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『オークストリートの異変』公開前に知りたい!夢のような奇妙な世界を紡ぐ鬼才、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督とは

  • 2026.8.2

8月14日(金)の公開が近づいてもほとんど情報が出ていない、ベールに包まれた作品として話題を集めている『オークストリートの異変』。製作を務めたJ・J・エイブラムスはもちろん、映画ファンにとって見逃せないのが、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の存在だ。カンヌを騒然とさせた怪作『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)以来、実に8年ぶりの待望の新作ということで、鬼才デヴィッド・ロバート・ミッチェルとはいったい何者なのか…?ここでそのキャリアを振り返っていきたい。

【写真を見る】謎多き今夏の注目作『オークストリートの異変』を撮った鬼才監督のこと知ってる?

名作の続編をオリジナルで妄想!映画大好きなキャリアをチェック

【写真を見る】謎多き今夏の注目作『オークストリートの異変』を撮った鬼才監督のこと知ってる? Photo By: Dee Cercone/Everett Collection
【写真を見る】謎多き今夏の注目作『オークストリートの異変』を撮った鬼才監督のこと知ってる? Photo By: Dee Cercone/Everett Collection

1974年にミシガン州で生まれ育ったミッチェルは、小さい頃から映画業界を志し、オリジナルの『ゴーストバスターズ2』を執筆するなど中学生の頃に脚本作りをスタート。高校生になると短編映画を撮り始め、その後はフロリダ州立大学、ウェイン州立大学で映画を勉強。ロサンゼルスに定住すると、映画の予告やコマーシャルを手掛ける編集者やマーケティングの仕事から業界に足を踏み入れた。

2002年には聖母マリアの幻影を見た人物が真実の愛を追い求めるという短編『Virgin』を手掛けると、2010年に『アメリカン・スリープオーバー』で長編デビューを果たし、映画監督としてのキャリアを本格的にスタートさせた。

青春のきらめきを切り取った『アメリカン・スリープオーバー』

ミッチェル監督のキャリアの本格的な出発地点となった『アメリカン・スリープオーバー』 [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection
ミッチェル監督のキャリアの本格的な出発地点となった『アメリカン・スリープオーバー』 [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection

記念すべき長編1作目となった『アメリカン・スリープオーバー』は、アメリカではおなじみのティーンカルチャー“スリープオーバー(お泊まり会)”を題材に、新学期を控えた夏の終わりを過ごす少年少女たちのひと時をみずみずしく描く青春群像劇。

アメリカの夏休みの定番イベント、お泊まり会をテーマにしている『アメリカン・スリープオーバー』 [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection
アメリカの夏休みの定番イベント、お泊まり会をテーマにしている『アメリカン・スリープオーバー』 [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection

舞台となるのは監督が生まれ育ったデトロイト郊外の小さな街クローソン。同世代とのスリープオーバーを蹴って年上のパーティに参加するおませな少女、スーパーで一目惚れした女性を探してパーティを渡り歩く少年、帰省中に再会した双子の姉妹の間で揺れる大学生、なじむために参加したスリープオーバーで問題を起こしてしまう転校生の少女…という4人を中心に、ほろ苦くも淡い一夜が紡がれていく。

好意を向ける双子の姉妹などキャラクターもどこか独特だ(『アメリカン・スリープオーバー』) [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection
好意を向ける双子の姉妹などキャラクターもどこか独特だ(『アメリカン・スリープオーバー』) [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection

無邪気に好意を向けてくる双子の姉妹をはじめとするキャラクター像に加え、リアルと幻想が入り混じった手触り、希望と諦念を行き交うようなエモーションなど、『The Myth of the American Sleepover』というタイトルの通り、ティーンが織りなす美しくも気まぐれな青春模様を俯瞰した視点から“神話”として描いた。

一目惚れした美女を追う少年など4人のキャラクターを軸にした群像劇(『アメリカン・スリープオーバー』) [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection
一目惚れした美女を追う少年など4人のキャラクターを軸にした群像劇(『アメリカン・スリープオーバー』) [c]Sundance Selects/courtesy Everett Collection

その名を一躍知らしめたホラー『イット・フォローズ』

インディペンデントゆえに知る人ぞ知る作品だった『アメリカン・スリープオーバー』から4年、日本でその名を知らしめたのが『イット・フォローズ』(14)。捕まると死んでしまう正体不明のなにか「それ」に付け回される若者たちを恐怖が襲うホラーだ。

少女を襲う呪いを描いた『イット・フォローズ』 [c] RADiUS-TWC/courtesy Everett Collection
少女を襲う呪いを描いた『イット・フォローズ』 [c] RADiUS-TWC/courtesy Everett Collection

大学生のジェイ(マイカ・モンロー)は、デートを重ねた男性と一夜を過ごす。しかしその後気絶させられ、椅子に縛られた状態で目を覚ますと、性行為によってある“呪い”をうつされたことを知る。その呪いとは、様々な人間に姿形を変え、歩きながら迫ってくる「それ」に死ぬまで追いかけられるというもの。友人や妹たちと共に「それ」から逃げるジェイだったが、逃げるだけの状況に痺れを切らし、ついに反撃を決意する。

『大アマゾンの半魚人』(54)や『エルム街の悪夢』(84)、『遊星からの物体X』(82)など、監督が好む名作のエッセンスに対し、セックスを媒介に広がっていく脅威という設定は斬新。また呪いを移しても相手が死ねば戻ってくるという不条理さ、ティーンの抱える漠然とした不安感など、人生につきまとう要素を不穏な映像を介して巧みに表現した手腕は、インディペンデント・スピリット賞で監督賞にノミネートされるなど高く評価された。

ゆっくりとモンスターが襲いかかるという『イット・フォローズ』との共通点を持つ『大アマゾンの半魚人』はミッチェル監督お気に入りのホラー [c]Everett Collection/AFLO
ゆっくりとモンスターが襲いかかるという『イット・フォローズ』との共通点を持つ『大アマゾンの半魚人』はミッチェル監督お気に入りのホラー [c]Everett Collection/AFLO

陰謀論にハマるオタク青年を描くL.A.ノワール『アンダー・ザ・シルバーレイク』

『イット・フォローズ』で大ブレイクを果たしたミッチェル監督が、アンドリュー・ガーフィールドを主演に迎え、A24から放った怪作が、ハリウッドの闇に囚われていく青年をノワール調で描いた『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)だ。

オタク青年がL.A.の奇妙な世界に踏み込んでいく(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection
オタク青年がL.A.の奇妙な世界に踏み込んでいく(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection

ロサンゼルス・シルバーレイク、家賃滞納もお構いなしに仕事に就かず空虚な生活を送るオタク青年のサムは、向かいに越してきた美女のサラ(ライリー・キーオ)に一目惚れ。デートの約束を取り付けた矢先、サラは忽然と姿を消し、部屋ももぬけの殻に。そこで謎めいた暗号を見つけたサムは、巷で起こる大富豪の死や犬殺しといった事件と彼女の失踪を結びつけ、探偵気分で陰謀めいた謎の裏側に迫っていく。

ここでも美女に一目惚れした青年が彼女を探し求め、街を彷徨い続ける(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection
ここでも美女に一目惚れした青年が彼女を探し求め、街を彷徨い続ける(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection

『ロング・グッドバイ』(73)や『めまい』(58)、『チャイナタウン』(74)といった作品に加え、ブライアン・デ・パルマ的な演出やデヴィッド・リンチ的LA観、さらにはトーマス・ピンチョンの陰謀小説など、多彩な影響が随所に見え隠れする本作だが、その着想元は「金持ちは丘の上に家を構えてなにをしているのか?」という監督の疑問。

仕事もないのにフラフラし、趣味は覗きという空虚な主人公サム(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection
仕事もないのにフラフラし、趣味は覗きという空虚な主人公サム(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection

ポップカルチャーの光と闇を紡ぎ出していくハリウッド暗黒ノワールは、徐々に謎に迫っていく過程や不穏かつ空虚な手触り、多彩なエッセンスがないまぜになった荒唐無稽さも心地よい。カンヌでの評価はイマイチだったため再編集することになるなど、賛否両論を集める愛すべきカルト作となった。

夢のような世界観、水、通過儀礼…ミッチェル作品の共通点を探る

キャリアを通じて多彩なジャンルを手掛けているミッチェル監督(『オークストリートの異変』) [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
キャリアを通じて多彩なジャンルを手掛けているミッチェル監督(『オークストリートの異変』) [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

「常にチャレンジしたい。すべてのジャンルに対して作りたい映画のアイデアがある」と語るように、青春、ホラー、ノワールと、作品ごとに異なるジャンルの映画を作り、観る者に新鮮な驚きを与えてきたミッチェル監督。内容はガラッと異なるが、たしかに同じ作り手だということがわかるような独特の雰囲気がどの作品にも漂っている。

共通して感じられるのは「夢のような幻想的な手触り」。海外の掲示板サイト「Reddit」に本人が降臨した際、「映画は夢のようなもの」と元も子もないことを言ったが、『イット・フォローズ』が子どもの頃の悪夢から着想を得たように、ミッチェル監督の作品はどれも浮世離れしている。

危機的状況にもかかわらず頼れる大人がまったく登場しない(『イット・フォローズ』) [c] RADiUS-TWC/courtesy Everett Collection
危機的状況にもかかわらず頼れる大人がまったく登場しない(『イット・フォローズ』) [c] RADiUS-TWC/courtesy Everett Collection

例えば『アメリカン・スリープオーバー』と『イット・フォローズ』で描かれるのは、ほとんど大人が出てこない子どもだけの世界。また『アンダー・ザ・シルバーレイク』でも働いている様子はないのに、気にせず過ごしていたりと日常生活的なリアリティが意図的に薄められている。

さらにほとんどの作品で携帯電話を登場させない一方、『イット・フォローズ』に貝殻型の電子書籍リーダーを登場させたりと、小道具などの細部に違和感を織り混ぜることで時代感を排除。少し現実を歪ませた世界を作り上げているのだ。

プールや水が印象的に用いられ、生と死の象徴など様々な解釈を生みだしている(『イット・フォローズ』) [c] RADiUS-TWC/courtesy Everett Collection
プールや水が印象的に用いられ、生と死の象徴など様々な解釈を生みだしている(『イット・フォローズ』) [c] RADiUS-TWC/courtesy Everett Collection

また水やプールが繰り返し登場するのもミッチェル作品の特徴の一つ。「水が動く様子や波の音が大好き。特別な感覚を生みだし、別世界へと連れて行ってくれる。観客になにかを示唆したり伝えたりするうえで非常に役立つ」と語るように、水面の反射や揺らぎ、音を印象的に用いることで、登場人物の感情の機微を静かに浮かび上がらせている。

そのうえ、偶然かはたまた意図的か、作品ごとに子どもから大人への成長がだんだんと積み重ねられている。子ども時代を描いた『アメリカン・スリープオーバー』では青春のきらめきと迫り来る終わりの予感、そして大学生が主人公の『イット・フォローズ』では、若者たちがセックスや理不尽といった人生との直面を経験する。

主人公サムを演じるのはアンドリュー・ガーフィールド(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection
主人公サムを演じるのはアンドリュー・ガーフィールド(『アンダー・ザ・シルバーレイク』) [c] A24 /Courtesy Everett Collection

『アンダー・ザ・シルバーレイク』が描くのも、大物になりたいという漠然とした夢を抱えながらも燻り続けている青年が陰謀論に現実逃避しながら少しばかり成長する――大人としての責務を果たせないモラトリアム期だ。このような通過儀礼的な側面もミッチェル印と言えるだろう。

『オークストリートの異変』はどんな映画に?

そして最新作となる『オークストリートの異変』。本作は、平和な街オークストリートに暮らすプラット一家が、ある日を境に水道も電気も止まり、そして恐竜が現れるという不可思議な経験をすることに…と言ってしまえばトンチキな話だ。予告を観る限り、ストリートの端が崖のように断絶し、その周りには緑が生い茂っており、「漂流教室」よろしく、街ごとどこか違う時代へと飛ばされてしまったのか…など、いろいろと想像させられる。

『オークストリートの異変』は8月14日(金)より公開 [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
『オークストリートの異変』は8月14日(金)より公開 [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

ユアン・マクレガーとアン・ハサウェイが共演し、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)がエフェクトを手掛けるなど、これまでの作品と比べ物にならないくらいのビッグバジェットだが、ミッチェル監督の持ち込み企画というから驚き。「近所のガレージとゴミ箱を眺めていた際に、ここに恐竜が現れたら、自分はどう反応するのかと想像した」ことをきっかけに物語を紡いだそう。

まだわからないことだらけだが、予告からはミッチェル監督のらしさも感じ取れる。例えば、『アンダー・ザ・シルバーレイク』でも見られた敬愛するブライアン・デ・パルマ流のスプリット・ディオプター・ショット(遠近の両方に焦点を合わせる)を用いて、不穏な緊張感を作り上げている。

また子ども時代、大学生、モラトリアム青年ときて、今回初めてしっかりとした大人、家族というものが描かれることになる意味では、「恐竜」というまったく異なるジャンルだが、これまでの延長線上に並べられる作品なのかもしれない。

ミッチェル作品で初めて家族が描かれるであろう『オークストリートの異変』 [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
ミッチェル作品で初めて家族が描かれるであろう『オークストリートの異変』 [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

『オークストリートの異変』に加え、ナオミ・アッキー、ジャッキー・アール・ヘイリーなどキャストもパワーアップした『イット・フォローズ』の続編『They Follow』の撮影がこの夏からスタート予定と、今後も楽しみなデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督。今回の新作を機に、ぜひ彼の過去作もあわせてチェックし、その掴みどころのない世界観に酔いしれてほしい!

文/武藤龍太郎

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