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「誰か、声をかけないのかな」杖の高齢者に気づかないふりを続けた男性。だが、他の乗客の行動で空気が一変

  • 2026.7.31
「誰か、声をかけないのかな」杖の高齢者に気づかないふりを続けた男性。だが、他の乗客の行動で空気が一変

夕方の車内で聞こえた声

仕事帰りの車内は、立っている人の肩が触れ合うくらいの混み具合でした。

誰も喋らず、みんな静かに揺られています。聞こえるのは、レールの継ぎ目を渡る音だけでした。

途中の駅で乗ってきた男性が、車両の端に目をとめました。

優先席がひとつ、ぽっかり空いていたのです。

人をかき分けるようにして、男性はその席に腰を下ろします。

すぐに鞄からスマートフォンを出し、画面に目を落としました。

私は少し離れたドアの脇に立って、それを見ていました。

次の駅で、扉が開きます。

杖をついたお年寄りが、ゆっくりと乗ってきました。

片手で杖を、もう片方の手で吊り革を掴み、体を支えるようにして立ちます。

電車が揺れるたび、杖の先が床の上で小さく滑りました。

誰も何も言えないまま

優先席の男性は、顔を上げませんでした。

画面をなぞる指だけが、規則正しく動き続けています。

周りの人たちが、ちらちらとそちらを見ているのが分かりました。私も見ていました。

(誰か、声をかけないのかな)

そう思いながら、自分の口も動かないのです。

知らない人に注意する。たったそれだけのことが、どうしてもできませんでした。

ひとつ、駅を過ぎます。ふたつ、駅を過ぎます。

降りる人と乗る人が入れ替わっても、優先席のあたりは何も動きません。

お年寄りは吊り革に体重を預けたまま、じっと前を向いていました。

三つ目の駅を出たときでした。

向かい側の席に座っていた若い女性が、鞄を肩にかけて、すっと立ち上がったのです。

立ち上がった人

女性はお年寄りのそばまで歩いて、体を少しかがめました。

「よかったら、こちらへどうぞ」

「ああ、すみませんねえ」

「ゆっくりで大丈夫ですよ」

女性は杖を持つ手に軽く添えて、席まで一緒に歩きます。

お年寄りが腰を下ろすのを見届けてから、ドアの近くまで下がっていきました。

「ありがとう、助かりました」

「いえ、私もすぐ降りますので」

その動きひとつで、車内の空気が変わったのです。

次の駅で人が乗ってきたとき、立っていた人たちが、誰に言われるでもなく体をずらして通り道をつくります。

ベビーカーを押した人が、そのまま奥まで入っていけました。

優先席の男性は、最後まで顔を上げないままでした。

数駅先で立ち上がり、画面を見たまま降りていきます。呼び止める人も、責める声もありませんでした。

私も、結局は何も言えなかった側です。

あの日から電車に乗ると、まず優先席のあたりへ目が向くようになりました。

あの女性のように、黙って立てる人になりたいのです。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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