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声なき声が物語になる瞬間を、ともに。作家・小林エリカと椅子

  • 2026.8.6

インスピレーションの源となったり、長時間の作業を支えたり。豊かな表現が生まれる現場には、必ずクリエイターが信頼を寄せる椅子がある。作家、アーティスト・小林エリカさんの自宅を訪ね、日々腰をかける一脚について話を聞いた。

photo: Kasane Nogawa / text & edi: Yuriko Kobayashi

作家・小林エリカさんと椅子
BRUTUS

声なき声が物語になる瞬間を、ともに

「この椅子を見ると2匹の猫を思い出す」と笑う小林エリカさん。〈ハーマンミラー〉のアルミナムチェアは腰痛を消してくれた救世主だ。

「長くダイニングの椅子で仕事をしていたせいか腰痛がひどくて。2011年頃、岡山で取材中に、近くにいい椅子を扱う店があると聞いて、おすすめを買いました。その時に仔猫を拾ったので、椅子と猫がセットの記憶なんです(笑)」

小説やイラスト、インスタレーションと幅広い活動を行う小林さん。午前中に小説を執筆し、午後にほかの作業を行うことが多い。

「作家はずっと椅子に座っていると思われがちですが、私は史実を基に創作をするので、外でリサーチする時間の方が長いですね」

太平洋戦争末期、風船爆弾作りに動員された女学生たちを描いた『女の子たち風船爆弾をつくる』ではリサーチに約6年を費やした。

「風船の素材だった和紙や糊の原料に使われたコンニャクイモ、それぞれ製造や栽培の現場に足を運んだことで、匂いや色、質感がよくわかりました。史実を基にするので、できる限りディテールを忠実に表現したい。お話を聞かせてもらうことも大切にしています」

この椅子に座る時、小林さんの中には、これまで語られず、“なかったこと”にされてきた無数の声や風景が立ち現れる。その瞬間、過去と現在は地続きになり、伝えるべき誰かの記憶が書き残される。

作家・小林エリカ
創作を行うのは主に都内にある共同アトリエ。座面の高さを調節できるアルミナムチェアは姿勢が良くなり、腰への負担も少ないそう。

profile

小林エリカ(作家、アーティスト)

こばやし・えりか/丹念なリサーチに基づく史実とフィクションから多様な創作活動を行う。小説『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)で第78回毎日出版文化賞を受賞。

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