • 2026.8.14
写真はイメージです。提供:アフロ

北九州で書店員として働くかたわら、趣味で集め続けた実話怪談は3000話以上。生配信サービス「TwitCasting」の怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」の語り手・かぁなっきさんが織りなす怪談たちは、放送開始10年の節目を迎えても変わらずホラーファンの心をつかみ続けています。

今回はそんな実話怪談コレクションの中から、廃墟探訪に来た学生たちが発見した“黄色い紙”にまつわるお話をご紹介します――。


民俗研究会がひそかに行っていた“裏活”

その民俗学研究会には10人ほどのメンバーが在籍していましたが、普段の郷土伝承調査とは違い、“裏活”に参加しているのはグループの中心だったBさんたち6人ほどのメンバーでした。

あまり公になっていない心霊スポットや廃墟を探訪するという名目で始まったその裏活は、許可を取っていない廃墟に忍び込むという性質上、サークル内でもとりわけ仲の良いメンバー同士でひっそりと行われていたのです。

物々しく聞こえる裏活ですが、その実態はBさんたちがひっそりと行っていた小旅行のようなもので、廃墟で幽霊らしきものや怪奇現象を捉えられなくても、別に大きな問題はありませんでした。

しかし、ある年のお盆の時期に行った裏活は、それまでのものとは明らかに異なっていたのです。

写真はイメージです。提供:アフロ

その廃墟の存在を最初に嗅ぎつけたのは、Bさんが親交を持っていた他大学のオカルト研究会のメンバーでした。

ある地方の山奥でいまだ解体されていないというその廃旅館には、特段不気味な噂や事件などはありませんでした。しかし、研究会が自治体に確認したところ、頑なに解体を行わない理由を語らぬばかりか、『あの旅館の話はあまりしたくないんです』と一方的に電話を切られたというのです。

その廃旅館にただならぬものを感じていたオカルト研究会メンバーでしたが、結局他のメンバーとのプレゼン競争に負けて実地調査は見送りとなり、Bさんたちのサークルに話がまわってきたというわけでした。

“裏活”当日。一同は廃旅館へ…

写真はイメージです。提供:アフロ

そうして始まったその年の“裏活”当日。一同は懐中電灯で照らしながら、風雨にさらされて朽ちた廃旅館の中を抜き足差し足進んでいました。

「ねえ、ここ地下への階段があるよ!」

「いや、数段朽ちて抜けてるし、そこは危なすぎる」

慎重に進む一同は、その廃旅館に抱いていたある違和感に気がつきました。

「物が全部そのまま残されている……」

「夜逃げ、みたいな感じかな……」

旅館から突然人だけがパッと消えてしまった、そんな生々しさがあったのです。

一部屋、また一部屋と探索を進めていった果てに、一同はついに最後の客室にたどり着きました。

「あとはここだけか。不気味だったけど、まあ普通の廃墟だったね」

「この夜逃げぶりを見るに、解体できないのは、なんか自治体との後ろ暗い金銭トラブルがあったって感じなのかな」

すでに探索を終えたような安堵感と気の緩みを覚えていたBさんたち。しかし、最後の部屋の扉を開けた彼らの目に飛び込んできたのは、これまでとは違う光景でした。

「え、うわ!」

その部屋にだけ床に布団が敷かれていたのです。

しかも、その周りにはペットボトルやビニール袋が散乱しており、部屋の乱れ具合から見て明らかに“人が住んでいた”形跡があったのです。

恐る恐る中に足を踏み入れると、部屋にはほのかにすえたような匂いとカビ臭さが充満しており、明らかにそれまでの部屋とは違っていました。

「ちょっと前までホームレスの人とかが住んでいたのかな……」

「ばったりご本人と遭遇、なんてことにならなくてマジでよかったかも」

乱暴にめくれた布団。そこに明かりを向けたとき、何か明るく目につく物が見えました。

「なんだ、それ?」

懐中電灯を向けていたBさんの言葉を受けて、メンバーの1人だった男性のEさんが、敷き布団の下から顔を出していたそれを拾い上げると、黄色い紙の束とわかりました。

散らばった紙にびっしりと書かれた文字

写真はイメージです。提供:アフロ

「なんかの資料?」

「わかんない、なんだろう……」

「なんか書いてあるね。細かい文字で――」


この世はなんてひどいことにまみれているのでしょう。
私は大げさに見えますか。けれど実際にそうなのです。
誰かがどこかで決めています。決めた人間は名前を出しません。こちらだけに名前を書かせるのです。神様と呼ばれているもの(もしかすると先生とか、母とか、責任者とか?)が、あえて私たちを試しているのです。
なので、私は探し出すことにしました。毎日駅前のコンビニの陳列棚の奥(とりわけ飲み物コーナーの奥が怪しい)や、求人雑誌の中や、私の方を見てくるやつの瞳の奥などをチェックしました。
この文章を書くのに黄色を使ったのは目立つからです。
私は気づいてほしい。窓は開けるものではなく、向こうがこちらを見るためにあるのです。壁に穴があるのはおかしいですよね。明かりとりとか換気とか、そういう言葉でごまかしているのです。みんな見ていない。でも気持ちもわかります。人は知らない場所に来ると笑いますから。怖いときにも笑います。
中が見える。中が見えたら、もう人ではなくなります。簡単に名前を書かないでください。区別されてしまいます。(わかるとは思いますが念のため)
選ばなかったほうが残るのです。残ったものは燃やしても残ります。灰は軽いのでいろいろなところへ行くことができます。
最後まで読むのはよくありません。終わりは責任者たちが作った嘘です。
この文章も読み終わることはありません。紙は読むものではなく開くものです。開いたものは閉じても同じではありません。
この世はなんてひどいことにまみれているのでしょう。
こんなひどいことはない。あなたはもう開かれました。


黄色い紙の束にビッシリと記された意味不明な鉛筆の文字。

思わず手を離してバサリと音を立てて散らばった黄色い紙の束。

その全てに同じような文章が隙間なく記されていました。

「これ全部……ここにいた奴が書いたのか?」

「ねえ、もう帰ろう。ここ気持ち悪い感じする……」

「Aなら、さっき『地下に行く』って言っていたよ」

すっかり意気消沈してしまったBさんたちは、来た道を引き返して廃旅館を後にすることに決めました。

行きに楽しげに交わしていた会話は鳴りを潜め、今や一同の間に漂うのは居心地の悪い沈黙だけ。

その沈黙に耐えかねたBさんが口を開こうとして、すぐ後ろを歩くメンバーの方を振り返った、そのときでした――。

メンバーの1人だったAさんという男性の姿がないことに気がついたのです。

一同が口々に焦りと憶測を漏らす最中、不意に先ほど紙を拾ったEさんがこんなことを言い始めました。

「Aなら、さっき『地下に行く』って言っていたよ」

写真はイメージです。提供:アフロ

その予期せぬ言葉に固まってしまったBさんでしたが、むらむらと怒りが湧き上がり、思わずEさんにつかみかかりました。

「は? お前、Aのこと見てたの?」

「…………」

「おい、黙ってないでなんか言えよ!」

「ちょ、ちょっと待って……俺、今……なんで……」

「え……?」

「なんで、Aが地下に行ったなんて言ったんだ……。お、俺さ、Aがそんなこと言った記憶ないんだけど……」

突然消えたAさん。不意にEさんの口をついて出た不可解な言動。

矢継ぎ早に起きる異常事態に、メンバーの何人かは激しく取り乱して泣き始め、一同は完全にパニックに陥ってしまいました。

ですが、彼らに降りかかる説明不能な怪奇現象はこれだけでは終わりませんでした。

文=むくろ幽介

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